『ブルーロック -EPISODE 凪-』原作者・金城宗幸にインタビュー 「凪は嫉妬や憧れを生む存在」

『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』予告カット(C)金城宗幸・三宮宏太・ノ村優介・講談社/「劇場版ブルーロック」製作委員会

累計発行部数3000万部を突破、2022年10月からTVアニメも放送され人気を博した『ブルーロック』(講談社「週刊少年マガジン」連載)。そのシリーズ初の映画『ブルーロック -EPISODE 凪-』が、2024年4月19日(金)より公開中。今回は、原作者・金城宗幸にインタビュー。物語の中心人物である凪 誠士郎と御影玲王への印象と合わせて、「エゴイスト」という言葉に込めた思いについてお聞きした。

※以下の本文にて、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

■王道路線の青春サッカーマンガでは、勝ち目はない

――マンガの原作者として活躍されている金城先生。もともとアニメやマンガはお好きでしたか?

金城:好きでしたね。めちゃくちゃ見たのは『ライオン・キング』。自分の文法的にも好きなエンタメの流れ的にも『ライオン・キング』の影響は大きい気がします。『ブルーロック』も物語の流れやふざけ方を含めて、『ライオン・キング』に繋がっている部分がある気がしています。

――ルーツになっていると?

金城:そうですね。その他、『平成狸合戦ぽんぽこ』や『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』なども見ていました。

――ちなみに、サッカーマンガは読んでいましたか?

金城:もちろん読んでいましたが、どちらかというとサッカーはゲームでやったり、実際に遊んだり、生の試合を観戦したりするほうが多かったです。だからこそ、「サッカーマンガ・アニメはこうだ!」という固定概念があまりなく、『ブルーロック』のような作品を作れたのだと思っています。

――『ブルーロック』は青春サッカーマンガに憧れて描いている、という感じではないですもんね。

金城:むしろ諸先輩方が描いている王道路線では、僕に勝ち目はないと思って。王道とは違うやり方・描き方を編集担当さんといっぱい相談したことをよく覚えています。

――そうして生まれた『ブルーロック』。TVアニメも放送されましたが、反響はいかがでしたか?

金城:親戚の子供が「学校でめちゃくちゃ流行っている!」と言っているのを聞いたんです。また、海外で日本代表の選手が活躍したときに「『ブルーロック』だ!」と言ってくれる方もちらほらいらっしゃって。どちらもすごくうれしかったですね。アニメ放送のタイミングがちょうどサッカーが盛り上がっている時期だったので、運が味方してくれたなと思いました(笑)。

――その反響もあり、この度『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』が公開されます。最初に制作の知らせを聞いたときは、どんなお気持ちでしたか?

金城:「ありがとうございます!」という気持ちと同時に、まだ『ブルーロック -EPISODE 凪-』の連載が始まって間もない頃だったので、「大丈夫かな?」という気持ちも正直ありました。

――どこまで映像化するのかなど、ちょっと不安な気持ちがあった。

金城:そうですね。なので、映像化するにあたって石川監督と色々すり合わせをしました。

――本作ではストーリー監修という形で制作にも参加されています。先生からスタッフの方々にはどのようなリクエストをされましたか?

金城:石川監督には、『EPISODE 凪』に関しては本編のギラギラ感よりも、もうちょっとエモい感じ、青春感強めのほうが合っていると思うとお伝えしました。本編の主人公である潔 世一は、もう青春が一度終わっていて、達観しているというキャラクターなんです。一方で、凪と彼をサッカーの世界へと導いた玲王の物語は、王道の青春スポーツマンガの文法もひとつ入っているような感じがあって。なので、映像の面でも本編とはちょっとテイストが違うほうがいいのではと思い、キラキラだったり、感情的なものだったりをより強固に描いていただけたら、というお話をしました。

――映像になることによって、そのキラキラ感や青春感がより出るかも。

金城:そうだと思います。監督からも「そういうものを描きたいと思っていたんです」と言っていただけたので、そこが見どころになっていると思います。

■凪は嫉妬や憧れを生む存在、玲王は器用大富豪

――凪と玲王の物語は青春感もあるというお話ですが、あらためて、凪を主軸にした物語を描こうと思ったきっかけや理由などを教えてください。

金城:実は連載当初から編集担当の方と「『ブルーロック』って、これだけキャラクターがいるならスピンオフも作りやすいよね」という話をしていたんです。で、実際にやりましょうという話になったときに、僕も好きですし、読者の方からも人気のあった凪にフォーカスを当てるのはどうかと思って。もしかしたら、ゆくゆくは映像化されるかもなんて淡い期待を抱いていたら、思っていた以上に早く劇場版のお話をいただけて(笑)。これもアニメの反響があったからだと思っています。ご視聴いただき、アニメを盛り上げてくださった皆さんに感謝ですね。

――では、先生が思う凪と玲王の魅力を教えてください。

金城:凪は僕の理想というか、カッコいいと思う人物像を詰め込んでいます。逆に言えば、「やる気がないのに何でもできちゃう奴が現実にいてたまるか!」という気持ちもあって。そういう嫉妬や憧れを生む存在が、凪です。玲王はハイスペックだけど、化けの皮を剥がせば普通の男の子。そういう意味では、凪と比べると共感しやすい少年なのかなと思っています。思い通りにならないことがなかった玲王が、思い通りにならない凪に振り回されるというのが、この2人の魅力だと感じています。

