大河ドラマ『鎌倉殿の13人』源実朝役の柿澤勇人「なんで俺、やりたいって言っちゃったんだろう」舞台『ハムレット』主演の覚悟

柿澤勇人 撮影/冨田望

劇団四季で俳優活動をスタートさせ、退団後は舞台、映像とジャンルレスに活躍している柿澤勇人。この1月期にもっとも話題を集めたドラマ『不適切にもほどがある!』でも大きな注目を集めた。2022年に源実朝役で出演した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での好演も記憶に残る。さらに子どものころには、芸事に生きる祖父と曾祖父の姿を間近で見ていたという柿澤さん。そのTHE CHANGEとは――。【第4回/全4回】

大作を目の前に恐怖を感じている

「いま、恐怖でしかないんです!」

タイトルロールを演じる舞台『ハムレット』を前に、柿澤さんは、そう心情を吐露した。

『ハムレット』といえば、英文学に詳しくなくとも、泣く子も黙る、ビッグタイトル。
同作はウィリアム・シェイクスピアが1601年ごろに書いたとされる、デンマーク王国の後継者・ハムレットを主人公に描く悲劇で、シェイクスピアの戯曲のなかで最長の作品だ。

「最初にお声がけ頂いたときは、“やってやるよ”みたいなことを言っていた気がするんです。いざ目の前に来たら、恐怖でしかないです。“なんで俺、やりたいって言っちゃったんだろう”という後悔。そして震え上がるほど“大変な役だな”と改めて思っています。

日本でも海外でも、色々な演出方法があって、膨大なセリフ量はもちろんのこと、熱量がすごいんですけど、観ているとやれる気がするんです。“あれ、俺もやってみたい”って。でも観るのとやるのでは全く違いました(笑)」

“ハムレット”という役には役者の色が出る

――海外でも日本でも、本当に数多くの役者、劇団、演出家の手で形になってきた戯曲ですね。柿澤さんは、これまでにも多くの舞台に立たれてきたわけですが、やっぱり『ハムレット』は違いますか?

「役柄の“ハムレット”に関して言うと、演出や役者が違うだけで、こんなにも違うんだと感じます。役者の色が如実に出るんです。おそらくハムレットが出ずっぱりで喋りっぱなしというのが大きいのかなと思います。自分自身の持っているパーソナルな経験や、イマジネーションを駆使してセリフに投影しなきゃいけない役だからこそ、役者の色が強く出るんだろうと思っています」

――そうした意味での怖さもありますか?

「それよりも役者として未知というか、こんなに喋ることはなかったのでその怖さです。翻訳劇で、台詞も日常会話じゃないんですよね。英語圏の人たちも普段は使わない言葉ばかりです。それを自分の実感を伴わせて喋ることがいかに大変なことか……。分量ということも含めて、怖さを感じています」

役者人生を懸けて舞台『ハムレット』に挑む

――演出は吉田鋼太郎さんですね。

「すべてを委ねるしかないと思っています。鋼太郎さんはシェイクスピア作品にも『ハムレット』にも相当な数に出ているし、ハムレットを演じてもいる。おそらく厳しいことも言われるでしょう。

だからそれに負けない心と、健康に気を付けないと。これは命をかけてやらないとだめな役だと思っています」

柿澤勇人 撮影/冨田望

――命をかけてですか。

「稽古が2か月くらいあって、本番も30回ほど。それに耐えられる精神力が必要だと思います」

――もともと柿澤さんはタフなほうですか?

「いや、本当はめちゃくちゃ打たれ弱いですし、ずっと悩むタイプなんです。ネガティブにずっと同じことを考えていますね。じゃあ、なぜそれでも、なんのために逃げずにやるんだと聞かれるんですけど、それは分からないんですよね……。ただここまでずっと無我夢中に、16~7年、突っ走って来て。

まだまだだとは思いますが、『ハムレット』は役者人生においても、僕自身の人生においても、何かが大きく変わる作品だと、今から確信しています」

――大変な覚悟が伝わってきます。

「この先に何をしたいとか、こうありたいとか、いまは一切ないです。とりあえず、これをやって、終わって、生きているかどうか。芝居として全く太刀打ちできないのであれば、役者は辞める覚悟。手も足も出ない、ダメだとなったら、きっぱり辞めようと思っています」

「辞める覚悟」とまで口にした柿澤さん。この舞台はもちろん、ハムレットを経た柿澤さんを、舞台、映像で観ていきたい。

柿澤勇人(かきざわ・はやと)
1987年10月12日生まれ。神奈川県出身。
2007年に劇団四季『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー。
劇団四季退団後は、映像作品にも活躍の場を広げる。主な出演作に舞台『海辺のカフカ』『デスノート THE MUSICAL』『メリー・ポピンズ』『ジキル&ハイド』『スクールオブロック』『オデッサ』、映画『鳩の撃退法』、ドラマ『真犯人フラグ』『不適切にもほどがある!』など。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源実朝を好演したのも記憶に新しい。第31回読売演劇大賞にて優秀男優賞を受賞。5月に上演される彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』でタイトルロールのハムレットを演じる。

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