深刻な「後継者難」倒産、2023年度は過去最多の456件 代表者の「死亡」「体調不良」が約8割、承継準備が急務

2023年度(4-3月)の「後継者難」倒産

2023年度(4-3月)の後継者不在に起因する「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は456件(前年度比10.6%増)で、調査を開始した2013年度以降で最多件数を記録した。
内訳は、代表者「死亡」が最多の217件(同2.8%増)、次いで、「体調不良」が160件(同14.2%増)で、この2要因で377件(同7.4%増)に達し、「後継者難」倒産の8割(82.6%)を占めた。

少子高齢化が加速しているが、後進の育成や事業承継の準備が遅れた中小企業では、事業を仕切る代表者に不測の事態が起きると、事業継続に重大な障害になることを示している。

産業別は、最多が飲食業(24→38件)を含むサービス業他の121件(前年度比32.9%増)。次いで、建設業の106件(同26.1%増)で、この2産業が100件以上で突出している。人手不足が顕著な産業では、経営者も不足しているようだ。
資本金別は、1千万円未満が271件(前年度比16.3%増、構成比59.4%)と、約6割を占める。ただ、1億円以上1件(前年度比50.0%減)、5千万円以上1億円未満8件(同38.4%減)と事業規模を問わず発生し、後継者問題は発生している。

2023年12月、「事業承継税制の特例措置」の前提となる特例承継計画の提出期限の2年延長が決定した。各種事業承継のための制度だが、業績低迷から抜け出せない企業は多い。さらに、後継者育成や事業承継の準備の遅れから事業継続を断念する企業も少なくない。今後は、倒産と休廃業の境界線があやふやなまま、後継者不足に起因する倒産が増勢をたどるとみられる。

※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年度(2023年4月-2024年3月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。


「後継者難」倒産は過去最多の456件、6年連続で前年度を上回る

2023年度(4-3月)の「後継者難」倒産は456件(前年度比10.6%増)で、2017年度(249件)を底に6年連続で前年度を上回った。最多件数の更新は、2019年度から5年連続。
高齢の代表者は、新たな事業転換や生産性向上のための設備投資などに消極的になりがちだ。コロナ禍を経て、政府や金融機関の支援姿勢は資金繰り支援から事業再生へのシフトが鮮明になっている。ただ、こうした事業再生システムに乗り遅れた中小・零細規模の企業が、支援の網からこぼれ落ちるケースも出てきている。
事業承継には一定の時間が必要だ。そのため、後継者育成への早期着手が求められるが、事業承継の決断は難しい。業績が悪化してからの事業承継はより難しくなるだけに、経営者の相談を受け、時には決断を促す人材や公的機関などの育成、開設の重要性も増している。

【要因別】「死亡」が半数近くを占める

要因別は、最多が代表者の「死亡」の217件(前年度比2.8%増)で、5年連続で前年度を上回った。構成比は47.8%(前年度51.2%)で、半数近くを占めた。次いで、「体調不良」が160件(前年度比14.2%増、構成比35.0%)で、6年連続で前年度を上回った。
「死亡」と「体調不良」の合計は377件(前年度比7.4%増)で、6年連続で前年度を上回り、最多件数を2年連続で更新した。
このほか、「高齢」が55件(同25.0%増)で、2年ぶりに前年度を上回った。
近年、代表者の高齢化が進むとともに、代表者の不測の事態への対応も経営上では大きな課題となっている。ただ、業績低迷が続く企業では、後継者の育成だけでなく、事業承継の準備まで手が回らない。そのため、経営全般を担う代表者自身が事業運営に携われなくなると、経営に行き詰まることが自ずと明確になっている。

