「慣れ親しんだグラウンド」「名将と野球がしたい」 再スタート迎えた被災地の球児たち

能登半島地震が起き、練習環境の確保もままならないなど能登の球児たちはさまざまな困難を乗り越えながら白球を追ってきました。

地震発生からから4か月近くが経っても被害の爪痕が残る中ですが、新学期を迎えた能登の球児は前を向いています。2つの高校のこの春の姿です。

春の選抜高校野球大会では全力プレーで被災地に元気を届けた日本航空石川は、石川県輪島市の校舎が被災したため、系列校がある山梨県に練習拠点を置いていました。

センバツ大会を終えた3月29日、野球部は慣れ親しんだグラウンドを訪れました。地震発生後初めてです。

部員を前に中村監督が語りますが、ポジティブな言葉ではありませんでした。

日本航空石川野球部・中村隆監督「俺もここで3年間お前たちとやると思って誘って入学を迎えて…地震という自然のことには逆らえない。いつ戻ってこられるかわからない、もしかしたら新3年生はここで野球もうできないかもしれない」

もう一度ここで野球がしたい…部員たちの思いをのせた校歌がグラウンドに響きました。

15日、航空石川の野球部員42人が春の県大会に向け輪島市に戻ってきました。寮の一部が使えるようになったためです。輪島の学校では練習以外の活動はまだ再開していないため、部員たちは東京の青梅キャンパスとの間をオンラインでつなぎ、授業を受けています。

3か月半ぶりに寮生活も再開、慣れ親しんだ食堂の味を久々に楽しみ、表情もほころびます。

野球部員「やっぱこの味が一番です」「山梨のご飯もおいしかったけど、やっぱりここのご飯もとてもおいしくて、みんなでワイワイして食べるのはより楽しいです」

ただ、寮はいまだに一部で断水が続いています。さらに、被災地の復旧活動にあたる国の職員たちの宿泊拠点となっているため、寮に戻ったおよそ40人の部員は1時間で入浴を終えなくてはいけません。

生活環境は変わっている状態ですが、それでも部員たちはなにより慣れ親しんだグラウンドで白球を追う喜びを感じています。

日本航空石川野球部・段日向樹さん(3年)「このグラウンドでやるのはやっぱりいいなと。このグランドにしかない思い出だったり、このグラウンドでやってきたことで上手くなったと思っているのでうれしかった」

センバツは初戦で敗退し、悔しい思いをした航空石川ナイン。夏のリベンジに向け、まずは春の県大会制覇を目指し練習にも熱が入ります。

部員たちには野球を通じて人として成長して欲しい…中村監督は練習でそんな願いを込めています。

日本航空石川野球部・中村隆監督「いまのままじゃ野球がちょっと上手いただの青年。俺はそれはイヤなんですよ。野球はどこかでグローブ、バットを置かないといけない時が必ず来る。その時に何も残っていない、ふらふらしてしまう人間には育てたくない」

逆境を力に!チームの思いは一つです。

日本航空石川野球部・寳田一慧主将「センバツ大会では一回戦敗退という悔しい結果に終わってしまった。石川県全体で切磋琢磨しながら石川県の人たちに勇気を与えることができたらいいかなと思います」

能登では公立高校も奮闘しています。高校球界の名将がアドバイザーを務める門前高校野球部もこの春始動、春の県大会初戦で王者・星稜に挑みます!

門前高校の野球部も、地震で困難な状態が続いていました。

3月1日の卒業式には、卒業生を送り出そうと野球部員が集まりました。元日の地震以降、みんなが顔を合わせるのは2か月ぶりです。

門前高校野球部・塩士暖さん(当時2年)「みんなとおったらやっぱ楽しいし、安心する」
門前高校野球部・前川知貴主将(当時2年)「懐かしい顔も…2か月だけど不思議な感じ」「一緒に野球ができて楽しかった。大学に行っても頑張ってください」

あれから1か月、門前高校には新たに32人が入学し、全校生徒は102人になりました。

門前高校・中澤賢校長「学校は元気になった。通えるようになった生徒も増えてきたし、輪島からのバスもつながって交通もしっかりしてきたので本当にホッとしている」

学校は3月いっぱいで避難所としての役割を終え、大半の生徒がリモートから対面授業へ。普段の学校生活がようやく戻りつつあります。

先生「改めて対面で授業をちゃんとできるのは本当にありがたいこと」

新学期の授業では、この1年で成長したことを共有しました。

門前高校野球部・埒光平さん(3年)「コミュニケーション能力は、自分から進んで分からないことを聞くことが身についた」
門前高校野球部・高橋児依さん(3年)「挑戦する力。やってみたいとかやりたいとかで終わらせずに、まずはやってみるっていう行動に移すこと、1年生の時よりできたんじゃないかな」

4月に入り、野球部もようやく全員そろって練習ができるようになりました。今年は新入生32人のうち、20人が野球部に入部。総勢60人の大所帯です。

ふるさとを高校野球で盛り上げようと、2年前からアドバイザーを務める星稜高校野球部元監督の山下智茂さん。

門前高校野球部・山下智茂アドバイザー「はじめ来た時9人、野球にならなかったですからね。地震の中、来てくれないんじゃないかと思ったけど…本当に感謝してますね」

山下さん「宮森!朝早く起きて素振りしとるらしいな。神様がお前に…練習ウソつかんやろ、頑張れや!」

門前高校野球部・宮森理央さん「さっきはいいバッティング、練習はウソをつかないって言われたんでもっと練習していきたいなと」

門前高校でも寮が設けられています。練習後、寮で生活する部員およそ40人がそろって夕食です。

野球部員「おいしいです」「こうやって手作りの料理を作ってくれることで僕たちは成長できるので、とても感謝しています」

山下さんも生徒と寝食を共にしています。山下さんがカメラを回しながら部員に声をかけていきます。

「石田くんテレビ映ってますよ!ちゃんといい顔してくださいよ~。みんなおいしそうに食べてますね~。清水先生こっち向いて~」

寮生活を始めた1年生の中には、山下さんの指導を受けたいと岐阜県や長野県、さらには北海道など県外から入部した生徒もいます。

長野から入部・竹村晴さん「(能登の地震で進路を迷ったことは?)まったくなかったです。山下さんがいらっしゃるということで、野球がうまくなりたかったので」
札幌から入部・横田智哉さん「やっぱり山下さんがいるっていうのが一番大きい理由。自分は門前高校一択にしていたので迷いはなかった」
岐阜から入部・渡邉龍哉さん「山下智茂さんがアドバイザーとして門前高校に来てくれて、そこで野球の上手さと人間性を高めていきたいと思った」

それぞれの志を胸に…門前高校野球部は新たな船出の時を迎えました。

門前高校野球部・横田智哉さん「これでチームの一員となって、夏優勝します」

2校はともに、27日に春の北信越高校野球県大会の初戦を迎えます。

© MRO北陸放送