「LINEマンガ」大ヒット中の国産webtoon『神血の救世主』原作・ネーム担当の江藤俊司氏に聞く、創作秘話

■月間販売金額が1.2億円を突破の大ヒット作に!

電子コミックサービス「LINEマンガ」において先行配信中のwebtoon作品『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』(以下『神血』)が大人気である。2024年1月の月間販売金額はなんと1.2億円を突破。今、最も勢いに乗る作品といえるだろう。そんな『神血』は株式会社ナンバーナインの縦読みマンガ制作スタジオである「Studio No.9」が企画したwebtoon第1弾作品である。2022年9月より連載を開始し、2024年4月25日時点で、LINEマンガ他ストアの国内累計合算閲覧数が1億ビューを突破するなど、第1弾作品で大ヒットを記録。異例のヒット作品となっている。

『神血』は異界から現れた生物と、それらに対抗しうる力を持つ“プレイヤー”が存在する世界が舞台の作品で、ある日イジメられっ子の主人公・有明透晴(ありあけ・すばる)の前に、プレイヤーになるために必要な虹色の“試練の扉”が現れ、既存の金・銀・銅のどれでもない、“虹”ランクのプレイヤーに選ばれる。“血液を自在に操るスキルを手に入れ、生活も立場も一変。戦い続ける日々の中、徐々に世界を救う存在・“救世主”としての頭角をあらわしていく、バトルファンタジー作品だ。ヒットの要因は一体どこにあるのか。原作・ネームを担当する江藤俊司氏に話を聞いた。

■原作者が細かいところまで手を加える

――『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』が歴史的な大ヒットとなっていますが、江藤俊司先生は原作者としてどのように見ていますか。

江藤:ありがたいことに去年の7月ぐらいからメディアへの露出が増え、読者の数が拡大したという実感があります。2022年9月から2023年6月半ばくらいまでは、読者に支持してもらおうと地道に頑張っていましたから、現在はそこから一足飛びしたと言っていいほど、状況が変わりました。それゆえ、僕自身、気持ちが追い付いていない状況でもあります。

――webtoonの制作の仕方は従来のマンガとは異なりますが、江藤先生の場合はどのように制作しているのでしょうか。

江藤:スタジオ制作のwebtoonはご存じのように、分業制で1本のマンガを仕上げています。僕の場合はまず脚本を書き、そのあとにネーム(設計図)を作成し、作画担当や着彩担当に向けた指定を入れていきます。具体的な背景の指定なども僕がやっているので、着彩の方に回す前のチェックや写植の位置なども指定していきます。

――かなり細かいところまで、江藤先生の手が入っていて驚きました。分業制というイメージとだいぶ異なるような……。

江藤:そうですね。僕は一般的に考えられているマンガの原作者よりも、ひょっとしたらアニメーション監督に近い仕事をしているかもしれません。シナリオのみご担当される原作者もいらっしゃいますが、僕はかなり細かくネームを描いて、作画担当に具体的なイメージを伝えるようにしています。

■トレンドを取り入れつつ王道も意識

――webtoonなどのウェブコミックは、雑誌連載のマンガよりも流行を取り入れる傾向が強いように感じます。江藤先生はトレンドの分析をすることはありますか。

江藤:『神血』の企画を立てる際には当時のトレンドや、既出のヒット作の分析を行いました。ソシャゲのガチャの仕組みや、見たときにパッと理解できるビジュアルなど、わかりやすさ重視で物語を考えている部分は大変参考になりました。

――江藤先生はもともと「ジャンプ+」で連載されていたそうですね。その時の経験も原作執筆にいかされているのでしょうか。

江藤:主人公だけじゃなく、いろいろなキャラを好きになってもらえる作品にしようと、初期にリリース予定だった話数が終わったあたりから意識するようにしました。キャラを丁寧に作るのは、昔からの横読みマンガの伝統ですよね。例えば、比良坂蓮爾(ひらさか・れんじ)は1話の段階からできる奴という感じを出して、最強のプレイヤーとして描きました。対して、22話では戦闘以外は何もできないという弱点を重点的に描いて親しみを持てるようにしました。

――そして、内容も少年マンガの王道的な展開ですよね。

江藤:主人公の新1年生が入学してきたら、上級生にめちゃくちゃ強い上級生がいて、相手を倒しながら進んでいくという、いわゆるヤンキーマンガのメソッドも取り入れています。そういった点は他のwebtoonの作品と違うので、新鮮味をもって読まれたのかもしれません。

