「太陽と大人が嫌い」「ランチはトイレで」 異色の“インキャ”7人組アイドルが目指すもの

「NANIMONO」(上段左から)紫苑りんか、ひなたゆま、柊真ミフユ、47774、(下段左から)眠岸ぷりん、遊乃ヲユタ、輪廻ねる【写真:ENCOUNT編集部】

Z世代のNANIMONO「同じような人たちを救える存在に」

「インキャ」と呼ばれるZ世代の7人組アイドル・NANIMONO(ナニモノ)が、同世代の女性たちに支持されている。「インキャ(=陰キャ)」とは、陰気なキャラクターの略で内気な性格の人を指す。それぞれ心に悩みを抱えた7人が、女性プロデューサー・こゆびちゃんの下に集まり、「自分は何者(=NANIMONO)なのか」を模索しながら、世の中のインキャたちを応援しようと立ち上がった。昨年6月にメジャーデビューするとSNSで話題になり、ライブは軒並みソールドアウト。6月13日のTOKYO DOME CITY HALL(TDC)ワンマンライブも決定した。「弱み」を「強み」に変えて前進する7人に話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)

NANIMONOに入ろうと思ったきっかけから聞いた。NANIMONOには担当カラー、動物キャラクター、アイデンティティーの3つのキャラクターがそれぞれ割り当てられている。リーダーのひなたゆまは、担当カラーが「オレンジ」で動物キャラクターは「犬」、アイデンティティーは「天然リーダー」だ。青森県出身で衣装にはリンゴのマークがついている。

ひなた「『ゆまなのだ』と呼んでください。私は上京して最初に入った寮を半年で出てしまいました。理由は人と話すのが怖かったからです。それから一人暮らしを始めたんですが、気付いたら家でずっと独り言をしゃべっていました。『私の言葉で誰かが傷ついていないかな』とか心配で、毎回『一人反省会』をやっているんです。メンバーと話す時も1回『えへん』と咳払いをしないと声が出ないんです。グループに入った理由は、『まだ何者でもない女の子たちが何者かになる』というこゆびちゃんのコンセプトに魅力を感じたからです。『ここなら自分を認めてくれる人ができるかも』と思い、挑戦しました」

ピンク色担当・47774(しいな・ななし)の動物キャラクターは「羊」、アイデンティティーは「ゲーマー」。メンバーの中で一番ゲームに詳しい。

47774「“なーし”と呼んでください。ボイスチャットをしながらゲームするのが大好きで衣装にはコントローラーの〇△□ボタンの模様をつけています。小さい頃から全てが怖いと感じる弱い人間で、卒業アルバムに私は載っていません。LINEの友達はメンバーの6人と運営スタッフ6人の12人だけで、『よく今まで生きてきたな』って思います。私はとっても辛かった時期に大好きなアイドルに救われました。だから、『今度は私みたいな子を救ってあげたい』と思い、参加しました」

青色担当・柊真(とうま)ミフユの動物キャラクターは「狼」、アイデンティティーは「文学美少女」。チャイナドレス風の衣装には、ワンポイントで大好きな餃子のマークをつけている。

柊真「“ミフユさん”でお願いします。私はもともと体が弱くて、電車に乗るとすぐに気分が悪くなってしまうので、不登校が続きました。それもあって大人たちからは『負のオーラをまとっている』と言われてきました。家では年の離れた弟と妹がいて、お姉ちゃんとして弱い顔を見せないように生活してきました。なので、誰にも悩みを相談できず、ずっと落ち込んだままでした。『こんな根暗な人間がアイドルをやってはいけない』とも思っていたんですが、こゆびちゃんに『アイドルになってから何かを見つけるのも良いんじゃじゃない』と言ってもらい、それがきっかけで初めてアイドルに挑戦しました」

白色担当・遊乃(ゆうの)ヲユタの動物キャラクターは「パンダ」、アイデンティティーは「最年少クソガキ」。グループではセンターを担当している。

遊乃「『ヲユちゃん』と呼んでください。小さい頃から太陽の光と学校が苦手な子でした。なのに大人たちは私の話を聞く前に『こうあるべき』と1つの価値観を強引に押し付けようとするから、大人が大嫌いになり、窓にはガムテープを貼って完全に光を遮断して、不登校になりました。そのあと15歳で上京してアイドルになりました。理由は『自分が最期を迎える時に悲しんでくれる人をいっぱい作りたい』と思ったからです。でも、最初のグループはクソ野郎な大人ばかりで、『もうアイドルは懲り懲り』と思っていたら、こゆびちゃんと出会い、『こういう優しい大人もいるんだな』と思って入りました」

水色担当・輪廻(りんね)ねるの動物キャラクターは「猫」、アイデンティティーは「すやすやエンジェル」。7人目のメンバーとしてグループに加入した。

輪廻「『ねるる』でお願いします。私は中高一貫の学校で、いつもペアを組む時に余りの1人でした。最後の修学旅行でも私に気が付かずバスが行ってしまい、サービスエリアで1人ぼっちになりました。それが原因で『私は生きているのにこの世にいない透明人間なんだ』と思うようになりました。でも忘れられたままの存在でいたら一生後悔すると思い、もう一度アイドルになろうと決意しました」

