100年近く「行方不明」のクリムト作肖像画、3000万ユーロで落札

オーストリアの代表的な画家のひとり、グスタフ・クリムトによる最晩年の作品で、100年近く行方不明だった肖像画が24日、ウィーンでオークションにかけられ、3000万ユーロ(約50億円)で落札された

ウィーンのオークションハウス「イム・キンスキー」が今年1月、クリムト作の肖像画「リーゼル嬢の肖像」について今回の競売を発表。同社はこの絵の資産価値は5400万ドル(約84億円)を超えるとしていた。

「イム・キンスキー」によると、「リーゼル嬢の肖像」はクリムトの晩年に描かれ、かつてはオーストリア在住のユダヤ人家族が所有していた。1925年の展覧会出品を最後に行方が分からなくなっていた。「世間に知られないまま、オーストリア市民が何十年にもわたり個人所蔵していた」という。

発表によると、肖像画は1917年4月から5月にかけて描かれた。1918年2月6日にクリムトが脳卒中で亡くなった際には、細かい部分が未完成の状態でこの絵はスタジオに残され、やがて発注したウィーンの資産家リーゼル家に寄贈された。

1925年にウィーンで開かれたクリムト展に出品されたのを最後に、この肖像画が公表されることはなかった。1960年代に現在の所有者の先祖にわたり、その後3代にわたり相続されたという。

この絵がだれを描いたものなのか、そしてナチス・ドイツ時代にこの絵がどう扱われていたのか、不明な部分は多く残っている。

当初の発注者で所有者のリーゼル家は、ウィーンでも有数のユダヤ系資産家一族だった。肖像画のモデルは、その一族のアドルフ・リーゼルさんかユストゥス・リーゼルさんの娘のひとりではないかと言われている。

クリムトに詳しいオーストリアの美術史家、トビアス・ナッテルさんとアルフレート・ヴァイディンガーさんは、絵のモデルはアドルフ・リーゼルさんの娘マルガレーテさんではないかとみている。

一方、オークションハウスの「イム・キンスキー」は、ユストゥスとヘンリエッテ・リーゼル夫妻の娘のひとりだった可能性を指摘。「リリー」と呼ばれたヘンリエッテさんは現代美術の支援者だった。ナチスによって強制収容所アウシュヴィッツに移送され、そこで死亡した。

リリーさんの娘、ヘレンさんとアニーさんは第2次世界大戦後も存命だった。

「イム・キンスキー」は、1925年以降のこの絵画がどのように扱われたのかは「不明」だとしたうえで、「競売依頼人の法的な被相続人が1960年代に入手し、3回の相続を経て現在の所有者のものになった」のだと説明している。

競売にかけた所有者たちはオーストリア在住だが、身元は明らかになっていない。今回のオークションは1998年のワシントン原則に沿って、この所有者たちと、リーゼル家の法定相続人を代理して行われた。

ワシントン原則とは、ナチスによって没収された美術品は、奪われた家族の子孫に戻されるという国際的合意。

「イム・キンスキー」のエルンスト・プロイルさんはBBCに対して、「ワシントン原則に基づき、家族全員と合意を結んでいる」と話した。

同社の競売カタログはこの合意を「公平で正当な解決策」だと評価している。

一方で、オーストリア・ユダヤ人団体の代表、エリカ・ヤクボヴィッツさんは、「答えがわからないままの疑問がまだたくさんある」と指摘した。

ヤクボヴィッツさんは第三者による調査を呼びかけ、「略奪美術品の返還はきわめて難しい問題だ。すべての調査は正確かつ詳細に行われなくてはならないし、調査結果は包括的かつ透明でなくてはならない」と述べた。

「個人が所有する略奪美術品の将来的な返還のためにも、最高水準の手続きを確保しなくてはならない」とも、ヤクボヴィッツさんは話した。

オークションにかけられたクリムトのほかの作品は過去に、巨額で落札されたことがある。死後にアトリエで発見された作品「扇を持つ婦人」は昨年6月、ロンドンのサザビーズで競売され、8530万ポンド(約160億円、手数料含む)で落札された。欧州のオークションで売却された美術品として、最高額だった。

(英語記事 'Lost' Gustav Klimt painting sells for €30m

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