サンアントニオ市長ロン・ニレンバーグが語るスパーズとチャンピオンシップ・シティーの魅力

サンアントニオというと、NBAを観ない人にとってはあまり馴染みのない街かもしれない。サンアントニオ・スパーズが1999年から2014年までに5回優勝した経過と並行し、街の名前はNBAファンには覚えられたかもしれない。しかし、ニューヨークやロサンゼルスと比べると、やはり「田舎街なのでは?」というイメージが先行してしまう人が多いのも現実ではないだろうか。

しかし実は、サンアントニオは2018年から2019年の人口増加数がアリゾナ州の州都フェニックスに次いで全米2位だった(米国勢調査局の調べでは約151.2万人から1.9万人増えて約153.1万人)。2020年から2021年にかけても、全米の主要な都市の中でサンアントニオの人口増加は最大級だ。

人が増えれば、街もおのずと活性化する。

今回はサンアントニオのロン・ニレンバーグ市長に、街の成長や魅力、そして街にとってスパーズは何を意味しているのか等について尋ねてみた。
※今回のインタビューは2024年3月27日にサンアントニオ市庁舎で行った内容を収録しています。

ロン・ニレンバーグ市長(右)は市長室でインタビューに応じてくれた(写真/小谷太郎氏提供)

全米を代表する大都市に変貌を遂げるサンアントニオ

——サンアントニオはアメリカで7番目大きい街でしたね。

そう、アメリカで7番目に人口の多い街です。

——市長になられて何期目でしょうか?

市長としては、4期目になります。この4期目が最後の任期となります。市長になる前は、市議会で2期議員を務めていました。

——ここ数年サンアントニオの街は、どのように発展したのか教えてください。

サンアントニオは絶え間なく発展を続けていて、アメリカ国内の街でも最も早いスピードで発展している街の一つです。

まず著しいのが人口増加。人の流入を受け入れながら、既にサンアントニオに住んでいる人たちの生活の質も向上させていくために、街としてインフラ改善を試みてきました。住居の質の改善を目指し、街の歴史で初めて大量輸送機関を構築することが決まりましたし、空港のキャパシティーも倍増する予定です。すでに現在進行中で、街の重要なプロジェクトですね。

サンアントニオの成長は人口の増加だけではなく、街のインフラ・アメニティの成長でもあります。この10年間ほどの街の成長は、とても肯定的に受け止められていますよ。

——これから将来に向かって、街はどういった成長をしていくのでしょうか?ダウンタウンを歩いているとあらゆるところで建設工事がされています。

街の様々な場所に投資をしていますが、特に注力をしているのは、経済の中心となるダウンタウンエリアです。これからの10年間で、サンアントニオの居住者、事業主、観光客の皆さんは、街の中心部がさらに変化を遂げる過程を目の当たりにすることになります。アメリカでもユニークなダウンタウンがさらに変化を遂げて、完成した暁には皆に素晴らしいと感じてもらえる光景が提供できると信じています。

こうした投資は、この街に住むことやこの街を訪れることを楽しんでもらうための大きな要因だと考えています。サンアントニオには、歴史的な名所があったり、エンターテインメントやスポーツを楽しむ機会があったり、街のカルチャーを象徴するリバーウォークがあったりと魅力が詰まっていますからね。

「街の大きな魅力である多様性を、スパーズが体現している」

——スパーズについて話を聞かせてください。街はどのようにチームを受け止めているのでしょうか?街とスパーズの関係はとても深いように映ります。

スパーズは街にとって必要不可欠なものです。文化的アイデンティティとも言えます。国際的な街として、チームが国外から選手を受け入れ続け、インターナショナルなステージで存在感を高められたことは街にとって贈り物のようなものです。これまでのチーム運営や、オンコート・オフコートでの彼らの立ち振る舞いをサンアントニオは誇らしく思っています。

スパーズはチャンピオンシップ・フランチャイズで、我々も街をチャンピオンシップ・シティだと認識しています。アメリカ内でも自身の街をチャンピオンシップ・シティと呼べることはユニークなこと。マーク・トウェイン氏(「トム・ソーヤーの冒険」などを書いた小説家)も過去に「サンアントニオはアメリカで最もユニークな街の一つだ」と語ってくれたことがありました。スパーズはスポーツの世界で最も認知度が高いブランドの一つであり、サンアントニオとテキサスも認識されやすいブランドなので、チームと街の関係はスポーツ界で比類のない関係だと心から考えています。

2014年のファイナル第5戦で、スパーズがマイアミ・ヒートを倒して5度目のNBAタイトルを獲得した直後のホームアリーナの様子。これが現時点では直近のチャンピオンシップ獲得の記憶だ。アリーナは当時AT&Tセンターという呼称だったが、昨夏からフロストバンク・センターに変わっている(写真/©石塚康隆 月刊バスケットボール)

こちらは2014年のファイナル第5戦で5度目の王座獲得を決めた後の様子。ご存じのティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ、トニー・パーカーを中心に笑顔が弾ける。グレッグ・ポポビッチHCの後ろには、当時アシスタント・アスレティックトレーナーを務めていた山口大輔の姿も見える(写真/©石川康隆 月刊バスケットボール)

——スパーズはこれまでもアメリカ国籍以外の選手が多く在籍していましたが、今シーズンはビクター・ウェンバンヤマが加入したことで、街の注目度合いがいっそう高まり、活性化もさらに進んだのではないですか?

