事業承継の大問題〈株式の分散〉を阻止する方法…株式を会社が買い戻す「自己株式の取得」のやり方【事業承継のプロが助言】

(画像はイメージです/PIXTA)

会社を承継する場合、後継者に会社の株を集約する必要がありますが、株式の価格によっては後継者個人の資金では対処できないケースもあります。そのような場合、株式を会社が買い戻す「自己株式の取得」を行うことが考えられ、それに向けてのやり方や注意点を見ていきます。本連載は、事業承継士・中小企業診断士の中谷健太氏の著書『「子どもに会社をつがせたい」と思ったとき読む本』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

「会社による自己株式の取得」という方法

経営者や後継者個人で分散した株式を買い集めようとするとき、株式の買取り価格が高ければ多額の現金が必要になり、資力がなければ実現しません。そこで会社が、会社の資金で分散している株式を買い戻すことで、個人の資金を拠出することなく、持ち株比率をコントロールできます。

発行された株式を会社が買い戻すことを「自己株式の取得」といいます。それによって自社で保有される株のことを「金庫株」と呼びます。

たとえば、図表のように3000株を発行している会社であれば、株主A、B以外の分散した株式1050株を会社で買い戻すことで、結果的に株主A、Bの株式シェア率を高めることができます。買い取った株式は、会社の保有期間中はその分の議決権の効力がなくなるため、後継者の持つ株式の議決権割合が高まります。

[図表]自己株式の取得でシェアを高める

会社による自己株式取得はメリットが多いように思えますが、際限なく自社株を買い取ることができるわけではありません。資力のない会社がどんどん自社株を買い取っていくと、資金が流出し(財産的基礎を損ない)、会社債権者(債権を持つ金融機関や取引先)が不測の損害を負いかねません。

また、一部の株主のみから株式を優先的に買い取る場合や、取得価格によっては株主平等原則にも反します。そこで会社法では、会社が自社株を株主から買い取るときに「財源規制」「手続き規制」を設けています。

規制に違反して自己株式の取得が行われた場合には,会社の利害関係者すべてに悪影響が及ぶことになりかねないため、規制に違反する自己株式取得は原則として「無効」とされています。財源規制に応じた自社株買取りを行わなくてはなりません。会社が自己株式を取得するときには株主に金銭等を交付することになり、これは実質的に出資を払い戻すのと同様であり、会社の財産的基礎を損なうことになります。そこで財源規制が行われるわけです。

買取り時点の「分配可能額(剰余金の額-自己株式の帳簿価額)の範囲内」でしか、会社は自社株を買い取ることはできません。

手続き規制は、「株主を特定しないで取得する場合」と「株主を特定して取得する場合」に分かれますが、後者のほうが厳格な手続きが必要となります。

◆株主を特定せずに取得する場合

株主を特定せずに取得するスキームは、下記のとおりです。

1.取得に関する事項の決定(株主総会の普通決議)

●取得する株式数

●取得と引換えに交付する金銭等の内容およびその総額

●取得することができる期間

2.取締役会において下記を決定

●取得する株式数

●1株の取得と引換えに交付する金銭等の内容および額(またはその算定方法)

●取得と引換えに交付する金銭等の総額

●株式譲渡の申込期日

その上で、全株主に譲渡の機会を与えるため、これらの事項を株主に通知または広告

3.譲渡を希望する株主から株式数を明示して譲渡の申込みがなされることにより、自己株式を取得

※ただし、譲渡の申込数が取締役会において定められた取得する株式数を超えた場合には、譲渡を申し込んだ株式数に応じた按分比例により、自己株式の取得が行われる。

◆株主を特定して取得する場合

特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主平等原則の観点から「売主追加請求権」という権利を認めています。そのため、決議を行う際に他の株主に対しても。「売却を希望する場合には希望する売却数等の申出を行う」ように知らせなくてはなりません。

売主追加請求権を無効にしたい場合には、定款の変更を行う必要があり、特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、かつその議決権の3分の2以上の賛成)を行います。

スキームは下記のとおりです。

1.原則として、2の株主総会の2週間前までに株主全員に対して「売主追加請求」を行使できる旨を通知

※2の株主総会の2日前までに、株主は会社に対して「特定の株主」に自己を加えたものを議案とするよう請求できる。

2.取得に関する事項の決定(株主総会の特別決議)

●取得する株式数

●取得と引換えに交付する金銭等の内容およびその総額

●取得することができる期間

●会社法158条に基づく通知を特定の株主に対して行う旨

3.取締役会において下記を決定

●取得する株式数

●1株の取得と引換えに交付する金銭等の内容および額(またはその算定方法)

●取得と引換えに交付する金銭等の総額

●株式譲渡の申込期日

そのうえで、決定した株主に譲渡の機会を与えるため、これらの事項を株主に通知または広告

4.譲渡を希望する株主から株式数を明示して譲渡の申込みがなされることにより、自己株式を取得

※ただし、譲渡の申込数が取締役会において定められた取得する株式数を超えた場合には、各株主が譲渡を申し込んだ株式数に応じた按分比例により、自己株式の取得が行われる。

非協力的な株主を排除する「スクイーズアウト」のやり方

株主が株式の集約に協力的でない場合や、譲渡交渉が決裂した場合、取引による株式の集約は困難になります。それでも株式を集約したい場合、あるいはその株主を排除したい場合には、強制的に少数株主を会社から締め出してしまう「スクイーズアウト(少数株主排除)」の手続きを行うことも考えられます。

スクイーズアウトでよく使用される方法は、「特別支配株主の株式等売渡請求」と「株式併合」です。

オーナーが、90%以上の議決権を有している場合には、「株式等売渡請求」を行うのが簡便です。株主総会を開く必要がないためです。「株式併合」を利用するときは、株主総会の特別決議が必要となります。特別決議は原則として、「議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会」で、「出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要」です(定款で加重・軽減されている可能性もあります)。

それぞれの方法について説明しましょう。

◆「特別支配株主の株式等売渡請求」

簡単に言えば総株主の議決権の90%以上を1人(または1社)の株主が保有している場合、他の株主全員に対して彼らの保有する株式全部を自分に売り渡すことを請求できるというものです。

株主総会手続きが不要であることなど、比較的簡略である一方で、総株主の議決権の90%を有していなければならないという高いハードルがあります。

◆「株式併合」

数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にする手続きです。現在スクイーズアウトには、この株式併合が利用されることが多いようです。

たとえば、10株を1株に統合します。これがなぜスクイーズアウトになるかというと、たとえば全部で100株を発行している株式会社において、オーナーが80株を持っており、残りの少数株主が9株、8株、3株を持っている場合に、10株を1株に併合するとします。この場合、オーナーは8株保有の株主になりますが、その他の少数株主は1株に満たない端株となり金銭処理されることになります。

つまりオーナー以外の株主がいなくなるということです。なお、株式併合を実施する場合には、株主総会の特別決議が必要となります。

◆「全部取得条項付種類株式」という方法も

ほかのスクイーズアウトに、「全部取得条項付種類株式」を利用する方法もあります。

全部取得条項付種類株式とは、一般的に発行される普通株式とは異なる種類株式の一種です。株主総会の特別決議を経れば、会社がそのすべてを強制的に買い上げられるという、特別な株式で、これを利用し、少数株主の株式を取得することで支配権を強化したり、会社経営にとって都合の悪い株主を排除したりすることができます。

中谷 健太
株式会社新経営サービス 経営支援部マネージャー
事業承継士/中小企業診断士/経営革新等認定支援機関

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