「身長を伸ばしたいなら、牛乳をたくさん飲もう」はホント?医師が教える成長期にとりたい栄養素

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「牛乳をたくさん飲むと背が伸びる」「あの人が背が高いのは、牛乳をいっぱい飲んだから」などと聞いたり、話したりしたことはありませんか? 「牛乳をたくさん飲むと背が伸びる」というのは本当なのでしょうか? 『医師が教える 子どもの食事 50の基本』(ダイヤモンド社)の著者である小児科医の伊藤明子先生に、3~6歳ごろの成長期にとりたい栄養について話を聞きました。

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身長は遺伝で決まる? それとも食事や環境が影響?

――「身長は遺伝で決まる」というイメージがありますが、食事が影響することはありますか?

伊藤先生(以下敬称略) 部位・領域によって「遺伝」の影響は3割くらいのものもありますが、身長への遺伝的な影響は8割程度というのが最近の研究で示されています。

私たちの遺伝子の情報は両親やご先祖さまからもらうものですが、その情報は決定的で変化しないのではなく、遺伝子情報の一部は自分の代で食事や生活様式や環境によって塗り替える部分もあります(エピジェネティクスといいます)。とくに身長に関しては、胎内から3歳ごろまでの栄養状態や環境もその後の身長に大きくかかわることが知られています。

出生後の環境も影響するので、食事を含むさまざまな要因から背の高さが最終的に決まります。遺伝的素因があったとしても、食事や生活習慣の工夫で骨や筋肉の成長促進に働きかけることはできます。

骨や筋肉の成長のために、成長期にとくに意識したい4つの栄養素

――骨や筋肉の成長に働きかけるためには、とくにどんな栄養素を意識するといいのでしょうか?

伊藤 骨や筋肉の成長のためには4つの栄養素が大切です。

まずはカルシウムとビタミンD。ほとんどの日本人はカルシウム不足です。そしてカルシウムは骨の材料となる重要な栄養素ですが、いくらとってもビタミンDがないとほぼ活用されません。カルシウムに気をつけていてもビタミンDの摂取が追いついていない人が多いです。カルシウムは魚、えびのほか、小松菜・チンゲン菜などの野菜、納豆などいろいろな食材に含まれています。中でも私のおすすめは、しらす干し、ちりめんじゃこですね。これらにはビタミンDとカルシウムの両方が含まれています。ぜひ、たくさん(目安は大さじ2杯)食べてください。ビタミンDは脂溶性ビタミンなので良質なオイル(エキストラバージンオリーブオイル、ごま油)などの脂肪少量と一緒にとるとより吸収されます。

3つ目に亜鉛です。骨の成長にかかわるミネラルなので、不足すると成長に影響します。低身長は亜鉛欠乏症の診断基準の1つでもあります。亜鉛がたりているかどうかは血液検査でもわかるので、心配な場合は調べてみてもいいかもしれません。亜鉛を食品から摂取する場合は、すりごまが便利です。すりごまはカルシウムも豊富。1日大さじ1~2杯を食べることをめざしましょう。

そして、4つ目にタンパク質。筋肉や骨の材料になる栄養素で、摂取したらすぐに代謝されて体の中にためておくことができません。できるだけ毎食、肉や魚などの動物性のタンパク質と、豆腐や納豆などの植物性のタンパク質を合わせてしっかりとりましょう。動物性と植物性を合わせて、1食あたり「自分の片手の手のひら(指の先まで)にこんもりと1杯分のる量」のタンパク質食材をとることをおすすめします。大人の場合は、目安として重さ100g程度のタンパク質食材をとるのが理想です。

カルシウムが豊富な牛乳。「牛乳を飲むと背が伸びる」は一理ある?

――牛乳はカルシウムが豊富な食材の一つ。身長を伸ばしたいとき、牛乳を飲めば飲むほど効果があるのでしょうか?

伊藤 カルシウムの摂取量と背が伸びることに相関関係があることはさまざまな研究で結果が示されています。牛乳は手軽にカルシウムがとれる食材。「牛乳を飲むと身長が伸びる」という話には一理あります。

ただし、牛乳には鉄の吸収をそ害する作用があるので、飲み過ぎると鉄が不足して(*1~4)「牛乳貧血」になることがあります。背を伸ばしたいからと言って「牛乳を飲めば飲むほどいい」というわけではありません。牛乳の摂取は1日コップ1杯(200mL)程度を目安にすることをおすすめします。「牛乳が大好きで毎日たくさん(2杯以上)飲む」という子は、2杯目以降に牛乳の代わりにアーモンドミルクやオーツミルクを取り入れてみるのはいかがでしょうか。

――アーモンドミルクとオーツミルクとは、どんなものですか?

伊藤 植物性ミルクの一種です。アーモンドミルクの主な原料はアーモンドと水で、ビタミンEが豊富です。オーツミルクは、オート麦からできていて、コップ1杯(200mL)あたり3gの食物繊維を含み、カルシウムも牛乳と同程度含んでいます。どちらも鉄の吸収をそ害する作用はありません。

「寝る子は育つ」というのは本当? 食事以外に重視したい生活習慣

――「寝る子は育つ」ともいいます。睡眠も身長に関係しますか?

伊藤 もちろんです。就寝中は骨の成長に作用する成長ホルモンが分泌されるので、十分な睡眠を確保できるようにしてあげたいですね。1日の睡眠時間の目安は、就学前(3~5歳)は10~13時間、学童期(6~12歳)で9~12時間。睡眠は身長を伸ばすだけではなく、脳の高次機能(判断力)、情緒、感情コントロールなどの発達がより進むことが研究で示されています。大人と子どもの睡眠時間は比例しやすので、親も早めに寝るように心がけることをおすすめします。

監修/伊藤明子先生

取材・文/中澤夕美恵、たまひよONLINE編集部

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成長期にとくに意識したい、カルシウム・ビタミンD・亜鉛・タンパク質。牛乳は手軽にカルシウムなどの栄養がとれる食材。「牛乳が大好き」という子どももたくさんいるでしょうが、適度な量を飲むのがおすすめです。栄養をしっかりとってぐっすり眠ることは健康の基本。身長に影響する・しないにかかわらず、「成長期に重視したい栄養素の補給」と「睡眠時間の確保」を新たな習慣として意識してみてはいかがでしょうか。

*1 Kazal LA Jr. Prevention of iron deficiency in infants and toddlers. Am Fam Physician. 2002; 66(7): 1217-1224.
*2 Sadowitz PD, et al. Iron status and infant feeding practices in an urban ambulatory center. Pediatrics. 1983; 72(1):33-36.
*3 Tunnessen WW Jr, et al. Consequences of starting whole cow milk at 6 months of age. J Pediatr. 1987; 111(6 pt 1):813-816.
*4 Pizarro F, et al. Iron status with different infant feeding regimens: relevance to screening and prevention of iron deficiency. J Pediatr. 1991; 118(5):687-692.

●記事の内容は2024年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『医師が教える 子どもの食事50の基本』

毎日の食卓で「何をどう食べるか」で、子どもたちの体や心、脳の状態、性格は変わる! 小児科医が医学的根拠に基づき「子どもの食」をわかりやすく解説。目からうろこの情報がぎっしり詰まった一冊。伊藤明子著/1650円(ダイヤモンド社)

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