――2人の関係性そのものに魅力がある。

金城:まさにそうです。ただ、凪にきっかけを与えたのは間違いなく玲王だけども、変化させたのは潔なんですよね。結局、変化をもたらしたのは別の人という人間模様も、本作では描いています。

――その辺りが『ブルーロック』の面白さ、らしさだなと感じています。

金城:少年マンガの「昨日の敵は今日の友」じゃなくて、「昨日の友は今日の敵」と言えるかなと。これはビジネス社会に通ずるところもあるんじゃないかなと思いつつ、作品を描いています。

――もちろん友情は大切ですが、より高みにいくにはと考えたときに、玲王ではなく潔らと組んだ凪の選択は、ひとつの道なのかなと感じました。

金城:ある種、正論と言えば正論ですからね。凪としては、その選択をすることに悪気はないんですよ。だからこそ、罪深い男です。

――でも、玲王もそれで腐らずにサッカーと向き合っていきます。

金城:そうですね。彼は器用貧乏から器用大富豪になっていく人物。僕はそこが好きです。何かに突出していないところも、彼の魅力なのかなと思っています。

■「エゴイスト」という言葉に込めた思い

――『ブルーロック』は「エゴイスト」という言葉がキーワードの作品です。先生自身は、もともと「エゴイスト」とはどういう存在だと思っていましたか?

金城:自己主張の激しい尖った人というニュアンスが、日本では通念としてあったのかなと思っています。ただ、それって悪いことなのかなって思いがあって。
現代では決して終身雇用が当たり前ではなくなりつつあると聞きますし、転職希望率も上がっていると聞きます。ただ、実際に転職するとなったら、自己認識を高めていないと「やっていけないぞ」という思いがあって。その背景を含めて、「個人の価値観で生きていこうよ」と僕が思っていたことを描くのに「エゴイスト」という言葉がぴったりだと思ったんですよね。

――「エゴ」という言葉にはネガティブなイメージがすごくありました。ただ、私自身、会社勤めからフリーランスになったのですが、その選択をできたのはどこかで自分に自信があったからなのかなと。振り返ると、私もエゴイストだったのかもしれません。少なくとも私は「エゴ」という言葉への認識が少し変わりました。

金城:そう言っていただけるとすごくうれしいですね。この言葉をそういうふうに肯定的に解釈していただける大人が増えれば、たぶん子供が「エゴイスト」と言ったときに、ポジティブな方向に引っ張ることができそうな気がするんです。「エゴイスト」を“ただの都合のいい言葉”にしないのが大事だと思っています。

――本編では潔が負けて去っていくライバルの姿を見て、感情が昂るという描写がありました。衝撃的なシーンではありましたが、でもよく考えてみたら勝負に勝つ瞬間って、少なからずそういう感覚ってあるんじゃないかなって。

金城:あれは、これまで言語化しちゃダメだったんですよ。でも、僕らは少年マンガでそれを言語化してしまった。「ざまあみろ」というのを可視化するのが、『ブルーロック』のやっていることなのかもしれません。

――あのような描写は、ちょっと否定的な意見もあったのでは?

金城:それが、そうでもなかったんですよね。実は皆が潜在的に思っていることだったのかもしれません。僕はそういった描写を全肯定しているわけではなく、作品の面白さとして描いているつもりです。ただ、「言いたいよね」「思っているときもあるよね」というところを作品を通して顕在化はできたのかなと。

――本日は貴重なお話ありがとうございました。最後に劇場版で注目してほしいところや、ファンへのメッセージをお願いします。

金城:エンドロールのあとに、とあるシーンが流れます。あれは劇場版でしか見られないTVアニメオリジナルの部分ですので、ぜひ見逃さないでください。すでにアニメをご覧になった方は100%、いや200%面白いと思いますが、初めて見る方も、200%楽しめる作品です(笑)。『ブルーロック』はどこから見ても好きになるキャラクターが一人は絶対にいる作品だと思うので、アニメや原作を読んでない方もぜひ劇場版を楽しんでいただければと思います。

<作品概要>
STAFF
原作:金城宗幸/漫画:三宮宏太/キャラクターデザイン:ノ村優介(講談社「別冊少年マガジン」連載)
監督:石川俊介
シリーズ構成・脚本:岸本 卓
ストーリー監修:金城宗幸
キャラクターデザイン:進藤 優、清水空翔
総作画監督:田辺謙司、もり ともこ、清水空翔
特殊効果:あかね
色彩設計:小松さくら
美術設定・美術監督:廣澤 晃
背景:Creative Freaks
撮影監督:浅黄康裕
撮影:チップチューン
3DCG:オーラスタジオ
編集:長谷川 舞
音響監督:郷 文裕貴
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽:村山☆潤
プロデューサー:有澤亮哉、佐藤尚哉、川勝宥典、柳井寛史
アニメーションプロデューサー:小菅秀徳
アニメーション制作:エイトビット
主題歌:Nissy×SKY-HI「Stormy」
配給:バンダイナムコフィルムワークス

CAST
凪 誠士郎:島崎信長
御影玲王:内田雄馬
剣城斬鉄:興津和幸
潔 世一:浦 和希
蜂楽 廻:海渡 翼
國神錬介:小野友樹
千切豹馬:斉藤壮馬
馬狼照英:諏訪部順一
糸師 凛:内山昂輝
舐岡 了:木村 昴
絵心甚八:神谷浩史

(C)金城宗幸・三宮宏太・ノ村優介・講談社/「劇場版ブルーロック」製作委員会

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