一票の格差、イギリスでは5倍→1.11倍に 「衆院トリプル補選」で考える「区割り」の話

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衆院トリプル補欠選挙(東京15区、島根1区、長崎3区)が4月28日に投開票を迎えます。いずれも自民党の議席でしたが、東京15区と長崎3区で候補者を立てられず、島根1区次第では全敗の可能性も。裏金問題が発覚してから初めての国政選挙ということで結果が注目されています。

選挙区のうち、島根1区と長崎3区については、2025年10月の任期満了までにおこなわれる次回衆院選(総選挙)から区割りが変わります。候補者によっては先をにらんだ活動もしてきたようです。

一方、東京15区は次回もそのまま。江東区全域が対象となっており、単独の自治体全域で小選挙区となっているのは、全国でも少数なのだそうです。

●繰り返されてきた「一票の格差」訴訟

区割りが変わるのは、いわゆる「一票の格差」を小さくするため、2022年に衆院小選挙区の数を「10増10減」する改正公職選挙法が施行されたからです。

たとえば、2021年の衆院選では、有権者数が最少の選挙区(約23万人)と最多の選挙区(約48万人)とでは、議員1人を選ぶ票の重みに2.08倍の差がありました。

こうした格差は、「法の下の平等」を定めた憲法14条に反するとして、1962年から衆参の国政選挙のたびに弁護士たちが「一票の格差訴訟」を起こし、司法判断を仰いできました。

近年の衆院選と最大格差、最高裁判断の推移は次のとおりです。

・2012年:最大2.43倍(違憲状態)
・2014年:最大2.13倍(違憲状態)
・2017年:最大1.98倍(合憲)
・2021年:最大2.08倍(合憲)

2022年の区割り変更は、この倍率を2倍未満にするため、2020年国勢調査を基準に計算されました。

なお、区割り変更後は、すでに5選挙区で衆院補選がありましたが、いずれも改正前の選挙区で投票がおこなわれています。改正公職選挙法の附則で、衆院選への適用は施行後初めての「総選挙」と定められているためです。

今回のトリプル補選でも、区割り変更の影響がない東京15区以外の各自治体では、誤解を避けるため選挙情報のウェブサイトに「区割り改定前の選挙区でおこなう」旨の注意書きを出しています。

●イギリスは最大格差1.11倍に

一票の格差は海外でも問題になっています。

最近劇的な改革をしたのがイギリスです。2023年11月、区割りを見直し、各選挙区の有権者数を全国の選挙区平均有権者数の95%〜105 %に収めました。最大格差は1.11倍ということになります。

もともと格差は約5倍あったそうですが、2011年の法改正で上記1.11倍を目指すことになりました。ただ劇的な変化なので、実現に時間がかかってしまったようです。次回選挙から適用されます。

このほか、フランスでは2007年の国民議会選挙で最大格差が5倍を超えましたが、2009年に選挙法を改正し、2.37倍まで是正しました。

●最高裁「格差のさらなる是正は喫緊の課題」

一票の格差は衆院選だけでなく、参院選にもあります。

最高裁は2023年10月、一票の格差が最大3.03倍だった2022年7月の参院選について判断を下しました。

3.03という数字は、2010年の5.00倍からすると改善はされていますが、未だに格差は大きい状況と言えます。

判決は、格差自体は合憲としたものの、都市部に人口が集中しているとして、「較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題」などと指摘もしています。

民間研究機関「人口戦略会議」が4月24日、10年ぶりに発表した「消滅可能性自治体」が話題になりましたが、人口分布が変わっていく中、区割りの見直し議論が進んでいく可能性がありそうです。

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