【産業別】10産業のうち、7産業が増加

産業別では、10産業のうち、製造業、小売業、情報通信業を除く7産業で前年度を上回った。
最多がサービス業他の121件(前年度比32.9%増、構成比26.5%)で、2年ぶりに前年度を上回った。このほか、農・林・漁・鉱業9件(前年度比28.5%増)と金融・保険業3件(同200.0%増)、運輸業16件(同14.2%増)が2年連続、建設業106件(同26.1%増)と卸売業66件(同15.7%増)、不動産業16件(同6.6%増)が2年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。
建設業とサービス業他は、調査を開始した2013年度以降で最多となった。
一方、製造業が65件(同22.6%減)で2年ぶり、小売業が46件(同4.1%減)で5年ぶり、情報通信業が8件(同27.2%減)で2年連続で、それぞれ前年度を下回った。

業種別では、最多が建築工事業の18件(前年度15件)。次いで、木造建築工事業の15件(同6件)、一般貨物自動車運送業の12件(同11件)、一般管工事業の11件(同9件)、土木工事業(同13件)と食堂,レストラン(4件)が各10件と続く。就労者の高齢化も進む建設業では、後継者不在で事業継続が困難に陥る企業も多い。
このほか、不動産代理業・仲介業7件(同5件)、生鮮魚介卸売業と酒場,ビヤホールが各6件(同1件)、とび工事業(同3件)と経営コンサルタント業(同3件)、建築設計業(同2件)が各5件で、それぞれ前年度を上回った。

【形態別】破産が初めて400件台に

形態別は、最多が破産の419件(前年度比10.5%増、構成比91.8%)で、6年連続で前年度を上回り、初めて400件に乗せた。次いで、取引停止処分が22件(前年度比29.4%増)で2年連続、特別清算が14件(同27.2%増)で2年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。一方、民事再生法は1件(同66.6%減)で、3年ぶりに前年度を下回った。
業績が低迷する企業では、後継者の育成や事業承継まで手が回らない。代表者に不測の事態が発生した場合、事業継続が難しくなり、破産を選択するケースが多いようだ。

【資本金別】最多が1千万円以上5千万円未満で、構成比は約4割

資本金別は、1千万円以上5千万円未満が176件(前年度比7.3%増)で、2年ぶりに前年度を上回った。次いで、1百万円以上5百万円未満の145件(同31.8%増)、5百万円以上1千万円未満の68件(同1.4%減)と続く。1千万円未満が271件(同16.3%増)と7年連続で前年度を上回り、構成比は59.4%(前年度56.5%)だった。

【負債額別】1億円未満が7割

負債額別は、1千万円以上5千万円未満が210件(前年度比16.6%増、構成比46.0%)、5千万円以上1億円未満が116件(同30.3%増、同25.4%)で、1億円未満は326件(前年度比21.1%増)と、全体の7割(構成比71.4%)を占めた。
このほか、10億円以上が4件(前年度比33.3%増)で、2年ぶりに前年度を上回った。一方、1億円以上5億円未満が114件(同6.5%減)で5年ぶり、5億円以上10億円未満が12件(同33.3%減)で3年ぶりに、それぞれ前年度を下回った。

【地区・都道府県別】9地区のうち、8地区で増加

地区別は、近畿を除く、8地区で前年度を上回った。
北陸17件(前年度比6.2%増)が3年連続、東北32件(同14.2%増)と中国30件(同15.3%増)、九州51件(同13.3%増)は2年連続、北海道29件(同70.5%増)と関東162件(同7.2%増)、中部49件(同13.9%増)、四国16件(同77.7%増)は2年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。
一方、近畿は70件(同7.8%減)で、5年ぶりに前年度を下回った。

都道府県別は、増加が26都道府県、減少が18府県、同数が3件。増減率(件数10件以上)は、増加が茨城77.7%増(9→16件)、北海道70.5%増(17→29件)、広島42.8%増(7→10件)、福岡29.1%増(24→31件)、東京22.3%増(67→82件)、京都11.1%増(9→10件)、兵庫5.0%増(20→21件)の順。
一方、減少は千葉26.3%減(19→14件)、神奈川19.0%減(21→17件)、大阪18.9%減(37→30件)、静岡15.0%減(20→17件)、埼玉6.2%減(16→15件)の順。

© 株式会社東京商工リサーチ