■コメント欄を活用する方法

――先行配信されている「LINEマンガ」の特徴といえば、最後についているコメント欄が挙げられます。江藤先生はコメントをチェックしていますか。

江藤:『神血』に寄せられたすべてのコメントには目を通していますし、SNSでエゴサーチもしています(笑)。僕は1話の中に、キャラ、ドラマ、サービスなどをいかに配合するかと考えるのですが、『神血』だと透晴をいじめていた佐渡がいなくなる回は、厚めにドラマを創ったらコメント欄での反応が良くて手応えを感じました。キャラのセリフのこういうところが良かったとか、具体的な反応をしっかり見るようにしています。

――読者の反応は創作の糧になると思いますが、なかにはネガティブな意見が寄せられることも多いのではないでしょうか。

江藤:無料公開されているときは露出が増えるので、普段より様々な、時には辛辣なコメントを頂くこともあります。でも、僕はそっちのほうがいいんです。一番困るのはリアクションがないことですから、肯定も否定もどちらも大歓迎です。否定的な意見を目にすると辛いと感じる作家さんもいらっしゃいますが、僕の場合は作品を自分と同一の人格だと思っていないので、ある種距離を置いた対応ができるのかも知れません。

■縦読みマンガの市場は拡大していくのか

――縦読みマンガのシェアは年々拡大していますよね。『神血』のヒットで、ますます市場が活気づき、横読みから縦読みにシフトしていく可能性はあり得そうです。

江藤:横読みも縦読みも両方やった立場から言うと、僕は両者が共存していくと思っています。もちろん、可処分所得や時間の奪い合いはあるかもしれませんが、スクロールして読んでいくwebtoonは横読みとは読後感が異なるので、まったく別のメディアだと思っています。

――なるほど。横読みと縦読みの両方を知る江藤先生が見て、webtoonのメリット、デメリットはどんな点だと思いますか。

江藤:webtoonはどうしてもスマートフォンのサイズに依存し、スペースに制約があります。同時に大量のキャラが出たり、視線を複雑に移動させるバトルマンガは構造上難しいですね。したがって、群像劇のような作品にはあまり向かないと思います。ただ、余白を長くして心情をじっくり描くとか、テンポのコントロールが横読みに比べるとしやすいメリットはありますね。

――視線誘導の仕方が、横読みはS字ラインでコマを読んでいくのが基本ですが、縦読みは上から下にスクロールするような感じですね。

江藤:僕は視認性と可読性が大事だと考えているので、読者にいかにストレスをかけないか、かなり意識して作品を作っています。『神血』も最初と比べると、表現の仕方が変わっていると思いますよ。今も、一画面にどれだけの情報量を入れれば読者が読みやすく感じてくれるのかと、模索を続けています。まだwebtoonは横読みのマンガよりも成熟していない分、表現の革命が起こる可能性は大いにあるとみています。

■webtoonの未来はどうなっていくのか

――とはいえ、従来のマンガファンには、まだwebtoonに抵抗がある人は多いと思います。

江藤:webtoonが登場したときは、若い読者が早く順応した印象があります。ずっと横読みに慣れていた読者からは、賛否両論の反応がありましたよね。ただ、今誰もが使っているSNSも、出たときには賛否ありましたが、いまでは当たり前になっています。同様に、webtoonに抵抗感を抱く人はまだ多いかもしれませんが、徐々に受け入れられていくと思います。

――そういう意味で、江藤先生は日本のwebtoonの開拓者になり得るわけですよね。

江藤:新しいことに挑戦させていただく機会に恵まれ、本当にありがたいと思っています。2021年のタイミングで、ナンバーナインに誘ってもらって良かったと思っていますし、そして今、『神血』で培ってきたノウハウをさまざまに取り込んで、『俺だけ最強超越者~全世界のチート師匠に認められた~』を作っています。試行錯誤を重ねて指針が定まってきたように思うので、今後はスタジオの柱になる作品を2~3本出すことが目標です。そして、日本発のwebtoonのひとつの指針を示したいですね。

――最後に、webtoonの可能性をどのように見ていますか。

江藤:演出面などで誰もやったことがない手法を発明できたら最高だな、と思います。今以上にめちゃくちゃ読みやすい演出が生まれたら、読者の裾野が広がっていくと思うんですよ。そして、webtoonのマンガ家になりたいと若い人たちから憧れられるような作品を作れたらいいなと思ってます。

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