もし母が亡くなった場合、「凍結」される前に葬儀費用など必要な分だけ預金は引き出せますか?

なぜ預金口座は凍結されるの?

亡くなられた方の預金口座は、金融機関が口座名義人の亡くなられた事実を把握した時点で、預金口座からの引き出しや振り込みができない、いわゆる「凍結」状態となります。

これは、亡くなられた方の資産を保護することを目的としており、相続手続が適切に行われ、引き継ぐべき人が引き継ぐことを確認できる書類を持参することで凍結は解除されます。

原則として、相続が発生すると、故人の預金口座を含む財産は、すべての相続人の共有財産となります。遺産分割が確定するまでの間は、預貯金の払い戻しは、すべての相続人の合意がなければできません。

つまり、不正な取引による相続人間のトラブルを防ぐとともに、金融機関がこうしたトラブルに巻き込まれることを回避する対策でもあります。

凍結解除までの期間は、遺言書や遺産分割協議などにより故人の財産を引き継ぐ体制が整うまでの期間であるため、数ヶ月から1年以上かかる場合もあります。

現実としては、生前にキャッシュカードを預かり、暗証番号を聞いておけば引き出しに困らないという話も聞きます。ただし、定期預金は解約できませんし、相続発生日以降の資金移動は、他の相続人や税務署からのあらぬ疑いを招きかねないため差し控えるべきでしょう。

基本的には、相続人から金融機関に対して、死亡の連絡をすることが信頼関係を維持するためにも大切です。

家庭裁判所への申し立てによる払い戻し

故人に扶養されていた遺族等が生活費としてお金を引き出す必要がある場合には、遺産分割前であっても、家庭裁判所に対して申し立てを行うことで金融機関から単独で払い戻しを受けることができます(※)。

この場合、必要性とともに、他の共同相続人の利益を害しないことが要件となります。また、払い戻しできるのは、家庭裁判所が仮取得を認めた金額までです。

払い戻しを行うためには、家庭裁判所の審判書のほか、亡くなられた方の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、払い出しを受ける方の印鑑証明書等を金融機関に持参のうえ手続きを行います。

なお、ここで生活費として引き出された預金については、その後の遺産分割協議にて調整されることになります。

家庭裁判所の判断を経ずに、払い戻しができる制度

葬儀費用の支払いなど、遺産分割協議や家庭裁判所の審判を待てないという場面では、家庭裁判所への申し立てを経ずに単独で金融機関から払い戻しが可能な制度の活用がおすすめです(※)。

単独で払い出しができる金額は、

相続開始時の預金額 × 1/3 × 払い戻しを行う相続人の法定相続分

なお、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払い出しは150万円が上限となります。

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例)相続人が兄と弟の2人であり、相続開始時の預金額が1200万円であった場合
1200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 → 上限額150万円
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計算上は200万円になりますが、上限額があるため、単独で引き出せるのは150万円までです。

払い戻しを行うためには、亡くなられた方の除籍謄本のほか相続人全員の戸籍謄本、払い出しを受ける方の印鑑証明書等が必要です。ただし、金融機関により異なるため取引金融機関へお問い合わせください。

まとめ

親として、子に迷惑をかけないよう生前に相続等の準備をしているケースは多いものの、見落としがちな「凍結」です。子にとっても、大切な親を見送るにあたって、預金口座に残高はあるものの引き出せず困るケースや誰が葬儀費用を負担するかでもめるケースも散見されます。

こうした払い戻し制度があることを知っておくことで、無用なトラブルや心配を回避することができるでしょう。いずれにしても、他に相続人が複数いる場合には、勝手な行動はせず、相続人間で話し合い、合意のうえで手続きを行うことが大切です。

出典

(※)一般社団法人全国銀行協会 遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ

執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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