井浦新「東京の山奥に住んでいた、ただのカルチャーオタク」が人気モデルに。「人との出会い」がもたらした3つの転機

井浦新 撮影/三浦龍司

知的な雰囲気がありながら大人の色気も感じさせ、多面的な魅力を持つ井浦新は、日本の映画・ドラマに欠かせない俳優となっている。社会派作品から、エンタメ色の強い作品まで幅広く活躍する現在につながる「THE CHANGE」について聞いてみた。【第2回/全3回】

変わってばかりの人間は信用できない?

インタビュー撮影の最後、『THE CHANGE』でおなじみの質問「あなたにとってのCHANGEはなんですか?」をしたところ、井浦新さん(49)から「私のCHANGEは、CHANGEしないです」と返ってきた。まるで禅問答のような言葉の真意とは?

井浦「CHANGEは大事だと思います。人間は変わっていけるし、変わることができるからこそ価値があるんだと思います。でも、変わってばっかりだと、信用できないじゃないですか。人間だったらなおさらのことで、変わりすぎはけっこう危険だと思うんです。ワンクールごとに変わっていたら、ちょっとやばいですよね(笑)」

ただ、自分でも49年生きてきて、大きな変革期というのは、もちろんあります。それがあったから、今の自分があるんだと思えるようなCHANGEは、絶対大事だと思います」

意識して変えるのではなく、訪れてくる変化ということのようだ。

今につながる是枝裕和監督との出会い、映画『ワンダフルライフ』

井浦「僕の場合、大きな変革は作品というより、人との出会いです。人との出会いが作品という形にもなっていきますから。僕には3回重要な出会いがありました。最初は東京の山奥に住んでいた、ただのカルチャーオタクが19歳のときにモデル事務所にスカウトされたことです。今につながってくる大きな変化です。

僕はカルチャーとファッションが好きで。当時はファッションを突き詰めて洋服屋をやりたいとか…モデルの仕事をしながら動いていく中で、自分の人生に変化をもたらす、思ってもみなかった次の出会いがありました。それがデビュー作になる是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』(1999年)の出演です」

当時、俳優の経験がまったくない井浦さん(当時の芸名はARATA)を主役に抜擢した『ワンダフルライフ』は、是枝監督の2作目の作品。日本のみならずアメリカでも公開され、日本のインディペンデント映画では異例のヒット作となった。

井浦「そのときの出会いが今の仕事につながってきます。23歳のとき、モデルの仕事を卒業し、洋服屋と俳優の仕事を同時にスタートしたんです。もちろん僕の中では大きな出来事でしたが、23歳で俳優を続けていくという志もなかったし、芝居もわかっていなかったので、精力的に俳優に向き合うことができない……というか“わからなかった”んです」

俳優とアパレルという2つの仕事を並行していた井浦さん。だが、だんだんと映画を作ることの面白さに気づいていく。

若松孝二監督との出会い

井浦「それでも映画を見た監督の方たちが声をかけてくださるようになって、1年に1本くらいキャリアを重ねることができて。僕は基本的に物作りが好きなので、服を作るように映画を作っていく、その撮影現場がものすごく楽しかったんです。

自分が映画を作ることに参加できる、俳優という場所があったことで本当に救われたんですが、そんな中でも俳優という仕事をどう突き詰めていけばいいのか、10年ぐらい丁寧に模索しながら続けていきました」

井浦新 撮影/三浦龍司

物作りという自分なりの観点を通し、俳優として映画作りに関わり続けた井浦さん。そして31歳のときに、3つめのCHANGEが起こる。

井浦「僕の恩師となる若松孝二監督に出会うんです。それまでの自分は俳優ですってなかなか言えなかったのですが、ちゃんと胸を張って俳優です、と言わなければいけないと思い始めました。仕事の向き合い方やあり方も変わってきて、新しい方面からも声をかけていただけるようになりました」

人との出会いが自身を変えてきたという井浦さん。自分で自分を変えるのではなく、出会いによって必然的に変わっていく。それが、「私のCHANGEは、CHANGEしないです」の意味のようだ。

(ヘアメイク:近藤あかね、スタイリスト:椎名倉平)

井浦新(いうら・あらた)
1974年東京都生まれ。1998年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。
『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)では、主人公・川内ミヤビの主治医で脳外科教授の大迫紘一を演じる。

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