《JR福知山線脱線事故19年》「事故を記憶にとどめて…」負傷の女性、全国から寄せられた写経奉納

「祈りの杜」で写経を奉納、祈りを捧げる増田和代さん(左)と露の団姫さん<2024年4月24日 20時43分 兵庫県尼崎市>

乗客106人が亡くなり、562人が負傷したJR福知山線脱線事故で負傷した女性が24日、安全と犠牲者追悼の祈りを込め、全国から寄せられた写経を事故現場の慰霊施設「祈りの杜」(兵庫県尼崎市久々知)に奉納した。

奉納したのは、事故車両の3両目に乗っていた兵庫県伊丹市の増田和代さん。

事故から19年、負傷者と家族を支えて…

増田さんは2005年4月25日、当時開催されていた「愛・地球博(愛知万博)」へ向かうために母親とともに快速電車に乗っていた。左足首を挫傷し、腰を圧迫骨折するなどの重傷を負った。事故当日の鮮やかな青空を忘れられない。その後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や過呼吸、パニック障害に悩まされる。今でもあの惨状がよみがえり、足腰の痛みは癒えない。杖を手放せない生活が19年続く。

増田さんは2022年2月、以前から交流のあった尼崎市の道心寺住職で落語家の露の団姫(まるこ)さんに相談し、SNSを通じて、心を寄せてくれる全国の人たちに般若心経を書き写してもらい、事故現場に届けることを提案された。

写経には犠牲者の慰霊や、鉄道の安全への祈りを込めている。団姫さんは「風化させないということは、他人事(ひとごと)にさせないということ。同じ経験はできなくても、写経を通じて思いを寄せることで、安全への願いを高めていただければ」と話す。こうして全国から寄せられた写経は、3年間で200巻を超えた。今年だけでも、38人から62巻が寄せられた。

辛く、苦しい毎日から救ってくれたのは1匹のシーズー犬 「ゆめ」 との出会い。もともと犬好きで「癒やしになるかもしれない」と飼い始めた。無邪気な「ゆめ」が増田さんを救う。薬の量が減り、笑える自分がいた。2009年にはトリマー(犬の美容師)の資格取得に励み、伊丹市内にドッグサロンを開業、この春、11周年を迎えた。

増田さんにとっての19年、最愛の両親と「ゆめ」との別れがあった。「1人ぼっちになってしまった」。しかし、団姫さんをはじめ、支えてくれる人はたくさんいる。届けられる写経の送り主ともつながっていると感じている。「1人じゃないんだ」。
そして、「写経には優しさ、温かさ、温もりがこもっている。思いはあっても、どうしていいのかわからないという方々が、写経をきっかけに、『事故を忘れない』という意識と、『安全に対する思い』を改めて持つことができる」と信じる。

増田さんは「事故が起きた4月25日は、いつも『あの日(事故発生日)』と同じ、青空が広がっている。犠牲になった方々が見守ってくれているに違いない。だから、どうかゆっくり休んでください、残された私たちが、これから安全な社会を作っていきます」と誓う。

事故現場で整備された慰霊施設「祈りの杜」は、2018(平成30)年に完成した。遺族や負傷者の中には「あくまでも事故現場であり、亡くなられた方々が眠る場所ではない」というとらえ方もあるが、増田さんは「全国から写経という形で寄せられた気持ちを届け、事故のことを記憶にとどめたい。届く写経のひとつひとつが見えない大きな力になるから」との思いで、これからも「写経プロジェクト」を呼び掛けるという。

© 株式会社ラジオ関西