元祖アナドル・寺田理恵子「こんな60代は想像していなかったです」田丸美寿々からの助言を実践し50代から始めたこと

寺田理恵子 撮影/有坂政晴

1980年代、漫才ブームの最中に大ヒットとなった伝説のバラエティ番組『オレたちひょうきん族』(フジ)。その中の一つのコーナー「ひょうきんベストテン」の司会、ひょうきんアナ(二代目)を務めた寺田理恵子さん。それまでの女子アナウンサーの概念を崩し、元祖“アイドルアナウンサー”(通称“アナドル”)として、アイドルばりの活躍で人気を誇った寺田さんにとってのTHE CHANGEとは──。【第4回/全4回】

今の事務所に入って今年でちょうど10年目を迎える寺田さん。入所した年(2014年)にラジオ番組『生島ヒロシのサタデー・一直線』で生島ヒロシさんのアシスタントとして復帰を果たした。

「復帰した当初、不安はすごくありましたね。一線から退いて専業主婦で14年間暮らしてきたので、急に芸能界の話を振られても分からなかったというか、浦島太郎状態で世の中の動きについていけなかったんです。そういうところから、時間経過と共に、徐々に音読で自信もついていって……という感じです」

精神的にも肉体的にもボロボロだった寺田さんは自然な流れの中で完全復帰を果たせた。

「グリーフケアと一緒で、まさに自然治癒でしたね」

──この10年を振り返っていかがですか?

「復帰の最初の頃は“負”、マイナスから始まっていますよね、私の場合は。主人が亡くなって、体も精神的にも色んな事がマイナスから始まって。でも、朗読を始めたことでやっとゼロに戻ったとしたら、いまはその上のプラスの方に向かっているのかなって感じますね」

朗読を始めたことから教室(「心と体磨きの朗読教室」)も2018年から始めている。

「娘(歌手で長女のゆりえさん)が卒業した音大から『やりませんか』とお声を掛けて戴いたのがきっかけでした。やろうと決めたものの、どうしたらいいのかなと思ったので『日本朗読文化協会』の先生に付いていただいて教わりました」

1クラス生徒数は大体10人ほど。男女比でいうと圧倒的に女性が多いとか。年齢も50代から90代までと幅広い。近年では、企業に出向いて話し方やスピーチのセミナーなどの企画を開くこともあるそうだ。

「やっぱり現役世代はほとんど私のことを知らないですね。ただ、こうした企画を立てる方で55歳ぐらいから上の方は、私のことを歓迎してくれることもあります。朗読教室の生徒さんの中には、後から私のプロフィールを見て「アナウンサーをされていたんですか』って驚かれる方も時々いらっしゃいますよ」

こんな60代は想像していなかった!

プライベートでは現在62歳。

「以前、先輩でもあるアナウンサーの田丸美寿々さんから“還暦からは収穫だ”って言われたことがあって、それがとても印象的だったんです。この時“私には収穫するモノが無いから今からでも頑張ろう、畑耕さなくちゃ”って思って、とにかくいろいろ頑張ってチャレンジしようと思ったのが50代。で、種を蒔き終わって還暦を迎えたら、60歳になって本当に本を書かせてもらえるなんて思っていませんでした。昔から書くことは好きだったんですけど、そんなチャンスには恵まれないし……と思っていたんです。でも、朗読教室をやったお陰で出すきっかけになったし、教室を機会にものすごくたくさんのつながりも出来て、こんな60代は想像していなかったです。そういう意味でも、とても実りのある60代を迎えているなと実感しています」

これからも更なる変化を寺田さん自身は目指している。

「昔はフリーという立場上、こういう仕事をやりたいなとか仕事が途絶えてしまったらどうしようって怖さを感じたり、そういうものをひっくるめて仕事の欲が強かったと思います。でも、今は仕事よりもやり甲斐とか自分の充実感とかっていうモノの方が大切に思えるようになったんです」

そこで、娘のゆりえさんと一緒に企画を立てて、脚本を書いて、会場を押さえて……というイベントを開催したりしている。アナウンサーの仕事は? と尋ねると

「もちろん、お話があればですけど、もう歳だから難しいかもしれませんよね(笑)。でも、いまってメディアがいっぱいあるから待っているだけじゃダメな時代なのかなとも思っているんです。自分から仕事を作り出す時代、世代に入っているのかなって。還暦になると、朝起きて“今日、やることないな~。何しよう?”って、『やること探しの日々』なんですね。そんなのつまらないじゃないですか。だったら、自分で企画して、仕事を編み出していって、人を巻き込んで、みんなで協働作業ができるチームを作っていくのが私の夢であり、いまやりたいことなんです」

セミナーと本との連動企画でYouTubeで『音読チャンネル』を配信していることもあってか、最近は街で声を掛けられることが増えてきた。

「メディアに出ているわけでもないのにね。モテ期かって? どうなんでしょうね」

そう語ってくれる寺田さんの笑顔は誰もを癒してくれる優しさに満ち溢れていた。

寺田理恵子(てらだ・りえこ)
1961年7月15日、東京都生まれ。聖心女子大学文学部卒業。A型。84年、フジテレビ入社。85~86年にバラエティ番組『オレたちひょうきん族』で2代目ひょうきんアナを務める。89年に結婚を期に退社、フリーとなる。98年に離婚。2000年に再婚し専業主婦として生活。しかし2012年に死別。2014年に復活。現在は朗読教室やアナウンススクールの講師を務めるかたわら、認知症サポーターとして朗読ボランティアや講演活動を行っている。

© 株式会社双葉社