『虎に翼』平岩紙の“確かな強さ”が胸に響く 現在とリンクし過ぎる梅子の“親権”への思い

『虎に翼』(NHK総合)第18話で、寅子(伊藤沙莉)たちは花岡(岩田剛典)の提案で、親睦を深めるためにハイキングに行く。しかし寅子は浮かない気持ちでいた。そんな折、男子たちが梅子(平岩紙)の三男・光三郎(石塚陸翔)の前でよからぬ話を始める。梅子の夫・大庭徹男(飯田基祐)に妾がいることを匂わせる発言に寅子は憤慨する。

この出来事がきっかけとなり、寅子が花岡に感じていた違和感が露見する。花岡は寅子と論争を重ねるうちにこう言った。

「君たちはどこまで特別扱いを望むんだ。男と同様に勉学に励む君たちを、僕たちは最大限敬い、尊重している。特別だと認めてるだろ!」

花岡を演じている岩田は紳士的な雰囲気をまとっているが、その佇まいからは彼が発する言葉は決して本心ではないと感じさせる、絶妙な違和感がある。結局のところ、花岡は女子部に罵声を浴びせた男子学生・小橋(名村辰)とはまた違った角度で、女性に対し線を引いていた。女性に理解を示しているようで、実はあえて女性をたて、度量を示すことで優越感にひたろうとしていたともいえる。そんな花岡に寅子は真っ向から言い返す。

「私たちは特別扱いされたいんじゃない。特別だから見下さないでやっている? 自分がどれだけ傲慢か理解できないの!?」

寅子は花岡を突き飛ばした。花岡が反論しようとしたのも束の間、彼はバランスを崩して崖下に落ち、けがをしてしまう。

第18話は寅子と花岡の論争にも心にグッとくるものがあったが、自分のことを語り始めた梅子の姿も胸に突き刺さる。梅子は結婚してすぐに長男を授かったが、その頃から徹男は家に帰らなくなった。大庭家の跡取りとして姑が育て上げた長男は、徹男とそっくりの男に育ち、梅子をさげすむようになった。

「夫と離婚するために、私は法を学んでいる」
「私は、子供の親権が欲しい」

梅子を演じている平岩の佇まいは、よね(土居志央梨)のような強さを感じさせるものではないかもしれないが、弱い女性では決してない。むしろ闘い続ける強さを持った人物だ。今の法律では、離婚しても子供の親権を得ることはできない。けれど、梅子はただ1つの願いのために、懸命に厳しい現実の中でもがいている。

「せめて次男とこの子は、絶対に夫のような人間にしたくないの」

平岩は母親的な存在で皆に慕われる梅子の人柄を、優しくおっとりとした立ち居振る舞いで表す。自分のことを語る時も、法を学ぶ理由を語る時も、香淑(ハ・ヨンス)や寅子に勇気づけられ涙ぐんだ時も、穏やかな佇まいはそのままだ。だが、ずっと抱えてきた痛みや苦しみをそのままにせず、「それでも、やらないといけない」と話す姿には芯が通っていた。他者を慮るあまり、自らを卑下してしまう心優しい梅子の人柄を表したまま、確かな強さを感じさせる平岩の演技は胸に響くものがあった。

現時点では、梅子の願いは不可能に近い。それでも決して彼女は諦めないだろう。本作ではこの先も胸を締め付けるような出来事が続くと思うが、決して目を背けることなく、諦めない人々の生き様を見ていきたい。

(文=片山香帆)

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