TSMC進出の熊本県内企業、新卒採用「計画下回った」60% 人材獲得競争が激化 熊日・地方経済総研調査

 熊本県内の企業に今春入社した新卒者の採用実績について、当初計画した人数を下回った企業が60・3%に上ることが19日、熊本日日新聞社と地方経済総合研究所(熊本市)がまとめた2024年度の採用活動に関するアンケートで分かった。前年調査に比べて21・4ポイント上昇しており、少子化による学生数の減少などを背景にした人材獲得競争が一段と激しさを増している実態が浮き彫りとなった。

 「当初計画通り」は26・0%で、前年よりも11・5ポイント低下した。金融・保険や卸・小売り、建設、製造など幅広い業種で、大卒者を中心に新卒者を獲得できていない。「計画を上回った」「採用活動を実施しなかった」は、いずれも6・8%だった。

 回答企業からは、学生数の減少などを理由に「応募が減った」(卸・小売り)といった声のほか、「想定よりも内定辞退者が多かった」という受け止めが相次いだ。学生優位の「売り手市場」で採用活動が早期化しており、自社の出遅れを指摘する声もあった。

 一方で、「計画通り」や「上回った」と答えた企業では、人手不足に対応するため高卒者の獲得に力を入れる動きが目立った。高卒者を採用した企業の割合は、前年比6・3ポイント増の30・8%に上昇した。

 新卒採用を実施しなかった企業からは「人手不足の中、新卒者の育成に人員が割かれることを考慮し、今回は中途採用に専念した」「不足時には即戦力の中途採用で充足している」(いずれも製造業)との声が聞かれた。

 アンケートは県内主要企業を対象に2月中旬~3月中旬に実施。146社が回答した。(経済取材班)

 ◆地場企業、人材確保の苦境鮮明に 新卒者、半導体関連企業に関心

 熊日と地方経済総合研究所(熊本市)の採用アンケートでは、台湾積体電路製造(TSMC)など、熊本県内に集積する半導体関連企業に新卒者の関心が高まっていることも明らかになった。自社の採用活動への影響を「大きくマイナス」「多少のマイナス」と答えた企業の割合は計62・3%。前年調査に比べて15・6ポイント上昇しており、思うように人材を獲得できない地場企業の苦境がうかがえる。

 業種別に見ると、建設で「大きくマイナス」が40・0%に上った。半導体関連企業や大手ゼネコンが打ち出す好待遇を背景に「理系の学生の採用確保が困難になっている」「大卒予定者の応募が少ない」と切実な声が目立つ。卸・小売りからは「学生の興味が半導体企業に向いていると感じる」「(半導体業界への人材)流出の話をよく聞く」といった声も寄せられた。

 一方、半導体関連企業の進出が採用活動に「大きくプラス」「多少のプラス」の影響があると答えたのは、3・5ポイント上昇の計9・5%にとどまった。

 中には「半導体関連の製品を扱っているため、興味を持ってくれる学生が増えている」(製造)とプラス効果が鮮明に出た企業も。このほか、TSMC第2工場の菊陽町建設などを踏まえて、「熊本で就職活動をする学生が中長期的に増えると予想される」(サービス・その他)と期待の声が上がった。

 実際、就職情報サイトのマイナビ(東京)などが25年卒予定の大学生らに、就職を希望する九州・沖縄の企業を尋ねたところ、TSMCの子会社JASM(菊陽町)が前年の123位から28位に大幅上昇。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(同)も31位から20位に上がった。

 地方経済総合研究所は「就職先としての熊本の魅力が向上することが見込まれる」と指摘。「企業が学生に選ばれるには、待遇面の改善に加え、若手が活躍できる機会や環境整備など、魅力ある職場づくりが求められる」としている。(立石真一)

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