今は建築できない貴重な建物とは? 現行の建築基準法を考えながら北千住を歩く【宅建デート】

寒かったり暑かったりおちつかない日々が続く。

なかなか安定しないのもオレたちの関係とリンクする。

辛抱強く粘るオレ。

エルボーとのデートの日。

今日はなんだか春めいているなあ。

なんだかいい予感だ。春の予感。

ウキウキする陽気のお昼にエルボーと待ち合わせだ。

地名の不思議

北千住といえばこの風景。

「北千住とか南千住とか“千住”って地名、なんか不思議よね」

「諸説あるけど、新井政次って人が荒川で投網漁をしてたら千手観音を一体引き上げたんだって。その千手観音は勝専寺に安置されているらしいよ。で、千手観音を祀った土地ってことで千住って呼ぶようになったとか。ちなみに荒川ってのは今の隅田川ね」

「え、隅田川って昔は荒川って言ってたの? いまも荒川あるよね。ややこしい」

そんな話をしているうちに今回の目的地に着いた。

千住宿場町通りだ。

宿場町通りは旧日光街道のことです。

「『東京散歩地図』の北千住のページに面白いことが書いてあったから実際にあの建物を見に行ってみようと思って」

「あ、私も見た! あの建物かな?」

『横山家住宅』と建築基準法

宿場町商店街を荒川方面にしばし歩いていくと『横山家住宅』が現れる。

横山家住宅につきましては『東京散歩地図』から説明文を引用させてもらいます。

横山家住宅/区の民俗文化財に登録

地漉紙問屋・横山家の住宅で、外観のみを公開。江戸時代の代表的な商家建築で、往時の面影を残す。戸口が街道から一段下がっており、上にいる客を下から迎える形となっていた。

『横山家住宅』。いい雰囲気ですな。
古い建物が好きなエルボー。
「横山家住宅は戸口が街道から一段下がっており」と記されている。

この「一段下がっている」問題だが、現行の建築基準法では「建築物と敷地」の関係につき、こんなふうになっている。

建築基準法第19条だ。

(敷地の衛生及び安全)

第19条

建築物の敷地は、これに接する道の境より高くなければならず、建築物の地盤面は、これに接する周囲の土地より高くなければならない。ただし、敷地内の排水に支障がない場合又は建築物の用途により防湿の必要がない場合においては、この限りでない。

2 湿潤な土地、出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類する物で埋め立てられた土地に建築物を建築する場合においては、盛土、地盤の改良その他衛生上又は安全上必要な措置を講じなければならない。

3 建築物の敷地には、雨水及び汚水を排出し、又は処理するための適当な下水管、下水溝又はためますその他これらに類する施設をしなければならない。

4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。

「一段下がっている」。なるほどたしかに!!

第19条第1項に「建築物の敷地は、これに接する道の境より高くなければならず、建築物の地盤面は、これに接する周囲の土地より高くなければならない」とあるでしょ。

なので、現行の建築基準法に従えば、この「上にいる客を下から迎える形」という “お客様は神様です”的なへりくだりスタイルはむずかしいかな。そういう意味でもとても貴重な建物だ。

それにね、足立区のHPにあるハザードマップを見てみると、この辺りは結構要注意な地域。荒川が近くにあるからね。

これから家を建てる人は安全のためにも第19条はしっかり守ったほうが良いでしょう。

「お天気もいいから川のほうまで歩いてみない?」

せっかくだしね。

宿場町商店街を荒川土手まで散歩してみよう。

東武伊勢崎線の“放水路橋梁”

橋梁とは、河川などを横断するため、または鉄道と道路などを立体的に交差させるために建設された構造物のこと。

で、この写真をよくよく見てほしいのですが。

「東武伊勢崎線荒川放水路橋梁」と書いてあるのです。

さて、なにかお気づきかな?

今回はここ、この文字に注目してもらいたい。

放水路。

そうなのだよみなさん、荒川は人工的に開削した水路なのだよ。

「いや、どう見ても河川なんですけど!」……そうですよね。一般的にイメージする水路の規模ではありません。

テレビドラマ『3年B組金八先生』の金八先生も、荒川の土手を歩いていました。あのシーンを見ても、荒川は川であって、水路とは誰も思わん。

冒頭に「え、隅田川って昔は荒川って言ってたの? 荒川ってほかにもあるよね。ややこしい」というのがあって、そのあたりを回収しつつちょこっと解説。

隅田川は“河川”で、その昔、けっこう洪水氾濫があったみたい。で、荒れる川というニックネームがついたみたいです。

「あの川は荒川だからさ」というような使い方だったのかもしれません。

「東武伊勢崎線荒川放水路橋梁」を下から眺める。

そして、明治時代になって隅田川の洪水氾濫を防ごうということになり、上流部分から海に向かってバイパスを作ることになる。

その“バイパス”が、いまの荒川。

まさに“放水路”っすね。

だから荒川は、その出自を辿ると自然河川ではなく、京浜運河とかの類と同じになるんだろうけど、今日では河川法により一級河川に指定されている。

それにしてもよく掘削しましたよね。

そうこうしているうちに、宿場町は西日の時間帯になった。

オレたちの影も長くなる。

そういえばさ、とエルボー。

「この地から松尾芭蕉は、『奥の細道』の旅路に旅立ったのよね」
「そうだね」

この荒川ではなく隅田川のほうに架かる千住大橋のたもと、旅の始まりの句を詠んだといわれている場所に記念碑が立っている。

「旅に出ようと決意する瞬間、わたしけっこう好きなのよね」
「え、どんな?」
「いまの環境を変えるというニュアンスかな。いったん環境をリセットするっていう気分」
「リセット、かー」
「自分にとって行き止まりみたいな環境。それを変えれば視点も変わるだろうし」
「環境、かー」
「視点を変えれば自分の動きも変わるし、逆に、新しい動きをしてみたら、その先も変わってくるだろうし」
「なるほどね」
「なので、いまチャンスかもね」
「え、なにが?」

「行き止まり感。それって、旅に出るチャンス」
「……?」

わたしたち、ちょうど行き止まりだしね。

この先行き止まり、だそうです。

取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人

宅建ダイナマイト合格スクール
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「宅建」は難しいイメージがあるかもしれないが、ほんとうはめちゃくちゃ面白くて、学べば街も日本ももっと好きになる!!いつも愉快なおーさわ校長と、ひのきPが日々「おもしろくてわかりやすい宅建」を追求している。

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