激増する「足裏」の危険なファウル【「裸足サッカー」ワールドカップの大舞台へ】(1)

サッカーはシューズを履いてするのが当たり前だと思いがちだが…(写真はイメージです)。撮影/中地拓也

サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回のテーマは、サッカー史に残る奇談。

■一向に減る気配がない「足裏」での危険なプレー

近年のサッカーで非常に目立つのが、「足裏」でのファウルだ。遅れているとわかるはずなのに、無理してタックルに行き、しかもボールに対して足裏で行こうとするから、ボールを蹴った直後の相手の足やすねを直撃することになる。サッカーシューズの「ソール」は、現代のサッカー選手が身につけているもので唯一の「凶器」であり、相手に深刻なダメージを与える。

今日のサッカーにはVARがあって、こうしたファウルは見逃されない。足裏でのファウルで退場になる選手が、Jリーグでも毎週のように出る。それでも一向に減る気配がないのは、「インテンシティー(強さ、激しさ)」や「球際」をあまりに強調する「現代サッカー病」なのだろうか。

それなら、スタッドのついた固いソールのシューズを禁止し、ジョギングシューズのようなソフトなゴム底のシューズにしたらどうか。同じようなファウルがあっても、相手に与えるダメージは大幅に軽減され、大ケガにつながるリスクも小さくなるだろう。いっそのこと、シューズを禁止して、裸足(はだし)にしたらどうか。ビーチサッカーのように。

■裸足で「ボールを蹴る」人生ベスト3の至福

裸足でサッカーをしたことがある人はどのくらいいるだろうか。裸足でボールを蹴り、ドリブルし、走ることは、実は、非常に気持ちがいいのだ。

私が「裸足サッカー」を経験したのは、高校3年生の夏休みだった。自宅でひとりで受験勉強するなんて…と、サッカー部を中心とした何人かで相談し、学校と交渉して「自習」のために登校する許可を得た。いつもどおりに「登校」し、午前中はそれぞれに自習し、昼、弁当を食べたら、「気分転換」と称して30分間ほどみんなでサッカーに興じたのである。

私の学校には、サッカーグラウンドもあったが、校舎のすぐ目の前には、美しい芝生の陸上競技場があった。10月の運動会まで美しい状態を保つため、トラック内の芝生は、陸上競技部の部活以外は「立ち入り禁止」だった。しかし、わずか10数人の「自主登校生」は、大胆にも、その美しい芝生の上でサッカーを楽しんだのである。それも芝生を傷めないように裸足で、そして当時のサッカーボールではあまりに痛かったので、バレーボールで。

私の人生で、おそらく「ベスト3」に入るほど楽しい時間だった。裸足できれいな芝生の上を走るだけで素晴らしい快感だったし、バレーボールは思うように曲がって味方のプレーヤーに渡った。

■「笑い話ではない」裸足サッカーで世界の頂点へ

ただし「自習」に、どれほどの成果があったのか…。ほどなくして「自習登校」の最大のモチベーションがこの「昼休みの裸足サッカー」になるのは必然だった。

「あなたは学校には自習に行っているんでしょう?」

ある朝、出がけに、友人のひとりは母親にこう言われた。

「そうだよ」

「それならなぜ、そんなに日焼けしてるの?」

返答に困った友人はこう答えた。

「そう? 登下校のときに焼けるんじゃないの?」

これは蛇足である。

しかし、「裸足サッカー」は笑い話ではないのである。それがワールドカップに出場するかどうかの話にまでなったというエピソードは、もしかすると、160年間を超すサッカーの歴史でも十指にはいる「奇談」かもしれない。1950年ワールドカップ、出場権を獲得していたインドだったが、組分け抽選会後に棄権した。その理由が裸足でのプレーを禁止したためだったという話である。

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