『虎に翼』が問う“いい男”とは? 紳士的な岩田剛典と“例外”の戸塚純貴の違いを考える

彼の言動には真心がこもっているか、それとも。NHK連続テレビ小説『虎に翼』第4週が幕を開け、初日の放送となる第16話で岩田剛典演じる花岡悟が本格登場となった。その爽やかな好青年ぶりに寅子(伊藤沙莉)たちは惚ける一方、SNSでは「胡散臭い」「裏がありそう」「逆に不気味」等々、過剰とも言える彼の紳士的な振る舞いを警戒する声が多く挙がっている。

互いに弱音や怒りを吐き合いながら、無事に明律大学女子部を卒業した寅子、よね(土居志央梨)、涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)。5人は全員、“本科”と呼ばれる明律大学法学部にそのまま進学。昭和8年の弁護士法改正により、翌年から女子も正式に弁護士になるための試験を受けられるようになったことで、寅子たちは一段と気合が入る。女子部とは違い、本科では男子学生と一緒に授業を受けるのだから舐められないようにしなくちゃいけない。気を引き締めて教室に向かった5人を待ち受けていたのが、男子学生の花岡だ。

シャラ~ンという効果音とともに登場した花岡から「皆さま、お待ちしておりました」と貴公子のような微笑みを向けられた寅子たちは思わず拍子抜け。女子部にいた頃は、男子学生たちから散々魔女だなんだのと幼稚なからかいを受けてきたのだから無理もない。けれど、花岡は終始紳士的で、寅子たちに法曹界や男女平等の世を切り開く開拓者として最大限のリスペクトを払う。あの警戒心強めのよねですら一瞬気が緩んでしまうほど、花岡は相手の戦意を喪失させる不思議なパワーを持っていた。

そんなよねの「すぐに化けの皮が外れる」という予想も大外れし、寅子たちの本科での日々は穏やかに過ぎ去っていく。花岡の影響もあってか、他の男子学生たちもみんな好意的。もちろん“例外”もいて、それがちょび髭を生やした轟太一(戸塚純貴)だ。彼は進学初日に男女平等を掲げる花岡に、「男と女がわかり合えるはずがない」と一人だけ意を唱えたが、すぐに論破されていた。その後も何かと差別的な発言を繰り返す轟を諌める花岡。女性を守る騎士かのごとき振る舞いに少しばかりモヤっとしたのは筆者だけだろうか。

4月18日に放送された『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”で博多大吉が「そろそろ、いい男出てきてほしいな」と発言していたが、そんな中で登場した花岡は果たして“いい男”なのか。そもそも、“いい男”って何だろう。例えば、寅子たちをからかっていた男子学生たちは“いい男”とは言い難いが、では寅子の父である直言(岡部たかし)や兄の直道(上川周作)は? 妻のはる(石田ゆり子)に高圧的な態度を取ることもなく、「父さん、トラが幸せなら何でもいいよ」と娘を大切に思い、血の繋がらない浪人生の優三(仲野太賀)にも金銭的に援助している直言。直道も空気の読めない発言やズレたところは多々あるが、同居で息苦しい思いをしていた花江(森田望智)を気遣って二人暮らしを始めるなど、思いやりに溢れているし、十分に“いい男”と言えるのではないだろうか。花岡はたしかに親切だが、彼が口にする“レディーファースト”という言葉にはどこか、「自分が女性に気を遣ってあげている」という傲慢さが滲む。直言や直道にはそれがない。どちらが上か下かは関係なく、真心をもって相手と接しているからだろう。

現在放送中のTBS日曜劇場『アンチヒーロー』では、殺人事件の容疑者を演じている岩田剛典。タイプは異なるが、どちらの作品でも腹に一物抱えているような底知れなさを感じさせる演技が印象的だ。かたや戸塚純貴は、寅子たちに噛みつきつつも、梅子がお昼にクラスメイトに振る舞っていたおにぎりを美味しそうに頬張るなど、意外に隙があって憎めない轟のキャラクターを体現している。轟はよねともすでに良いコンビネーションを見せており、もしかしたら彼よりも花岡の方が寅子たちにとって難攻不落な壁となるかもしれない。
(文=苫とり子)

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