料理愛好家という肩書きにした理由は…平野レミさんの「料理を好きになる」ために大事なこと

クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は料理愛好家の平野レミさんがゲストの後編です。

旦那さんとは出会ってから10日で結婚!

小竹:テレビなどで旦那様の和田誠さんのお話をされているのをよく見かけますが、 和田さんの一目惚れだったそうですね?

平野さん(以下、敬称略):そうそう。昔、久米宏さんと一緒にラジオ番組をやってたんだけど、和田さんはそれをずっと聞いてたらしいの。和田さんは久米さんと麻雀仲間だったから、「ああいう人と結婚したいから紹介してよ」って言ったんだって。

小竹:実際に会う前から?

平野:うん。でも、久米さんは紹介しなかったの。それで後になって「『あんな人と結婚したら一生を棒に振りますよ』って言ってしまって後悔している。あんなに素敵なおしどり夫婦になるなんて夢にも思わなかった」って本に書いてた(笑)。

小竹:そんなことがあったんですね(笑)。

平野:その後、橋本隆さんというTBSのプロデューサーに「久米さんと一緒にやってる人を紹介してよ」って言ったんだって。そしたら「紹介するのは構わないけど責任は持ちませんよ」って言われたらしいの(笑)。

小竹:そこでも…(笑)。

平野:それで和田さんと橋本隆さんと一緒にしゃぶしゃぶ屋さんに行ったんだけど、突き出しに出てきた魚が全部左側に目が2つあって右側に目がなかったのよ。

小竹:えっ!?

平野:それを和田さんに伝えたら、「左ヒラメの右カレイっていって、ヒラメとカレイは海底を平らになって泳ぐから、下に目が無くても上に目がついていればいいんだよ」って。

小竹:はいはい。

平野:それを聞いて、「なんて学のある人!」と思っちゃって。「こういう話をもっとしてあげようか」って言うから「してください」って言って、和田さんの家に行ったのよ。

小竹:うんうん。

平野:そしたら何千冊も本があって、天井のほうに『血の晩餐』って書いてある分厚い本があったの。中を見たらお化けとか幽霊の話が書いてあって、和田さんは幽霊の話もたくさん知ってるからいろいろと聞かせてくれて。

小竹:そうなんですね。

平野:「次の日もまた話してあげようか」って言うから「聞かせて」って言って、久米さんとの生放送が終わった後、和田さんの家に行ったの。それでまた幽霊の話をしてもらうというのを一週間続けたのよ。

小竹:すごいですね。

平野:そしたら和田さんが「結婚しようか?」って言うから「しましょうよ」って。もう私も結婚したくなっちゃったのよね。

小竹:出会って10日で結婚を決めたと聞きましたが…。

平野:そうなの。10日後に結婚して、あっという間に47年ね。本当に早いから、毎日充実した生活をしてないともったいないね。

料理は“五感”で幸せを感じられるから最高

小竹:和田さんはレミさんのお料理が大好きなんですよね。

平野:和田さんが私と結婚したときに、「レミの料理をあとどのくらい食べれるかな?」って言ったの。未来って無限の感じがしちゃうから、何十万回も食べられるかと思ったら、計算したところ何万回とかしか食べられなかったのよ。

小竹:うんうん。

平野:だから、私の料理が大好きなことも伝わってきたし、「この人のためにおいしい料理をいっぱい作ろう」と思ったの。

小竹:もともと料理好きだったけど、その言葉を聞いてより一層やる気になった?

平野:そうね。和田さんは私が作った料理をまずいと言ったことは一度もなかった。「ちょっとコクがないかな」みたいに言って、コクを足すと「とってもおいしくなったよ」って言うの。

小竹:褒め上手なんですね。

平野:だから、和田さんのせいというか、和田さんのおかげでこうなっちゃったね、私は。

小竹:ということは、私が料理が大好きなのはレミさんのおかげなので、和田さんがいなかったら私もこの会社に勤めていなかったかもしれないです(笑)。

平野:やっぱり食べることが一番大事よね。幸せになるものね。

小竹:そうですね。あと、作ることも大事ですね。

平野:絵は見ることで目から幸せを感じる。音楽は聞くことで耳から幸せを感じる。料理は目からも口からも耳からも鼻からも、五感で幸せを感じられて、しかも食べられる。

小竹:そして、「ありがとう」っていっぱい言われますもんね。

平野:喜んでもらえてね。だから料理は最高。みんなお料理しなくちゃね。

「料理愛好家」と名付けたのは旦那さん

小竹:レミさんの肩書きは「料理愛好家」ですが、これには何か理由が?

