『虎に翼』岩田剛典が伊藤沙莉に恋の剛速球? “漢”轟が悟ったマッチョイズムの正体

『虎に翼』(NHK総合)第19話では、崖から落ちた花岡(岩田剛典)のその後が描かれた。

寅子(伊藤沙莉)は花岡の見舞いに病院を訪れるが、いつ行っても花岡は別の女性と談笑しており、なかなか話す機会がなかった。寅子は、花岡に怪我をさせてしまったのは自分のせいだと考えており、そのことを謝りたいと思っている。そうこうするうちに、花岡は退院してしまった。

花岡が大学へ向かったと聞いた寅子が大学へ行くと、花岡が梅子(平岩紙)と話しているのを目撃する。花岡は梅子にハイキングの日の非礼を詫びた。怪我の具合を気遣う梅子に、花岡は、父親が弁護士で帝大に入りたかったと打ち明けた。「こんな人間になるはずじゃなかったのに」と花岡は言って、これまでの言動を振り返った。

カフェーでちやほやされたことや、仲間になめられないために女性をぞんざいに扱ったこと、帝大生にコンプレックスを抱いていること、女子部から来た寅子たちの前で格好をつけていたが、内心では嫉妬しおびえていたこと。悲しげな表情で「どの自分も嫌いで、どれも偽者というか本当の俺じゃなくて」と吐き捨てる花岡に、梅子は「どれもあなたよ」と返した。

「人は持っている顔は一つじゃないから。たとえ周りに強いられていても、本心じゃなくて演じているだけでも全部花岡さんなの」

梅子の言葉は花岡を励ますものではあるけれど、取りようによっては言い訳を許さない指摘に見える。事実、花岡は「自己弁護ばかり」と反省したが、「自分がかわいいのは当たり前」と梅子は笑って打ち消した。その上で「本当の自分があるなら大切にしてね。そこに近づくよう頑張ってみなさいよ」と加えたのは、まるで自分自身に語りかけているようだった。涙ぐんだ花岡は、今は亡き実母のことを思い出したかもしれない。

花岡が直接梅子に謝罪したのは、轟(戸塚純貴)との会話がきっかけと思われる。寅子を訴えるという花岡を、同郷の轟は「愚か者!」と一喝した。寅子たちのことを「好きになってしまった」と轟は告白する。その理由を「あの人たちは漢だ。俺が漢の美徳と思っていた強さ、優しさをあの人たちは持っている」と言い、花岡に男っぷりが下がっていると猛省を促した。

玉(羽瀬川なぎ)や光三郎(石塚陸翔)の荷物を代わりに持つなど、力仕事を「男の役目」という轟は、ある種のマッチョイズムを体現している。女性や子どもなど“弱きもの”を守るのは男の務めであり、男性は強くて、誰に対しても優しくなければならない。陰で女性に嫉妬し、逆恨みするなど卑劣きわまりない言語道断の所業ということになるのだろう。

しかし、「俺が漢らしさと思っていたものは、そもそも男とは無縁のもの」と轟は悟った。性別が男であることと、強さや優しさは必ずしも結びつかない。当たり前のことに轟は気付いただけだが、男は強くあらねばならないという思い込みがそれを妨げていた。その思い込みを作り出すのは社会であり、家父長制の下で男性には責任と裏返しに特権が与えられた。寅子が花岡と言い争いになったのは、女性を尊重するようで、その実、女性を見下す男性の傲慢さに腹が立ったからである。

梅子に謝ることで、花岡は自身の弱さを認めることができた。家父長制を内面化した花岡の自分のことが嫌いだったという独白は、男性中心の社会で男性自身も苦しんでいることを示している。

寅子と二人きりになった花岡。「せめて私の前では本当の花岡さんでいてほしい」と寅子に言われて、それならと「本当に腹が立つ」と声に出した花岡は、一瞬、本気で女性を見下しているかと思ったが、本心は違った。突然の告白に寅子が戸惑うのも無理はない。ぱっと見は怒っているふうで「君のことばかり考えてしまう」と剛速球を投げつけられ、絵に描いたような少女漫画ヒロインの心境変化を示す寅子。猪爪家の一大事でさらに畳みかけ、物語は絶賛加速中である。
(文=石河コウヘイ)

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