【特集】「最期まで自分らしく生きたい…」新たな“看取り”の形でニーズ急拡大中の『ホスピス型住宅』 本人や家族が望む「最期の選択肢」に密着

【動画で見る】本人や家族が望む“看取り” ニーズ急拡大中の「ホスピス型住宅」 新たな“人生の選択肢””に密着

「最期まで自分らしく生きたい」―そんな患者の望みを叶えてくれるのが、『ホスピス型住宅』です。自宅のように過ごせるのが特徴で、面会・外出の制限はなく、看護師や介護士が24時間体制で寄り添います。誰もが迎える人生の最期―本人や家族が望む「最期の選択肢」と、それぞれの想いを取材しました。

「みんな心配してくれると、力強い励みになる」看護師が24時間体制で医療的ケア、面会・外出も制限なし…自宅のように暮らせる『ホスピス型住宅』とは

大阪・堺市にあるホスピス型住宅『ReHOPE堺北』には、約40人が暮らしています。一見、老人ホームのようにも見えますが…。

『ホスピス型住宅』の一番の特徴は、看護師が24時間体制で医療的ケアを行うこと。老人ホームには入居しづらい末期がんや難病の患者を受け入れます。『ホスピス』とは、末期がんなど余命わずかな患者のために苦痛を和らげるケアを行い、穏やかな最期を迎えてもらう施設のことで、最期まで自分らしく生きられる『住まい』と『手厚いサポート』を提供します。

患者の男性が、水彩画を描いていました。

(記者)

「これは何の花ですか?」

(患者の男性)

「ツワブキ」

(男性の妻)

「手っ取り早く描けたね、今日は」

(記者)

「生命力のあるツワブキ、ステキです」

(男性の妻)

「良いね」

まるで自宅のように、思い思いに過ごす患者たち。壁一面の水彩画には、家族との思い出が描かれています。

(患者の男性)

「自分自身の励みになっています」

コロナ禍を経て、多くの病院では今も面会制限を設けていますが、ここでは家族とのふれあいを優先して、自由に会いに来ることができます。

(看護師)

「ちょっと外の空気でも吸いに行きます?」

体調が良ければ、外出も自由。看護師は午前と午後に30分ずつ、1日1時間以上の看護を提供します。

(看護師)

「またお花見しましょうね」

(患者の女性)

「そやなぁ」

介護士も、24時間体制で患者の日常生活を介助します。費用は、月15万~25万円ほど(家賃・管理費・食費等も含む)。

(患者の男性)

「あー!お風呂が贅沢ですよ。やっぱりお湯は良いよ、本当に。ナイス!」

(介護士)

「ははは(笑)」

2週間に1回は、主治医が定期的に往診に訪れます。

(看護師)

「刺入部からも浸出液が出る感じで。外して洗ったりはしていたんですけど」

医師は、毎日患者を診ている看護師から体調の変化を聞き、処置に当たります。

(訪問診療医・山口一行医師)

「これか…」

(看護師)

「お風呂の時とかも怖くて」

(山口医師)

「確かに。後ほど、ここを麻酔して、この腸ろう・チューブが抜けないように、やりましょう」

さまざまな医療をチームで提供しますが、往診で補えない処置は、患者がここから病院に通います。

(山口医師)

「頑張って、まだまだ通院しながらやっていきましょう」

(患者の男性)

「みんな心配してくれると、力強い励みになります。自分一人の病との戦いじゃないから」

(山口医師)

「『ホスピス型住宅』という施設に来たからと、『もう治療がない』『見捨てられた』と思う方もいらっしゃるんですけど、僕たち医師・施設・看護師が一緒に協力して、適切に医療を提供していくことを心がけています」

2023年10月。末期がん患者の山下光蔵さん(92)が、病院から搬送されてきました。

(光蔵さんの息子・博亮さん)

「やっと来たやん。良いやろ?ここ。全然心配することないで、何も。ここは、自分の家やから」

入居してから、10日ほど経ったある日。光蔵さんの体調が悪化し、家族が駆けつけました。

(博亮さん)

「昨日『あかん』と言われて、慌てて。『家族を呼んでくれ』と言われたけど、僕らが来たら元気になって」

(光蔵さんの娘・裕美さん)

「みんながいると安心するみたいで、意識が戻ってきますね」

家族の懸命な呼びかけが、光蔵さんの支えになったようです。

娘・裕美さんが、光蔵さんの足をマッサージします。

(娘・裕美さん)

「気持ち良い?」

(光蔵さん)

「……(いびき)」

(裕美さん)

「あら、寝てしまった(笑)」

(博亮さん)

