偽広告に利用された前明石市長・泉房穂さんは怒り 「プラットホームの責任は極めて重たい」 SNS上で著名人に成りすました投資詐欺相次ぐ

著名人になりすましたニセの広告による投資詐欺が相次いでいる問題で、被害者らが広告を掲載したメタ社を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こした。

■相次ぐSNS上の著名人に成りすました投資詐欺 成りすまされた泉房穂さんを取材

多くの著名人がニセの広告に悪用される中、名前や写真を使われた1人、泉房穂さんが関西テレビの取材に応じた。

前明石市長・泉房穂さん:これ完全になりすましで、何の関係もないんです。市長辞めた後も、いろいろ発信しているけど、インスタもフェイスブックもやってないんです。

前明石市長の泉房穂さん、その怒りの矛先はインスタグラムに掲載されていた投資広告だ。「泉房穂投資教室」と書いてあるページには、複数の本人の写真が掲載され、講習が「完全無料」であることが強調されている。しかし、よく見ると不自然な日本語が書かれている。

いまこうしたSNSを使った投資詐欺の広告が急増している。中でも著名人になりすましたニセ広告に騙される被害は後を絶たず、社会問題となっているのだ。

なぜだまされてしまうのか。名前を悪用された泉さんは犯行グループの「巧妙な手口」を指摘する。

前明石市長・泉房穂さん:これ私がツイッター(X)とかインタビューでしゃべったことが、全部文章になってるんで、99パーセントぐらいはそのままなんです。本当にびっくりしたのは、文章の最後に『皆さん最近はなりすましが多いからご注意ください』と書いてる。なりすましが『なりすましにご注意ください』って書いてあってもう…なんとかせんとあきません。

一般的に、犯行グループは「著名人と親しい」とうたい、実在しない金融業界のプロが運営する投資グループに勧誘、”投資の運用資金”などと偽って金をだまし取る。

警察庁によると(SNS型投資詐欺)同様の手口での被害は、去年1年間だけで2200件以上あり、被害総額は約278億円にのぼるとみられている。

■SNSの投資詐欺被害者が「メタ社」を集団提訴

こうした中、新たな動きがあった。ニセ広告を掲載したSNSの運営会社の責任を訴え、25日、被害者たちが全国初めての集団提訴に踏み切ったのだ。

弁護団によると、神戸市などに住む原告4人は、メタ社が運営する「フェイスブック」などのSNSで、実業家の前澤友作さんなど著名人になりすましたニセの広告にアクセスした。

その後、アシスタントを名乗る人物から、ウソの投資の勧誘を受け、投資資金として指定された口座に送金したという。

4人は、メタ社が「広告の真実性を調査して掲載する義務があるにも関わらず怠った」などとして、メタ社の日本法人に対し、約2300万円の損害賠償を求めている。

原告弁護団長 国府泰道弁護士:(メタ社は)多額の広告収入を得ていながら、詐欺広告のチェックができていない。広告のチェックの甘さが被害を巻き起こしている。メタ社がもっと早く詐欺広告を規制してくれていたならば、原告は被害に遭うことはなかった。

■SNS詐欺被害にあって、家族の人生も変えてしまった

メタ社に対して損害賠償を求める人は他にも。集団訴訟グループに参加して、これから提訴する予定の40代の男性だ。著名人をかたった投資広告にアクセスし、約1400万円をだまし取られた。

(Q.有名人がやってるから気になって押した?)
詐欺被害に遭った男性:もちろんそこから入りますよね。

きっかけは投資の勉強が目的だが、被害によって家族の人生も変えてしまったと後悔している。

詐欺被害に遭った男性:子供が実は高校受験ですごく大変な時期で、私立を希望していたんです。詐欺の被害額を見ると、行かせたいんですけど、行かせられない。公立に切り替えてもらったんですよ。娘の進学や夢を壊してしまっているので、本当にすまない気持ちでは…言葉が見つからない。