近代のスパーズには様々な国籍の選手が在籍していました。街自体も国際色豊かで、いろんな文化が集合しています。スパーズがバスケットボールコートで見せてくれる国籍や文化の多様性は、街そのものを鏡に映し出しているように見えますね。

この街でスパーズに向けられる熱狂が再燃していることには、ウェンバンヤマやスパーズの若いロスターが大きく関係しています。チームは現在の過渡期を経て、既に次の支配的な時代に向けて疾走を始めました。彼らのオンコートでの成功は街のモラルの向上に繋がります。チームの成功はただの希望的観測ではなく、近い将来現実になることが見えてきています。街とスパーズの成長のタイミングが程よい時分に一致しているので、今は改めて街やチームに対しての興味を喚起できるエキサイティングな時期です。

——サンアントニオでの日本のコミュニティについて教えてください。確かトヨタがサンアントニオに大きな工場を持っていると思います。

日本人に限ったことではなく、サンアントニオにとってアジア系アメリカ人コミュニティはとても大切です。私自身もサンアントニオ初のアジア系アメリカ人の市長です(ニレンバーグ市長は母親がフィリピン人)。実は街の人口の中でもアジア系アメリカ人が一番早いスピードで増えているんですよ。人口の規模はまだ小さいですが、大きくなっています。日系アメリカ人や日本人もその一部で、日本のビジネスや文化を象徴するものも存在していて、トヨタは大きなプレゼンスですね。

先ほども話した通り、街の民族性が多様なのと同じようにスパーズも民族性に富んだクラブなので、我々自身もスパーズが街を象徴してくれていると思えるし、チームをどんどん応援したくなります。

——あと熊本市はサンアントニオの姉妹都市だと耳にしました。具体的にはどのような交友関係にあるのでしょうか?

私は熊本が大好きで、何度が訪れたこともあります。姉妹都市関係は、数十年に渡って継続しています。(サンアントニオと熊本市が姉妹都市として盟約を結んだのは1987年)我々は兄弟だと思っていますし、私自身も熊本のコミュニティや熊本市のリーダーシップチームと建設的な関係を作ってきました。熊本市の大西一市長とも素晴らしい関係にあります。最後に熊本を訪れた際には、大西市長にレプリカのスパーズチャンピオンシップリングをプレゼントしました。彼もスパーズの大ファンでとても温かい関係です。

——国外からサンアントニオを訪れる人々に、お勧めのスポットなどがあれば教えてください。

まずは世界遺産にも認定されているサンアントニオ・ミッションズ。リバーウォークがありますし、公共の公園やリニアパークもたくさんあります。文化についてより知りたい方には、グアダルペカルチュラル・アートセンターをお勧めします。リバーウォークのアーネソンシアターももうすぐ再オープンしますよ。

私が個人的によくお勧めするのは、ダウンタウンにほど近いパール地区にあるジャズテキサス(Jazz TX)というところです。地下に120席ほどあるジャズクラブで、ワールドクラスのジャズパフォーマンスが毎晩楽しめます。20年前にはサンアントニオには存在しえなかった場所かもれません。今のサンアントニオは21世紀型の大都市です。まだ街を訪れたことのない人も、再度訪れる人も、今のサンアントニオはとても楽しめる街です。この20年で街は大きく成長しました。

——最後に今後日本からサンアントニオを訪れる人たちに向けて一言メッセージをいただけますか?

いつでもサンアントニオがあなたの家だと思って遊びに来てください。タロウさんが今回来てくれたことは、非常にうれしいです。いつでもお待ちしていますよ!

ニレンバーグ市長が触れているリバーウォークの風景。これは2014年6月、スパーズが5度目の王座獲得に向けヒートとのファイナルを戦っている期間の様子で、スパーズのフラッグが誇らしく掲げられている(写真/©石塚康隆 月刊バスケットボール)

最後の下りでニレンバーグ市長は、スペイン語の「Mi Casa, Su Casa(私の家はあなたの家)」という言葉を使って思いを伝えてくれた。フレンドリーで温かみのあるサンアントニオという街の特徴を、首長の人柄も物語っている。

この企画は、スパーズのスーパーファンとして知られる小谷太郎さんが立ち上げた「Paint it Silver & Black!」プロジェクトの一環として小谷さんの全面的協力の下でスパーズ周辺の様々な話題を取り上げています。不定期ながら随時楽しい企画をお送りしていきますので、乞うご期待!

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