STYLYやKDDI、空間コンピューティングの事業創出を目指したラボを設立

by 白根 雅彦

左からJ.フロント リテイリングの林氏、KDDIの佐野氏、STYLYの渡邊氏、WIRED日本版の小谷氏

STYLYとKDDI、J.フロント リテイリングは共同で空間コンピューティングの事業創出を目的としたオープンイノベーションラボ「STYLY Spatial Computing Lab(SSCL)」を発足した。SSCLではApple Vision Proをターゲットデバイスとし、空間コンピューティングのユースケース創出から社会実装までの研究開発を進める。戦略パートナーとして「WIRED」日本版を手がけるコンデナスト・ジャパンも参加する。

STYLYの取り組み

STYLYは、XRプラットフォーム「STYLY」を運営している企業で、XRアプリやXRコンテンツの作成、XRコンテンツを作るクリエイターのサポートなど、XRに関わる様々な事業を手掛けている。SSCLではSTYLYが主催となり、プラットフォームの運営やコンテンツパートナーのコンサルティングなども担当する。

KDDIは通信ネットワークやXR・メタバースの技術、コンテンツパートナー連携などで協力する。KDDIはこれまでもバーチャル渋谷などXRやメタバースのコンテンツでSTYLYと協業した実績もある。J.フロント リテイリングは同社が展開するパルコなどの商業施設による物理的な場所とユーザー接点、コンテンツ開発の面で協力する。コンデナストジャパンは空間コンピューティングの市場リサーチやワークショップの設計・運営、WIREDでの情報発信で協力する。

SSCLの取り組み内容

SSCLの取り組み内容としては、「空間コンピューティング市場に関するリサーチレポートの提供」「コンテンツ詳細化ワークショップ」「プロトタイピング」「Apple Vision Proの体験機会の創出」「参画企業同士のコミュニティ」「WIREDを軸とした情報発信」など。今年中にワークショップや実証実験、エンドユーザー向けのイベントなどを実施する予定。

世界を変えてきた「身にまとうテクノロジー」
空間コンピューティングで創出される新産業の可能性

STYLYのCMOの渡邊遼平氏は発表会のプレゼンテーションで、「世界を変えてきたのは“身にまとう”テクノロジー」とし、空間コンピューティングデバイスの登場は、1979年のウォークマン、2007年のiPhoneに続く時代を変えるテクノロジーだと語る。空間コンピューティングデバイスにより創出される、「身にまとう空間」という新たなメディアの研究がSSCLの目的となる。

デモに用いられたVision Pro

記者発表会ではVision Pro実機でのデモアプリを体験することができた。

デモアプリは起動後、マーカーとなる二次元コードを見つめると、そこを起点にコンテンツが開始される。たとえば最初に表示されたコンテンツはミュージックプレーヤーで、二次元コードの手前に表示されるレコードプレーヤー型の3Dオブジェクトを操作して曲を流すことができる。

デモのミラーリング映像。実際にはもっと視野は広い

床に置いたマーカーからボールが飛び出て、軌跡を残しながら天井や床で反射するコンテンツでは、ボールの軌道上に手のひらを入れると、そのボールの軌道を変えられる、というデモを体験できた。こちらは天井や床といった環境を認識しつつ、手のひらも認識してインタラクションも加えられるという総合的なデモだ。

Apple Vision Proよりも安価で普及しているMeta Questシリーズをターゲットとしなかった理由には、その性能の違いがある。映像の美しさ、ハンドトラッキングや空間認識の精度などはVision Proの方が上だという。また、作れるアプリの違いも大きい。

床に置いたマーカーからボールが飛び出るデモ。現実世界の映像がきれいで実在感が高いのがVision Proの優位性でもある

たとえば、Vision Proは同一空間内で複数の3Dオブジェクト型アプリを起動できる。一方、現行のQuestのOSでは、3Dアプリは全空間を占有するタイプのものを1つしか起動できず、マルチタスクは平面型アプリを3つ起動できるだけだ。これでは空間コンピューティングのプラットフォームとしてはできることが限られてしまう。こうした違いがあるため、最初のターゲットとしてVision Proを選んだという。

とはいえ、SSCLはVision Proしか眼中にないわけではなく、もともとSTYLYはQuestやPicoといったXRプラットフォームでもアプリを展開している。たとえば、QuestのOSの強化やより高性能な後継モデルの登場で、SSCLでやりたいことができるようになれば、Questもターゲットに加える可能性はあるとのことだ。

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