「政治とカネ」を巡る日本の法制度はかねて透明性の欠如が問題になっている。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件でもさまざまな欠陥が浮上した。
ところで、海外の法律もこんなに「抜け道」が多いのだろうか―。米上院予算委員会補佐官を務めた経験を持つ元衆院議員の中林美恵子・早稲田大教授に米国との違いを聞いた。(共同通信=岩田朋宏)
▽政策立案費用と選挙費用、完全に分離
―日本と米国で規制に差はありますか。
「米国では、政治家が使う資金が政策立案のための費用と選挙費用とに完璧に分けられています。どちらも収支を詳細に公開しています。透明性を重視する考え方には学ぶべき点があると思います」
―具体的にどのような運用になっていますか。
「まず各議員の政策立案費用を議会が予算化します。資金は議員の手元に直接渡らず、議会内の機関が管理します。人件費や備品の購入など政策立案に関わる経費は、全てこの機関を経由しないと支出できない仕組みです。その上で、何にいくら使ったのかの明細も公開されます」
―選挙費用に回せない仕組みとは、具体的にどんな内容ですか。
「政策立案費用を選挙に転用することは固く禁じられています。例えば、政策立案のために設置した電話では、選挙の話をすることすら許されません。どこに電話をかけたのかは記録が残るので、選挙の話をする時は別の電話を使います。人員も、政策立案のために雇われた公務員と、選挙のために雇われた運動員とに分けられています。例外措置は事前に届け出て許可を得ます。区別の徹底ぶりに驚かされます」
―そんなに明確に分かれているのですね。
「そうなのです。米国では『あれは駄目』『これも駄目』とかなりルールが厳しかったので、私が日本で衆院議員になった時、公設秘書が選挙を手伝う姿を見て『法的に大丈夫なのか』とドキドキしたほどでした」
▽国民や企業が「監査人」の役割を果たす体制
―自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、収支のチェックに第三者の目をもっと入れるべきだとの意見が上がっています。米国の監視体制について教えてください。
「選挙資金の流れは独立機関の『連邦選挙委員会』が監視します。収支報告書の提出を受けると、48時間以内にウェブサイト上で公開する運用です。電子版の報告書であればさらにスピーディーで、提出から24時間以内に公開されます。寄付者や支出先の検索も可能で、いわば国民や企業が監査人の役割を果たしています。日本では、各年の政治資金収支報告書が翌年秋にならないと公表されないわけですから、迅速さが全然違います」
―違反を見つける仕組みはありますか。
「連邦選挙委員会には調査権が与えられており、法令違反が疑われる場合は訴訟を提起できます。2024会計年度の予算要求額は9350万ドル(約140億円)でした。かなりの数の人を雇う余地があり、コンピューターなどの設備投資もできます。透明性を保つために力を入れている何よりの証拠と言えます」
▽完全ではない制度、いずれ改革案?
―日本よりずっと成熟していますね。
「はい。ところが、米国の制度も決して完全ではありません。寄付額などに一定の制限を設けていますが、『スーパーパック』と呼ばれる特定の政治家を支援する独立団体への寄付制限を違憲とした10年の最高裁判決を機に、こうした団体が乱立しました。天井知らずにお金が使われてしまう結果を招き、金権対質化が止まりません。大統領選などが行われる今年は、各種の選挙関連で総計約2兆円が動くとされています」
―こうした状況が見直される余地はあるのでしょうか。
「いずれ改革案が出るのではないかと思います。例えば、大統領選を巡る不正でニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件をきっかけに、連邦選挙委員会が設置されました。数々の政治スキャンダルに見舞われながら、課題が浮上するたび修正の努力が重ねられてきたのです」
―日本も改革できるかどうか試されていますね。
「裏金問題に揺れる今がチャンスだと思います。派閥が良いとか悪いとかの議論ではなく、いかに政治資金の流れを透明化するかです。その第一歩として、米国のように政策立案と選挙運動の費用を完璧に分けるべきだと思います。今、変革しなければ次の機会はないでしょう」
なかばやし・みえこ 埼玉県生まれ。米ワシントン州立大修士、大阪大博士。米上院予算委員会補佐官、衆院議員を経て早稲田大教授。
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裏金事件を受け、岸田文雄首相は今国会中の政治資金規正法改正を明言している。自民党は4月、政治資金収支報告書提出時に国会議員の「確認書」を添付させる「いわゆる連座制」などを柱とする独自案を示した。ただ、使途を公表する必要がない「政策活動費」の廃止などには深く言及しなかった。公明党や野党が求める抜本改革が実現するかどうかはなお不透明だ。