ULAがデルタIVヘビーの最終打ち上げに成功 デルタシリーズ運用に幕

アメリカの民間宇宙企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は2024年4月10日(日本時間・以下同様)、同社の「Delta IV Heavy(デルタIVヘビー)」ロケットによる打ち上げミッション「NROL-70」でアメリカ国家偵察局(NRO)の偵察衛星を打ち上げることに成功しました。デルタIVヘビーは今回のNROL-70が最後の打ち上げミッションで、ULAが今後運用するロケットは新型の「Vulcan(ヴァルカン、バルカン)」へ置き換わります。

【▲ 発射施設で打ち上げを待つデルタIVヘビー(Credit: ULA)】

■NROL-70打ち上げの様子

NROの偵察衛星を搭載したデルタIVヘビーは、2024年4月10日1時53分(アメリカ東部夏時間2024年4月9日12時53分)にアメリカ・フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地第37発射施設から打ち上げられました。ULAによると、発射から3分57秒後に2本のブースターを分離、発射5分55秒後に第2段エンジンの点火を実施、発射から6分37秒後にフェアリングの分離を行ったということです。

【▲ ケープカナベラル宇宙軍基地第37発射施設から打ち上げられたデルタIVヘビー(Credit: ULA)】

打ち上げの様子はULAの公式YouTubeチャンネルで中継されましたが、NROからの要請により、フェアリング分離後に中継は終了しました。衛星に関する詳細な情報は公表されていませんが、ULAとNROは発射から約7時間後に打ち上げの成功を確認したと発表しています。

■デルタロケットの歴史

NROL-70はデルタIVヘビーの最終打ち上げであると同時に、1960年代から使用されてきたロケットシリーズ「デルタ」の最後の打ち上げミッションとなりました。

デルタは中距離弾道ミサイル「Thor(ソー)」をベースに1950年代後半から開発が進められたロケットで、1960年8月に通信衛星「Echo 1A(エコー1A)」を搭載して初の打ち上げに成功しました。1989年2月には「デルタII」ロケットが初めて打ち上げられ、アメリカ軍の衛星測位システム「GPS」の測位衛星を数多く軌道に投入してGPSの構築に貢献することになります。また、デルタIIは1996年12月に火星探査機「Mars Global Surveyor(マーズ・グローバル・サーベイヤー)」、2003年6月に火星探査車「Spirit(スピリット)」、2003年7月に火星探査車「Oppotunity(オポチュニティ)」、2004年8月に水星探査機「Messenger(メッセンジャー)」などを打ち上げ、惑星探査の発展にも寄与しました。

1998年にはデルタIIの後継機となる「デルタIII」ロケットの初打ち上げが行われたものの失敗が相次ぎ(2回は失敗、1回は部分失敗)、短命に終わりました。

【▲ 次世代気象衛星「JPSS-1」を搭載して2017年11月に打ち上げられたデルタII(Credit: NASA/Kim Shiflett)】

2002年11月に初めて打ち上げられた「デルタIV」ロケットは2段式の大型ロケットです。1段目のコア機体へ必要に応じて2本または4本の固体燃料ロケットブースターを装着する「ミディアム」と、2機のコア機体を液体燃料ロケットブースターとして装着する「ヘビー」の2タイプがあります。コア機体には「RS-68A」エンジンが1基(ヘビーでは合計3基)、上段の2段目には「RL10B-2」エンジンが1基搭載されています。推進剤はいずれも液体酸素と液体水素を使用します。

ミディアムは2002年11月に初打ち上げが行われ、2018年1月の「NROL-47」ミッションが最終打ち上げでした。ヘビーは2004年12月に初打ち上げが行われ、前述の通り2024年4月のNROL-70が最終打ち上げとなりました。

【▲ アメリカ海洋大気庁(NOAA)が運用する静止気象衛星「GOES-P」を搭載して2010年3月に打ち上げられたデルタIVミディアム(Credit: NASA)】

シリーズの最終打ち上げを飾ったデルタIVヘビーは、合計16回の打ち上げミッションに使用されました。そのうち12回はNROや米軍の国家安全保障に関わる衛星の打ち上げです。デルタIVヘビーは今回のようなフロリダ州からだけでなくカリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地でも打ち上げられており、2022年9月24日に実施された「NROL-91」がカリフォルニアからの最後の打ち上げミッションとなりました。

このように、デルタは宇宙開発初期の1960年代から現代まで、アメリカの安全保障に関わる衛星や探査機などを打ち上げてきた名機ともいえるロケットです。ULAのTory Bruno(トリー・ブルーノ)代表取締役兼CEOは「1960年代以来、デルタロケットは宇宙飛行の進化で重要な役割を果たしてきた」とコメントを寄せています。

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■デルタを引き継ぐヴァルカン

【▲ 2024年1月8日にケープカナベラル宇宙軍基地第41発射施設から打ち上げられたヴァルカン(Credit: ULA )】

ULAによると、デルタIVヘビーが担ってきた役割は同社が開発した新型ロケット「ヴァルカン」に引き継がれるということです。ヴァルカン初号機は2024年1月8日にアメリカの民間宇宙企業Astrobotic(アストロボティック)の月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」を搭載して打ち上げに成功しました。

ヴァルカンによる次の商業打ち上げミッション「Certification-2(Cert-2)」ではアメリカの民間宇宙企業Sierra Space(シエラ・スペース)が開発した有翼式宇宙往還機「Dream Chaser(ドリーム・チェイサー)」が搭載され、今後数か月以内に打ち上げられる予定です。

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Source

  • ULA – Marking the End of an Era, United Launch Alliance Successfully Launches Final Delta IV Heavy Rocket
  • ULA – NROL-70
  • ULA – DELTA IV
  • ULA – DELTA IV HEAVY
  • NRO – NEOL-70 Launches on Final Delta IV Heavy Rocket
  • SpaceNews – End of an era: Delta 4 Heavy soars one last time

文/出口隼詩 編集/sorae編集部

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