男性は犯行グループだけでなく、ニセ広告を掲載したメタ社にも憤りを感じている。

詐欺被害に遭った男性:(ニセ広告)今でも出ているわけじゃないですか。この金が(広告料として)結局メタ社に入ったり、反社会勢力に入ったり。悪循環なんですよ。だからもう本当にやめてもらいたい。もう殺人と同じですよ。

■記者が実際にニセ泉さんの投資クラブに潜入

いまや誰もが使う生活インフラともいえるSNSを使った投資詐欺。

記者がインスタグラムを見てみると、泉房穂さんのニセ広告が実際に出てきた。

記者リポート:泉さんの投資クラブに私も参加したいと思います。ボタンを押すとLINEに誘導されました。泉房穂さんが出てきましたが、よく見ると『泉房 穂』になっています。

名字と名前のスペースが不自然に空いている。

本人かどうか確認するため連絡を取ると、早速返信が…
記者リポート:「はい。泉房穂本人です。優良株情報の受け取りに来られたのでしょうか。」

やり取りを続けると、金融業界で20年以上の経験を持つという、安藤忠雄という人物を紹介された。

記者リポート:泉さんから紹介していただいた、金融業界のプロ、安藤さんのLINEを追加しようと思います。友達1262人もいます。

世界的に有名な建築家・安藤忠雄さんではないようだが、安藤さんが株式投資について教えてくれるというグループに誘導された。泉さん本人が否定しているのに、あたかも本人のように振る舞うニセ泉。

そこで記者は…。
記者リポート:私は記者だと身分を明かして、改めてメッセージを送ってみます。

電話を掛けても、つながらない。そしてメッセージが返ってきたが…

記者リポート:泉さん本人に話を聞いたことも伝えたんですが、それでも本人だと言い張りました。さらに悪びれることなく、投資の勧誘を続けてきました。

名前を悪用された泉さん。泉さんのニセ広告について、メタ社に削除申請があったものの、却下された。

メタ社によると削除申請があった広告はAIや人の目で審査を行うが、AIの判断ミスや人的なミスによって、削除されないこともあるという。

泉さんはメタ社の今後の対応次第で民事提訴や刑事告発を検討している。

前明石市長・泉房穂さん:詐欺グループから金をもらってるんですよメタ社は。連絡つくはずですやん。一番情報を持っているのはメタ社なんですよ。そういう意味ではメタ社の責任は極めて重たい。

これ以上詐欺で苦しむ人を出さないためにも早急な対応が求められている。

■なりすまし広告詐欺のプラットフォーム側の法的責任は「利益の帰する所に、責任も帰する」

このような著名人をかたった巧妙な手口を取材した記者によると、やり取りの中で日本語がそれほど変だと感じることはなく、相手が日本人なのか外国人なのかよく分からなかったという。やり取りの最初は、支払いや振込の話は出ないのだが、途中に著名人から金融のプロを紹介するという流れになるということだ。

プラットフォーム側の対応を見ていく。今回、訴えを起こされた側のメタ社に取材した。

メタ社によると、
・“人の目”“AI”で事前に審査
・ニセ広告の報告があれば「再審査」
・自主的に著名人の広告削除

こういった対応を行っているというものの、メタ社からは次のような回答もあった。

▽相手側も巧妙にAIをすり抜ける
▽人の目では全ての審査は難しい
▽膨大な量で見逃すこともある

対策はしているものの追いついていないという現状のようだが、なりすまし広告詐欺の問題でのプラットフォーム側の法的責任について、番組コメンテーターの菊地幸夫弁護士は次のように話す。

菊地幸夫弁護士:要するにメタ社は、こういう広告が事業収入の中の主要部分を占めていると思います。莫大な利益を上げている一方で、このように人に損害を与えるような事象も発生していると。法律の中の1つの考え方として、『利益の帰する所に、責任も帰する』と。だから当然、その利益でしっかり見逃すことがないような対策に十分な資金を投入しなさいということになると思います。これだけ偽物だということが明らかになっても、いまだに泉氏のニセ広告が出ているのは異常だと思います。

プラットフォーム側の対策強化が急がれるとともに、私たちも警戒を高めていかなければならない。

(関西テレビ「newsランナー」2024年4月25日放送)

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