平野:以前CMに出たときに、「料理研究家・平野レミ」と画面に出していいですかって言われたの。それを和田さんに話したら、「レミは研究はしてないよね。愛好家だよね」って言われたの。それで料理愛好家になった。

小竹:和田さんが命名されたのですね。あと、「シェフではなくてシュフ」とも言っていますよね?

平野:それも和田さんが言ったの。最初に出した『平野レミ・料理大会』という料理本の帯に「私はシェフじゃないからシュフの料理を作っています」って和田さんが書いたのよ。

小竹:じゃあ、肩書きもキャッチコピーも全て和田さんが考えているのですね。

平野:だから、和田さんはすごく便利で(笑)。だって、私はシャンソンしかやってなかったのに、料理愛好家としての仕事がこんなにたくさん来るようになったのも、八木正夫さんというジャズピアニストと和田さんが仲良しだったからなの。

小竹:そうなんですね。

平野:八木さんは食通で有名で『四季の味』という雑誌にエッセイを書いたの。それは書いた人が次の人を指名するリレーエッセイだったんだけど、私のことを推薦したのよ。

小竹:はいはい。

平野:私はそのときテレビも出ていないし料理の仕事もやっていなかったから「とんでもないです」って言ったら、「レミさんの料理は簡単でうまいんだから、ぜひ書いて!」って。

小竹:へぇ、すごいですね。

平野:それでも断ってたんだけど根負けしちゃって、「1回だけね」って言って書いたの。それが本屋さんで売られた日から、テレビ局や出版社から「ぜひこういう簡単な料理を作ってほしい」って依頼が来るようになって。

小竹:そんなこともあるんですね。

平野:だから、八木さんのおかげでもあるし、もともとは八木さんと和田さんが仲が良かったからだから、和田さんなのよ。全て私は和田さんなの。和田さんでこうなっちゃった。

小竹:本当に愛を感じますね。

平野:でもね、死んじゃうのよ。死んじゃうんだから。いなくなっちゃうんだから。

自分の「ベロ」を信じて料理をしていくことが大事

小竹:昔は料理本というと、割と難しい料理が多かった印象があって、簡単で気軽にできる料理を切り開いたのがレミさんだと思うんです。

平野:「皆様、みじん切りはこうやるんですよ」みたいなのがすごく苦手で。私は気が短くて無精だから、簡単にポンッてできるような料理じゃないと嫌だったの。だから、そういうテレビは見てなかったわね。

小竹:お母さんに教えてもらった?

平野:そうそう。自分のベロを信じて好きなことをやってたかな。

小竹:私はクックパッドにいるので、クックパッドにあるいろいろな方のレシピを作りながら覚えましたね。

平野:それはいいことね。それで私だったらこうするとかね。

小竹:そうなんですよ。変えていって、やっと自分の味が見つかったという感じです。

平野:楽しいわよね。もう自分だけの世界だもんね。

「少ない食材で簡単に作れておいしい」がテーマ

小竹:ご家族のために料理を作っていたところから、今は人に伝えるというお仕事をされていますが、レミさんが料理愛好家として今大事にしていることは?

平野:料理本を見て、長々といろいろと書いてあって、たくさんの食材が必要だと嫌になっちゃうじゃない。だから、少ない食材で少ない調味料で簡単にパパッとできておいしいというのが私のテーマかな。

小竹:簡単にできるレシピで、何かオススメのものはありますか?

平野:新しい本に載ってるけど、えのきの硬いところだけ取って、あとは全部くっついてるから、くっついたまんまバターをひいたフライパンの中に入れて、ヘラでギューッてぺちゃんこにしちゃう。それに醤油をかけるとすごくおいしいの。

「えのきだけ根」(撮影:邑口京一郎)

小竹:しっとりしてる感じですか?

平野:しっとりしてる。でも、歯に挟まる(笑)。

小竹:本にも書いてありますね。歯に詰まるのだけ気をつけてって(笑)。

「食べることが大好き」になれば料理も好きになる

小竹:長く料理を伝える仕事をしている中で、主婦の方が変わってきたなと思う部分はありますか?

