あの“絶世の美女”も九相図に…『呪術廻戦』に登場した「九相図」にまつわるゾッとする話

アニメ『呪術廻戦』(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

「全力でお兄ちゃんを遂行する!!」というセリフで話題になった、『呪術廻戦』の人気キャラクター・脹相。彼は、一番から九番まである特級呪物「呪胎九相図」の1番であり、兄弟愛あふれるお兄ちゃんだ。今回は、この九相図にまつわる話を紹介したいと思う。

■呪胎九相図は本当にあったのか?

『呪術廻戦』に登場する「呪胎九相図」とは、人間と呪霊との間にできた混血児を堕胎させ、その胎児が呪物化したものだ。九度にわたる妊娠・堕胎がおこなわれたため、9番までが存在する。作中には、このうち1番の脹相(ちょうそう)、2番の壊相(えそう)、3番の血塗(けちず)が登場した。

さて、結論から言うと、呪胎九相図そのものが存在した記録は、調べる限り出てこない。

しかし「九相図」というもの自体は確かに存在する。それは経典などに記された仏教絵画であり、野ざらしにされた死体が朽ちていく様子を9段階に分けて描いたものだ。

この最初の段階を脹相、2段階目を壊相、3段階目を血塗相という。呪胎九相図が生まれる前の胎児であるのに対し、実在する九相図は死んだ後の様子というのが対照的だ。

描かれる段階は作品によって異なり、1番を「死相(臨終の瞬間)」とするものもあるから、その場合は脹相の上にもまだお兄ちゃんがいることになる。

■せっかくなので1番から3番までを見てみよう

それでは、九相図の脹相・壊相・血塗相はどのような状態なのか、具体的に見ていこう。生々しい描写が苦手な人は飛ばしていただきたい……。

まず脹相は、死体が腐敗し始め、発生した腐敗ガスによって全身が膨張する状態だ。このとき、血中のヘモグロビンと腐敗ガス中の硫化水素が結合して、皮膚が青紫色になるという。

『呪術』の脹相はスリムで膨張とはほぼ遠かったが、まぁ確かに血色は悪いし血を操るし……という点で、なんとか共通点をこじつけることはできる。

続く壊相は膨張した死体の皮膚が破れ始める状態、血塗相は破れた皮膚からドロドロに溶解した脂肪や血液などが流れ出る状態を指す。

『呪術』の壊相は背中にグズグズになった顔型の傷があり、血塗にいたってはもう人の形を保っておらず、膨れた身体で血を吐き出す。そして二人の術式「蝕爛腐術」は、粘膜や傷口から兄弟どちらかの血液を取り込み、どちらかが術式を発動した際、侵入箇所から腐敗(分解)が始まるというものだ。このあたりは実際の九相図とも共通点が多く納得しやすい。

■あの“絶世の美女”も九相図に…

そもそも、なぜこのようなゾッとする絵を描く必要があったのか。それは、修行僧が肉体の不浄を知って色欲を断つためだとされている。つまり、“どんなに心奪われる美女も、死ねばどうせ腐って骨になるだけよ”ということだ。というからには、九相図に描かれた死体は美女のもの。なかには、世界三大美女の一人で知られる小野小町の九相図も現存しているという。

ちなみに小野小町については、こんな怪談が残っている。

今は昔、古典の教科書でもお馴染みの在原業平が旅をしていたときのこと。ススキのなかから「秋風の吹きちるごとに あなめあなめ(秋風が吹くたびに、あぁ目が痛い!)」という歌が聞こえる。何かと思って見てみると、ドクロが転がっており、その目の穴からススキが生えていた。

村人の話によると、それは小野小町のドクロだという。若い頃は絶世の美女ともてはやされた小町も歳をとって美貌は衰え、挙句の果てにこんな姿になってしまった……ということだ。

気の毒に思った業平は「小野とはいはじ すすき生ひけり(小野小町の哀れな最期だとは言うまい、ただススキが生えているだけだ)」と返した。すると、ドクロの声は止んだのだという。

小野小町が本当に成仏できたかは分からないが、村人の話を聞くにつけ、人の世を呪いたくなる気持ちもまぁ分かる。

小野小町九相図をはじめ、現存する九相図は美術館や寺院で公開されていることもあるので、興味のある人はぜひ実物を見に行っていただきたい。

九相図は決して呪物ではないが、この世の無常に寄せて、見る人の心にさまざまな感情を惹起させる。そういう点では、ある意味どこか呪物的な側面を持つとも言えるのかもしれない。

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