紫色担当・紫苑(しおん)りんかの動物キャラクターは「ウサギ」、アイデンティティーは「職業ギャル」。ダークな衣装が特徴だ。

紫苑「『りんか様』でお願いします。私は明るい場所が大の苦手で、家では真っ暗な状態で生活しています。前にいたアイドルグループが活動終了になり、自分にも嫌気がさして、『この世から消えたい』と思っていました。そんな時期にプロデューサーから声を掛けられ、『どうせ人間いつかは最期を迎えるんだから、生きているうちに新しいことをやってみよう』と思うようになり、挑戦を決めました」

黄色担当・眠岸(ねぎし)ぷりんの動物キャラクターは「クマ」、アイデンティティーは「低身長ゆるキャラ」。名前の通り、プリンが大好きな大学生だ。

眠岸「『ぷりんちゃん』って呼んでください。食べることとお酒を飲むことが大好きです。でも大学ではお手洗いの個室に入ってお昼ご飯を食べています。なぜかというと他人の視線がものすごく気になって知らない人の前で食事ができないんです。NANIMONOに入った理由は『優しい世界を作りたい』というこゆびちゃんの思いに共感したからです。私にとって優しい世界とは、『人目を気にしないご飯屋さん』です。コロナ禍になって、おひとり様のお店が増えたので本当に気持ちが楽になりました。そんな風に私と同じように生きづらさを感じる人たちを救ってあげたくてNANIMONOに入りました」

目標は日本武道館でワンマンライブ「インキャの希望になるのだ」【写真:ENCOUNT編集部】

デビュー2周年「NANIMONOは何者なのか?」の回答は

2022年にNANIMONOを結成して、今年で2年目を迎えた。

ひなた「初顔合わせで『何かみんな似ているな』って思いました。普段はみんな無言なんだけど、すごく安心できる無言なんです。もし誰かの心がいっぱいになっていたら必ずほかの誰かが声を掛けて、この2年間ちゃんと支え合うことができています」

輪廻「全員が辛い経験をしてきかたらこそ、そういう人たちに寄り添えるグループなんだと思います。やっぱり、仲間がいると強くなれるんですね」

眠岸「私は一緒にご飯に行ってくれる友達ができたことが大きいかも。気軽に誘える人がいるってとっても大事だなって思います。今日もこのあとみんなでご飯に行くんですよ(笑)」

遊乃「社会に出る前にアイドルになったので、世間知らずで最初はみんなに吠えまくっていたんです。でもみんなお姉ちゃんみたいに優しく受け入れてくれて、この2年で精神的に大人になりました」

紫苑「みんなインキャな性格だけど、プロ意識を持って立っているからステージではキラキラしています。ライブが終わると家族みたいに『焼肉行こう!』ってなるし。女の子独特のギスギスした感じは全くありません」

柊真「まだまだできないことばかりですが、みんな優しく教えてくれるから、取り残されている感じが全くしないんです。私も誰も取り残さないように自分と同じような人たちを救える存在になりたいって思いました」

47774「みんなが言った通り、『全員で頑張ろう』という気持ちがあるから、めちゃくちゃ魅力が詰まったグループです。私も入って良かった(笑)」

デビュー2周年はNANIMONO史上最大規模のワンマンライブが待っている。

ひなた「6月のTOKYO DOME CITY HALL公演は、インキャの希望になるような優しい世界を体験できると思います」

47774「MCの時に簡単な振り付けをみんなでやる『フリ講座』があります。老若男女が楽しめるライブですよ」

柊真「1年目でKT Zepp Yokohamaを満員にできたので、2年目はTDCを満員にさせたいです。今は毎日ライブのことしか考えられないくらい頑張っています」

眠岸「私たちはお客さんを『TAKARAMONOさん』と呼んでいます。TAKARAMONOさんは私たちと同じインキャの人も多いので、私たちは人前に立つことが全然怖くないです」

グループ最大の目標は日本武道館のステージに立つことだ。最後に「NANIMONOは何者なのか」と聞くと、全員で「まだ分かりません」と口をそろえた。

紫苑「何者かが分かった時は解散する時かもしれません。それまではみんなで探し続けます」

輪廻「何者かが分かることだけがゴールじゃないもんね」

遊乃「最後に1つだけ言わせてください。私たちは『陽キャ』も応援しています。『陽キャ』の人も大好きですし、一緒にライブで楽しんでもらいたいです。『陽キャ』と『陰キャ』は対立しちゃ、ダメなんです」

47774「私たちもこの2年で『陽キャ』の部分が出てきたよね(笑)」

紫苑「だから子どもから大人まで誰もが楽しめるライブを目指します。進化した私たちを見にきてくださいね」

□NANIMONO(ナニモノ)アイデンティティーを確立するためにアイドルになった全員インキャの7人組。2022年、同年6月14日、SHIBUYA WWW ワンマンライブにて始動。23年6月、ファースト・アルバム『むりなんだがw』でメジャーデビューし、結成1周年を記念したワンマン公演をKT Zepp Yokohamaで開催。チケットはソールドアウトだった。福嶋剛

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