松下洸平に“溶ける”春になってしまう 『9ボーダー』破壊力抜群の「好きになっていいよ」

春の陽光のごとく輝く松下洸平に胸を射抜かれた。金曜ドラマ『9ボーダー』(TBS系)の放送が開始し、コウタロウ(松下洸平)の溢れんばかりの魅力に動揺を禁じ得ない人も多いのではないだろうか。初登場の瞬間からギターの弾き語りで甘い歌声を披露、さらには「好きになっていいよ」と七苗(川口春奈)の心を大きく揺さぶる。このところ様々な作品で新たな魅力を見せ続けてきた松下は、今回のコウタロウ役でさらなる魅力を開眼させ視聴者を虜にする。

松下は2023年の秋ドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)で春木椿役を演じた。松下、そして多部未華子、今田美桜、神尾楓珠によるクアトロ主演で話題となった本作は、松下らが世の中の些細なことに疑問を投げかける姿を通して多くの共感と議論を呼び起こした。さらにはこの先、NHK大河ドラマ『光る君へ』への出演が控えており、謎めいた魅力を持つ宋の見習い医師・周明役でまひろ(吉高由里子)と親しくなることも明かされている。朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)をきっかけにブレイクし、そこから勢い衰えることなく駆け抜ける姿がまぶしい。

加えて松下は、芝居だけでなくシンガーとしても活躍中。2023年末には2ndフルアルバム『R&ME』をリリースしていることから、『9ボーダー』での優しい歌声は彼の歌の才能の賜物とも言える。映画、ドラマ、舞台、ラジオ、そして歌とマルチな才能で魅了する松下だからこそ、セリフ以上に多くを語る表情や仕草でも人々の心を強く惹きつけることができるのだろう。

特に今回『9ボーダー』のコウタロウ役ではその輝きが桜吹雪のように炸裂している。事故をきっかけに記憶を喪失しているというコウタロウは、名前さえ本名ではない。そして自分がどこの誰なのかも全く覚えていないのだ。だがコウタロウは記憶がないという現状を悲観しすぎていない。日差しの中でのびのびと歌を歌う姿も、桜にうれしそうにはしゃぐ姿も、あつ子(YOU)や七苗の言葉を借りればまさに「幸せそう」。何も覚えていないという不思議な掴みどころのなさと混じり合い、えも言われぬ魅力を放っている。

コウタロウは声も表情も春の陽射しのように優しく温かく、苦しい時にふと寄りかかったら包み込んでくれそうな安心感を持ち合わせている。それは地に足のついたどっしりとした安心感とはまた違って、柔らかく心地の良いものにフカフカと埋もれていくような多幸感あふれるような感覚だ。こうした形容し難い感情を、芝居を通して表現できるのが松下洸平という俳優なのだ。

「俺のこと好きになっていいよ、俺もきっと君を好きになる。そんな気がする」

コウタロウが微笑みながら七苗に伝えたこの言葉は満開の桜と相まって、とてもロマンチックに響く。そして長く綺麗な指先で丁寧に七苗の手を絡めとる様子は、本作がきっと心震わす物語になると強烈に印象付けたことだろう。コウタロウにどんな秘密があるのか、彼が記憶をなくす前はどんな人だったのか。「この人を知りたい」と思わせる第1話のラストは、間違いなく多くの人がこのドラマを見続けようと思えたきっかけとなったに違いない。

3姉妹の“モヤる”気持ちにフォーカスを当てた『9ボーダー』。この後、松下演じるコウタロウはもちろん、松嶋朔(井之脇海)、高木陽太(木戸大聖)らが3姉妹と関わる中でどうモヤモヤを晴らしていくのかに注目したい。そして松下洸平の魅力にずぶずぶと溶ける春にしたい。

(文=Nana Numoto)

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