「気持ち良いんやな」

「その人の人生を看取れることに感謝を忘れない」“死”と向き合う仕事の過酷さ… 『ホスピス型住宅』急拡大も、課題は「人材確保」

40年前、末期の患者に緩和ケアを行う『ホスピス』が、西日本で初めて病院内に作られました。しかし、『ホスピス』を病院に設置するには厳しい基準があり、採算が取りづらいなどの理由から、今なお数が足りているとは言えません。

厚生労働省・中央社会保険医療協議会によると、2040年には「看取り場所の不足」で約49万人が病院や在宅での治療を受けられず、施設にも入ることができずに亡くなる可能性が指摘されています。

一方、国は医療費削減のため、病院ではなく自宅での看取りを推進します。しかし、最期まで医療的ケアが必要な末期がん等の患者を、自宅で看取るには限界があります。そのため、病院と自宅、双方のメリットを取り入れた『ホスピス型住宅』の需要が今、高まっています。施設の数は、この3年で約2.5倍と急拡大。2026年には更に増える見込みです。

しかし、施設を増やすために課題となるのが…。

(『シーユーシー・ホスピス』薮康人運営部長)

「やはり一番大きいのは、『人材の確保』だと思います。『人材』と言っても、“訪問看護”に慣れたスタッフを、より多く揃えていきたい」

看護師一人につき、受け持つ患者は5~8人。全員が病院勤務を経験してきています。

(ReHOPE堺北・山本万梨菜看護師)

「今まで総合病院で、いろんな最期の迎え方を見てきたんですけど、『本当に、こういう最期の迎え方を望んでいたのかな』と何回も思い直すことがありました」

働き手を増やすため、施設側も様々な取り組みを実施しています。看護学生たちを招いた実地研修は、未来の看護師に『ホスピス型住宅』という施設を知ってもらう狙いがあります。

(ReHOPE堺北・村田妙子看護管理者)

「家だと、看護師を呼んで駆けつけるまでタイムラグがありますが、ここだと、待ってもらっても数分だと思います。そういう意味で、入居者さんも安心できる」

実地研修を終えた看護学生は…。

(森ノ宮医療大学・看護学科3年 山内大翔さん)

「まず病院でいろんな経験を学ばせていただいて、しっかり力をつけた上でここに来ないと、すぐに働ける環境ではないんじゃないかと思いました。ただ、将来的には“有り”な環境だと思いました」

また、即戦力の育成にも力を入れています。2023年12月にオープンした『ReHOPE神戸』では、オープン1か月前から、新しく入ったスタッフの研修を始めていました。病院や施設で働いていた経験はありますが、『ホスピス』ならではのケアを学ぶ専門的な研修が必要です。人工呼吸器の扱い方や確認手順を、シミュレーションで学んでいきます。オープン後も定期的に研修を重ね、新しいスタッフの不安を取り除いていきます。

さらに、スタッフの離職を防ぐための試みも。“患者の死”を共有し合うことで、スタッフのメンタルもケアします。

(看護管理者)

「何か、自分なりの工夫でリフレッシュする方法などはありますか?」

(看護師)

「亡くなったときは、悲しんで落ち込んだりするんですけど、その中でも良かったことを思い返します」

(介護士)

「その人の人生を看取れることに感謝を忘れないことが、自分の目標です」

(看護管理者)

「一人で悩まずに、みんなで『こういうことがあったよね』と共有してもらいたいと思っています」

(看護師)

「何回もカンファレンス(協議)することで、みんなの意見を知れて、同じ思いでケアできるのではと思います」

末期がん患者が迎える“最期” その時、本人・家族は…

(博亮さん)

「ミユキ(娘)が来るから、まだやで。もうちょっとだけ頑張ったってな」

2週間前、末期がんで『ReHOPE堺北』に入居した光蔵さん。いったんは持ち直したものの、この日、容体が急変しました。

(看護師)

「心臓も頑張ってくれているので、脈もちょっと速くなっている感じはあります」

(光蔵さんのご家族)

「おじいちゃん、ユイ(孫)やで」

「みんなに触ってもらえて良いやん、お父さん」

光蔵さんの最期は、家族に看取られての旅立ちとなりました。

(博亮さん)

「施設に入ってもらったおかげで、みんなで見送るというか、最期を看取れたなという思いがあります。最期、苦しそうな顔じゃなくて穏やかな顔をしていたんで、ホッとしました」

誰もが迎える人生の最期。本人や家族が望む「最期の選択肢」を広げるためにも、その受け皿づくりが今、急務となっています―。

(「かんさい情報ネットten.」2024年2月6日放送)

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