何が見える?平面から3Dの絵が浮き出る“マジカル・アイ”1作目は20年以上前…長年愛される理由を宝島社に聞いた

眼鏡をかけなくても日常生活を送れるのがちょっとした自慢の筆者。

そんな自分が愛読している本が、『どんどん目が良くなるマジカル・アイ MIRACLE』(2007年刊、宝島社)だ。パターン化された模様のようなカラフルな絵を子どもの頃に見たことがあるという人も多いのではないだろうか。

実は、そこに描かれている絵がかなり奥深い。一見意味のないように思える平面の絵でも、じっと眺めているとそれまで見えていなかった別の絵が浮かび上がってきたり、絵そのものが立体的に見えたりするのだ。

初めて知った人も久しぶりの人も、まずはこの絵で面白さを体験してみてほしい。

平面に描かれた1枚の絵。一見すると、絵の下部に草や小花が広がっている様子に見えるだろう。

しかし実はある特殊な見方をすると、何もないように見える絵の下部に、3匹の小鳥が浮かび上がってくるのだ(詳しい見方は後述)。

ちなみに、“マジカル・アイ”に初めて出会ったのは小学生の時だったが、最初はなかなか立体視の感覚がつかめず、慣れない目の使い方に悪戦苦闘していた。

しかし絵に奥行きを感じられるようになった瞬間は、子どもながら絵の美しさのとりこになったことを覚えている。

続けていくと絵の隅々まで見渡せるようになり、どこまで細かく見えるだろうと本を近づけたり遠ざけたり、夢中になって見たものだ。

2007年発刊の1冊をずっと愛読し続けていたのだが、ふと調べてみると、2023年にも“マジカル・アイ”シリーズが発売されていることに気がついた。本を初めて手にしてから16年たった現在もシリーズとして継続していたのだ。

そこで話を聞いたのは、シリーズ1作目から編集を手掛ける、宝島社書籍局第1編集部の宇城卓秀編集長。

宇城編集長によると2001年8月に1作目が発刊した“マジカル・アイ”シリーズは、現在までに75冊を展開しているという。シリーズは累計780万部を突破している(2024年4月現在)。

ちなみに、一番“マジカル・アイ”のブームを感じたのは2002年頃で、同年発売の3作目『決定版!どんどん目が良くなるマジカル・アイ』の発行部数は100万部を超えたそうだ。もしかしたら懐かしく感じる人もいるかもしれない。

改めて考えてみると、そもそもなぜ平面のイラストが立体的に見えるようになるのか不思議だ。“マジカル・アイ”の仕組みや見方、シリーズが長く愛されてきた理由を宇城編集長に聞いた。

両目の見え方の違い?

――そもそもとして、どんな仕組みで“マジカル・アイ”は立体的に見えるの?

“マジカル・アイ”とは本の中での呼称で、平面に描かれたものがある特殊な見方をすることで立体的に見える絵を「ステレオグラム」といいます。

右目と左目は位置が違うので、1つのあるものを見たときに若干見え方が異なります。脳は視差(両目の見え方の違い)から得られる情報を判断して、ものを立体的だと認識していますが、ステレオグラムはその視差を利用し、目の焦点を意図的に前後にずらすことで立体的に見せる仕組みになっています。

――絵を立体的に見るにはどうしたらいいの?

“マジカル・アイ”には「平行法」「交差法」という2つの見方があります。

絵そのものに目の焦点を当てる通常の見方では、立体的に見ることができません。普段とは違う目の使い方をしないといけないので、そのコツをどうつかむかがポイントです。

また、どちらの方法で見ているかにより、浮かび上がる絵の凸凹が変わることもあります。

実践!「平行法」「交差法」

――例えば、「平行法」は具体的にどうやるの?

絵の右側を右目で、絵の左側を左目で見て、絵そのものではなく、その奥側で目の焦点が合うようにします。絵は、リラックスして“ぼんやり見る”イメージです。そうするとイラストが少しぼやけて見えて、だんだん立体的に見えるようになります。

“マジカル・アイ”シリーズでは、補助点を利用すると立体視しやすくなります。練習としては、絵のさらに奥側にあるものを目標として決めて、そこに目の焦点をもっていくように意識します。そして2つの補助点が3つに見えるようになると立体視ができている状態になるので、その見方のままイラストを見ると立体的に見えます。

ちなみに“マジカル・アイ”シリーズは「平行法」で見ると浮き上がって見えるように作成されています。

――「交差法」のやり方も教えて。

「平行法」の時とは逆に、絵の左側を右目で、絵の右側を左目で、絵の手前でクロスさせる見方です。いわゆる寄り目の状態になります。

補助点を使った練習としては、2つの点の間に鉛筆などを持ってきて、鉛筆に焦点を合わせるように絵を見ると、絵が奥に沈むような感じの見方ができます。

「平行法」の見方と切り替わるので、どちらかの見方をできる人は、逆の見方をするのが難しい場合が多いでしょう。

――立体的に見るのが難しい、レベルの高い絵はある?

視差を生じさせる仕掛けが1つの絵はさほど難しくないですが、絵の中で複数あり、しかもその仕掛けの奥行き感が違う場合は難しくなります。

慣れている人は仕掛けから仕掛けにまで視線を動かしている間も目の使い方を自然に調整できますが、そうでない人は視線を動かした時、通常の見方に戻ってしまいます。そうなると切り替えが難しく、見づらいことがあるかもしれませんね。

アーティストの美麗な絵にも注目

――“マジカル・アイ”を出版した経緯を教えて。

ステレオグラムは1960年に論文が発表されて、一般的に知れ渡るようになります。当時は1枚絵ではなく、絵の一部にずれのある同じようなイラストを横に2枚並べて立体的に見えるようにする手法でした。

その後1990年の学会では、ステレオグラムを2枚絵ではなく、1枚絵で見る手法が新たに発表されました。1990年から1995年にかけてが、立体視の第1次ブームです。

2000年を過ぎると今度は視力回復に効用があるという話が出てきて、第2次ブームが起こります。その時出したのが、シリーズ1作目『どんどん目が良くなるマジカル・アイ』です。“マジカル・アイ”も第2次ブームから、かなり広まったように思います。

――“マジカル・アイ”シリーズが長年愛されてきた理由をどう考える?

絵を提供していただいているアーティストのお二人(ジーン・レビーンさんとゲイリー・プリッスターさん)の作品の素晴らしさに尽きます。

ステレオグラムの原理はよく知られていて、立体視の絵は作ろうと思えば誰でも作れます。しかし絵の魅力は作る人によって変わってしまうので、本当に個人のセンスによるところが大きいです。お二人の絵に引きつけられるファンが今でもたくさんいらっしゃることが、ここまでシリーズが続いてきた要因だと考えています。

絵に奥行きが出ると、その世界が広がっているように感じますよね。見えた時の感動を作り出せるのは、やはり素晴らしいことだと思います。

宇城編集長によると本の大きさも大事で、“マジカル・アイ”の絵が最適に見えるサイズで設計されているという。スマートフォンの画面で立体的に見えづらかった人は、本を手にとって試してみるのも良さそうだ。

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