二世帯住宅の悲劇 遺産相続で揉める理由とは 税理士が解説

遺産はほぼ自宅のみにもかかわらず、弟と妹から平等な分割を要求されるケースも(写真はイメージ)【写真:写真AC】

これから二世帯住宅を建てようと計画している人もいるでしょう。その前に、遺産相続について親としっかりと話し合っておく必要があるかもしれません。きょうだいがいる場合、二世帯住宅が揉める原因になることがあるからです。二世帯住宅の“落とし穴”について、豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが解説します。

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「平等に分けてもらう権利がある」 弟と妹からの要求

遺産分割でよく問題になるのが、不動産をどう分けるかということ。「子どもの数だけ不動産を持っています!」のような資産家はさておき、「不動産は自宅だけ」という人がほとんどだと思います。なかでも「自宅以外の財産はほとんどない」「きょうだいの内ひとりが二世帯住宅にして親と暮らしている」ような場合、とても面倒なことになる可能性があるのです。

「父が亡くなったときは、たいした財産もないし相続税も心配ないということで、母に全財産を相続させました。ところが、母が亡くなって遺産をきょうだいで分けることになったら、弟と妹が『財産を平等に分けろ』と言い始めたんです」

相談者は3人きょうだいの長男、高田博さん(仮名・45歳)。実家を二世帯住宅に建て替えて両親と同居していましたが、5年前に父親、3か月前に母親を亡くし、遺産分割に悩んで相談に来ました。

高田さんは父親とお金を出し合って二世帯住宅を建てていて、そのときのローンがまだ残っています。父親は建て替え費用をキャッシュで払いました。そのため、母親が亡くなったときに残っていた財産は自宅と少しの現金だけ。自宅の価値は、母親名義になっている建物部分と土地の価格を合わせると3000万円ほどになるとのことでした。

「弟と妹には、私が自宅をもらうつもりなら自宅に3000万円の価値があるのだから、ふたりに1000万円ずつ支払ってくれと言われました。『平等に分けてもらう権利がある』といって譲らないのです。まだローンが残っている身で、これから子どもの教育費もかかるというのに、そんな金額は払えません。そもそも、長男として親の面倒をみるために二世帯住宅にしたのに、こんなことになるなんて……」

住宅ローンに加えて、弟たちへ遺産を分割で払うことに

高田さんのお話を聞いて、みなさんはどう思いますか?

弟や妹が強欲だと思う人もいるでしょう。でも、自分が弟や妹の立場だったらどうでしょうか。自分がもらえるのはほんの少しの現金だけで、長男が3000万円もの価値がある自宅を相続することに納得できますか?

人生で数千万円もの財産を一度に手にする機会なんて、遺産相続以外には退職金を受け取るときくらいでしょうか。今時、退職金だってそんなにもらえるとも限りません。

だいたい日本は地価が高く、とくにここ最近の不動産価格が高騰しています。そのため、衣食住のなかで「住」にかかる費用がとても高額になりがちです。弟たちが「兄は住むところを親がかりで手に入れたのに、自分たちは何ももらえないのか」と、不満に思う気持ちもわかりますよね。

でも高田さんの立場になれば、住宅ローンを払っている身で弟たちに1000万円ずつ払うなんて、簡単なことではないはずです。とはいえ、せっかく建てた家を手放すことも考えられないでしょう。

話し合いの結果、高田さんは弟と妹に1000万円ずつを分割で払うことになりました。住宅ローンとのダブルローンで、なにより悲しいのは、この相続をきっかけにきょうだいの仲がぎくしゃくしてしまったことです。

不動産以外に財産がない場合は注意が必要

このケースから学べることがいくつかあります。まずは、遺産分割争いは、父親の相続(最初の相続)よりも母親の相続(2度目の相続)のほうが揉めやすいということ(父親が先に亡くなった場合を想定しています)。

父親の相続のときは、子どもたちも「母に老後資金や住むところを残してあげたい」という優しい気持ちがあります。そのため、最初の相続で遺産分割争いが起こる可能性は低いわけです。でも、母親の相続での相続人は子どもだけになります。これが親から財産をもらう最後のチャンスになりますから、遺産分割は難しくなるのです。

もうひとつは、遺産が多くない人でも遺産争いは起こるということです。「遺産争いなんて金持ちだけの話」と思っている人は多いと思いますが、高田さんの家のように、たいした財産がなくても揉めることがあります。それどころか、たいした財産もないがゆえに揉め事が大きくなることもあるのです。

少し考えてみてください。仮に3000万円の自宅以外に、多額の現預金があったとしましょう。

高田さんが3000万円の自宅をもらい、弟さんたちがそれぞれ3000万円ずつの現預金をもらうことができれば、きょうだいが揉めることはなかったと思いませんか。つまり、不動産以外にたいした財産がないような人は、かえって注意が必要だということです。

もうひとつは、子どもが2人以上いる場合、どちらかの子どもと二世帯住宅を建てる(同居する)ときには、高田さんのような問題が潜んでいるということ。二世帯住宅は、遺産分割争いを複雑化させる可能性が高いことも肝に銘じておきましょう。

板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。

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