『パンドラの果実』新作は科学の急進化をどう扱う? 過去イチ刺激的なシーズンになる予感

ディーン・フジオカが主演を務め、岸井ゆきのらが共演するドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』の新作が6月16日に日本テレビ系で放送されることが決定した。さらに、Season3がHuluにて独占配信される。

前作からこれまでの間に、科学は飛躍的に進歩した。Season1で天才科学者・最上友紀子(岸井ゆきの)は、ウナギの完全養殖を実現しようとしていたが、それも少しずつ、現実に近づいている。Season1放送時点では、2010年に水産研究・教育機構が世界で初めてウナギの完全養殖に成功していたが、放送後、2023年に近畿大学が大学として初めてウナギの完全養殖に成功。持続可能な生産はまだ難しいが、きっとそれも近いうちに実現するだろう。

また、情報の分野では、これまで単に人工知能やAIといわれてきたものとしてはChatGPTに代表されるような生成AIが加わり、こちらから、何か質問や要望を文字で入力すると、それに対してAIが文字や画像を“生成”して応答するということができるようになった。ChatGPTを使うとまるでコンピュータの向こうのAIとチャットをしているようだ。しかも、インターネット空間の知識を学習しているAIは、質問によっては、人間の私たちよりも的確な返答をしてくれる。

本作は、起こってしまった事件を解決していくので、謎解きや考察を楽しむドラマでもあるが、実は「科学の進歩をどう捉えるか」を問うものでもある。生命工学に詳しい警察官僚・小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)は「科学は人類の光」と断言する。簡単にいえば、科学や技術の進歩が私たちの生活をより豊かにしてくれると信じているのだ。実は、小比類巻が強くそう信じているのには理由がある。小比類巻は妻を亡くしているのだが、その事実をうまく消化することができていない。いつか科学が発展したら生き返らせることができるのではないかと妻を凍結保存しているのだ。

逆に最上は、「現代科学のその先は闇」と声を落とす。現代科学はもう踏み入れてはいけない領域に来ていて、人間の「知りたい」という欲求だけで進むと取り返しのつかない事態を招くというのだ。最上がそう考えるのにも訳がある。最上はかつて「若返りウイルス」を研究していたのだが、そのウイルスには重篤な副作用があったのだ。感染すると細胞が老化しない代わりに、生きるために膨大なエネルギーを必要とするため、見境なく“共食い”をしてしまうのだ。

小比類巻と最上、どちらの意見も100%正しいわけではないが、100%間違っているわけでもない。だからこそ、ドラマを通して最先端科学に触れながら「科学の進歩」についてその人なりに考えてほしいという願いが込められているように感じる。

小比類巻を演じているディーンと最上を演じている岸井は、科学に関する小難しい単語を使った会話を「今日は少し暑いね」と言うようなテンションのまま、実に淡々と重ねていく。それがふたりの“天才感”を高めており、この物語をより深いものにしている。佐藤隆太が演じる三枝は、時折、おどけたところを見せるが小比類巻の情報源として機能しているので、どちらかといえばふたりと同じ“天才派”だろう。

その一方で、この物語に広がりを持たせているのが、高い行動力で数多くの犯人を検挙してきた刑事・長谷部を演じるユースケ・サンタマリアと格闘技が得意な奥田を演じる吉本実憂、“体力派”のふたりだ。彼らは科学にそこまで詳しくはない。だから、小比類巻や最上が難しい議論をして、変に考え込んでしまっても、すぐに「まずは行動!」と発破をかけてくれる。この絶妙なバランスが科学犯罪対策室チームをいいチームにしてくれている。

だから、「やっぱり科学は難しそう」なんて思わないでほしい。使われる言葉は聞きなれないものかもしれないが、本シリーズは、科学の進歩や発展が人の思いによって進んできたことが感じられるようになっているのだ。科学者も一人の人間であり、苦悩することもあるのだ。2年でさらに進んだ科学を題材に、どんな事件と人間ドラマが描かれていくのか。期待で胸が躍っている。
(文=久保田ひかる)

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