平野:キッチンに立ってる時間は短い方がいいってみんな望んでると思う。

小竹:私はずっとキッチンにいるのが好きなんです。

平野:それはお料理が大好きな証拠よ。

小竹:なんで立ちたくないんですかね?

平野:私も気がつくと1日中キッチンに立ってたっていう日があるの。すごく楽しいんだけど、あの楽しさをわかってもらうにはどうしたらいいのかな。 おいしいものを作った感動があったら、また作ってみようという気持ちが出てくると思うんだけどね。

小竹:そうなんですよね。料理が嫌いだけどやらなきゃいけないと相談されたときに、どう答えようかといつも悩むんです。

平野:「食べることが大好き」という気持ちにさせることしかないかな。みんなに食べてもらっておいしいと言われたら自分もうれしいと感じるから、相乗効果でどんどん高まるから作ってみようって。

小竹:うんうん。食べることを楽しむのも大事ですよね。

私は来世でも“料理”をやる!

小竹:『平野レミの自炊ごはん』という本が出版されましたが、これはどういう方に向けて作られた本ですか?

平野:学校を出てこれから世の中に旅立っていく人。あと、これから結婚する人とか、パートナーがいなくなって1人になっちゃった人とか。そういう人たちに向けての自炊の本。自炊は自由奔放に好きなことができるんだから。

小竹:制限がないですもんね。

平野:人のことを考えなくていいんだもん。ただ、自分に元気がなくちゃいけないから、5大栄養素が入ってるかとか、たんぱく質が足りてるかとか、健康のことも考えて自由に作るっていうこと。

小竹:「食べればチンジャオロースー」という、口の中で完成する料理もありますね。

平野:チンジャオはピーマンのことでロースーは細切り肉のこと。だから、生のピーマンの中に肉を炒めて乗っけてガブリと食べれば、それでチンジャオロースーでしょ。しかもすごくおいしいし。

「食べればチンジャオロースー」(撮影:邑口京一郎)

小竹:「食べれば角煮」というのもありますね。

平野:角煮はタレが大事なのよ。このタレがおいしいから、角煮じゃなくてしゃぶしゃぶ用の肉でも、このタレで食べたら口の中で角煮になっちゃうの。

小竹:このタレは確かにおいしそうですね。紹興酒、はちみつ、醤油、オイスターソース、長ネギ、しょうが、にんにく、八角。

「食べれば角煮」(撮影:邑口京一郎)

平野:これは本当においしいから、いっぱい作って冷凍庫に入れといて、いろんな料理に使うといいと思う。

小竹:作るしんどさなどもないように考えられていますよね。

平野:杏仁豆腐じゃなくて、安心豆腐という料理もあるの。低カロリーで安心、固める手間がないから安心、火を使わないから安心、初心者でも作れるから安心。だから安心豆腐。でもちゃんと杏仁豆腐の味がするのよ。

小竹:レミさんは料理をする方のお悩みにやさしく寄り添っている感じがしますし、名前もワクワクしますね。食卓に安心豆腐って言って出したら、子どもも喜びそう。

平野:三谷幸喜さんが息子さんに作ってあげたって言ってたけど。

小竹:今後、レミさんが取り組んでいきたいことは?

平野:昔はいろいろな料理を作ったけど、今は簡単で手早くできておいしい料理が一番。簡単でまずい料理はいっぱいあるけど、簡単でおいしい料理がいい!(笑)

小竹:なおかつワクワクする感じですね。

平野:そうね。だから、来世も私は料理をやる。来世もまた女をやりたいな。

小竹:子どもの頃は「俺」って言っていたのに…(笑)。

平野:なんで「俺!俺!」って言ってたんだろうね(笑)。

(TEXT:山田周平)


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【ゲスト】

第3回・第4回(4月5日・19日配信) 平野 レミさん

料理愛好家、シャンソン歌手。家庭料理を作り続けた経験を活かし、料理愛好家として活躍。「シェフ料理」ならぬ「シュフ料理」をモットーに、テレビ・雑誌等を通じて数々のアイデア料理を発信。レミパンやジップロンなどのキッチングッズの開発も行う。エッセイ「おいしい子育て」は、第9回 料理レシピ本大賞のエッセイ賞を受賞。著書は50冊以上。新刊の「平野レミの自炊ごはん」がダイヤモンド社より好評発売中。

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Instagram: @remy_kitchen

【パーソナリティ】

クックパッド株式会社 小竹 貴子

クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

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