WEST.、CDデビュー10周年 ストレートなメッセージを伝え、リスナーに力を与え続けてきた歩み

4月23日にCDデビュー10周年を迎えたWEST.。グループ初のベストアルバム『AWARD』の発売や、3月29日に大阪城ホールから始まったライブツアー『WEST. 10th Anniversary LIVE TOUR AWARD』の開催など、節目を祝うコンテンツを次々に発表している。

そして記念すべき10周年記念日の翌日には、アニバーサリーシングルとなる『ハート / FATE』がリリースされた。収録曲の1つ目を飾る「ハート」は、ロックバンドSUPER BEAVERの柳沢亮太(Gt)が作詞作曲を担当。「可能性を信じる全ての人へのメッセージを込めた」とコメントされている当楽曲は、WEST.全員による「諦めたい夢なんて無いよな」という切実な歌唱から始まり、時には弱気になってしまう自分自身と向き合いながら心をかき立たせる、力強い応援歌となっている。

柳沢がWEST.に楽曲提供を行うのは、「ハート」で4度目となる。本稿では過去に提供された3曲を中心に振り返りながら、WEST.の楽曲が持つ魅力について考えたい。

■聴く者と心を通わせ寄り添う「春じゃなくても」

柳沢により最初に提供された楽曲は、2021年3月に発表されたWEST.の7枚目のフルアルバム『rainboW』収録曲「春じゃなくても」。ゆったりとした曲調だが、メンバーの歌声には静かな力強さが感じられる。

歳を重ね成長するにつれて世界が広がっていき、その一方で心の窮屈さを感じてしまう……そんな経験を持つ人は少なくないのではないだろうか。不安な感情に押しつぶされそうなこともある。そんなときにこの曲を聴けば、〈なんかもっと単純に笑ってたいよな〉と寄り添い、無理やり引き上げるのではなく、優しく語りかけてくれているような気がしてくる。納得できない場面にぶち当たっても、〈僕はいつでも ちゃんと僕でいよう〉と穏やかな決意をともに固める。「春じゃなくても」で垣間見えるWEST.の魅力は、決して一方的なものではない、聴く者と心を通わせた励ましのメッセージだ。

■率直な歌詞がまっすぐ心に届く「僕らの理由」

2021年5月に発表されたのが、「僕らの理由」だ。WEST.の16枚目のシングル『サムシング・ニュー』の初回盤Aに収録されており、初参加となった音楽フェス『SUMMER SONIC 2023』でも披露された。

本楽曲は「春じゃなくても」とはテイストの異なる、パワー溢れるロックナンバー。グループの公式YouTubeで公開されているライブ映像では、冒頭からメンバー全員がヘッドバンキングをしながらメロディに乗り、全身で曲のエネルギーを楽しんでいる様子が伝わってくる。

歌詞には、〈僕〉と〈あなた〉が度々登場する。他者と自分を比べ、落ち込んでしまった〈あなた〉に、渾身の力を込めて届けられる〈僕〉からの言葉。〈あなたが何度 あなたを嫌っても 僕はあなたのことを嫌いになれないよ〉〈あなたの涙は あなたゆえの涙で 僕はあなたの魅力の一つだと思う〉など、あまりにまっすぐに綴られた歌詞を聴いていると、他の誰でもない自分に向けられている言葉だと信じさせてくれる。そして歌詞の持つ力が存分に引き出されるのは、楽曲のメッセージをWEST.自身が体現し歌声で奏でているからこそだ。

■優美な詞の中に込められた繊細な温もりが胸を打つ「つばさ」

柳沢による3曲目の楽曲提供は、8枚目のアルバム『Mixed Juice』のラストナンバーとして収録された「つばさ」。疾走感のあるメロディには時折ギターソロの伴奏が織り交ぜられ、しっとり丁寧に、そして力を込めて歌い上げられている。

悲しみや苦しみをより多く経験した者は、人の想いに触れやすくなる。信じるものも大切にするものも、感じ方も千差万別。でもそれぞれ違っていていいし、正解も誤答もない。相手のすべてを理解することはできなくても、相手のことを知ろうとし、想いやることはできるはず。些細なものに感じられても、そんなありふれているような当たり前こそが、誰かの心を救う“愛”たるものだ。

「つばさ」を聴いていると、日本語詞の美しさ、豊かさを痛感させられる。当たり前のように感じられていた世界の光景にこそ、愛が溢れていることを実感する。そしてその世界とともに、そんな世界に生きる自分のことも肯定できるようになる。繊細な歌詞の中には、じんわりとしたあたたかさや包容力が宿っているのだ。WEST.の楽曲には、見落としてしまいがちな大切なものを照らしてくれる、そんな一面もあるように思う。

■「歌う」より「伝える」ひたむきさが、人の心に火を焚べるWEST.の楽曲の魅力

今回紹介した柳沢提供楽曲以外にも、「証拠」や「間違っちゃいない。」、「POWER」など、WEST.の楽曲には心に火を焚べるような力がある。ストレートな歌詞とエネルギーに満ちた音楽、ときには弱気な心にも寄り添ってくれる優しさから織りなされる強さこそ、WEST.にしか作り出せない応援歌につながっているのだ。

そしてその楽曲の力を最大限に発揮できるのは、メンバーそれぞれが楽曲の力を強く信じているからこそ。「歌う」よりも「伝える」ようにそのメッセージを噛み締め、聴く者の心にしっかり届けようと全力を尽くす。そんな彼らの歌声だからこそ、10年間もの間たくさんの人の心に力を与え続けてこれたのだと思う。きっとこれから先の10年、その先もずっとWEST.の曲は多くの人に力を与え続けていくのだろう。

(文=神田佳恵)

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