辻村深月「言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」 子どもと本音で向き合ったエッセイ集

「自分の言葉」ってそもそも何? 子どもと本音で向き合うエッセイ。

「言われるたびに嬉しい半面、『仲間だよ!』と寂しい気持ちにもなりました。その質問が出てくるには、『大人は自分たちの気持ちがわからなくて当然』という思いがあるはずなので。だとしたら、子どもの頃の悔しかったこと、もやもやしたことなどを覚えているのが私の強みなので、大人の中の子どものスパイとして頑張ってみようと思ったのです」

毎日小学生新聞に連載されたこのエッセイ。言語化や自身の言葉で話すことが尊ばれる昨今、「自分の言葉がある」とはどういうことなのか、辻村さんの子どもの頃の経験や時事問題、読者からの投稿を交えながら深めていく試みでもある。

「大人が思う子どもらしい言葉ではなく、自分の感情や本音の部分を言語化すること。それを表に発さないとしても、心に保つことの大切さについて書きたいと思い、このタイトルにしました。そしてある程度記事が溜まってきて、これは同調圧力に屈しないことについての連載だったのだと、しみじみ思いました」

たとえば、遠足のお弁当の時間、よく知らない子の陰口が始まって、「そうなんだ」と相づちを打ったエピソード。大人の世界でもよくあるシチュエーションといえるが、一緒にいた女の子のとった行動に小学生の辻村さんはハッとさせられる。

「周りに流されず、思ったことはどんどん出したほうがいいとか、大人の思う正しさで語られることが多いけれど、表明することだけが向き合い方ではないと思うんです。子どもに伝えようと思うと表現はよりストレートになるのですが、だからこそ言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」

迷いが生じたときに本を開きたくなるような、辻村さんが子どもというひとりの人間と真摯に向き合った優しい言葉がちりばめられている。

「作家としていろんな方の言葉や文章に触れる機会が増えてくると、本音で書いてあるものに勝る強さはないと感じます。そのことが、全体を通して伝わったら嬉しいですね」

『あなたの言葉を』 学校生活、出会いと別れ、読むこと、書くこと。かつての子どもたちにも響くエッセイ集。朝倉世界一さんの挿絵が文章に寄り添う。毎日新聞出版 1540円

つじむら・みづき 作家。2004年デビュー。本誌で連載された『ハケンアニメ!』は、舞台・映画・ウェブトゥーン化された。近著『この夏の星を見る』はコロナ禍でつながる中高生の青春物語。

※『anan』2024年4月24日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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