『ブルーロック』は「自己啓発本でもある」 島崎信長&浦和希が語る“強烈なセリフ”の本質

(左から)浦和希&島崎信長 クランクイン! 写真:小川遼

累計発行部数3000万部超を誇る大ヒット漫画『ブルーロック』。「エゴ」をテーマに日本全国の高校生フォワードが熾烈(しれつ)なサバイバルを広げるサッカー漫画で、テレビアニメ化に続き、劇場版の制作と破竹の勢いで成長し続けている。ただこの劇場版、ただの映画化ではない。『ブルーロック ‐EPISODE 凪‐』を原作に、本編/テレビシリーズの物語を別視点で描きつつ、さらなる物語/キャラクターの深掘りを計るファン垂涎(すいぜん)の内容となっている。本編の主人公・潔の前に立ちはだかる天才・凪と仲間たちにはどんな物語があったのか――。テレビシリーズから続投する凪誠士郎役・島崎信長と、第十八回声優アワードで主演声優賞を受賞したばかりの潔世一役・浦和希が、作品の魅力や収録の舞台裏を熱く語り合った。(取材・文=SYO/写真=小川遼)

■原初の欲求にある“エゴ”

――『ブルーロック』は“史上最もイカれたサッカー漫画”の異名を持つ作品です。お二人はこの作品に出会った際、どういった点に斬新さや面白さを感じたのでしょう。

浦:「究極的に強い世界一のフォワードを作るためのプロジェクト」という部分がこれまでなかなか切り込めなかったところではないかと個人的には感じています。作品全体を通して、とにかくオブラートに包まず、でもみんなが心の中でちょっと思っていることをストレートに言うところがありますよね。読んでいる自分も触発されて、いままで眠らせていた意見を言える勇気を与えてくれる作品だと思っています。そういう意味でも『ブルーロック』はサッカー漫画であると同時に自己啓発本でもあると思っていて。精神面に変化を与えてくれるところが魅力ではないでしょうか。

島崎:サッカー漫画とデスゲームを組み合わせた構造がすごくキャッチーで面白いですよね。その上で、浦くんが言ってくれた自己啓発的な部分は僕も感じます。成功者の美学や哲学的な部分まで踏み込んで言及されていますし、僕自身も争って競っていく業界で生きていて「その通りだな」と思うことが作中で数多く登場します。しかも、それを物語の都合で動かすのではなく、ちゃんと一人ひとりの人間性に落とし込んでいるから、人間味を強く感じられるんです。話の流れも良くできていますし、登場人物が各々エゴをもって人間らしく輝いていて、非の打ちどころのない漫画だと思います。

――お二人のお話、とても共感します。例えば「再現性のないスーパーゴールには価値がない」など、自分自身の仕事論にも落とし込める思考やセリフが多いですよね。

島崎:まさに凪が言われるものですね。

――『ブルーロック』の特徴として「うるせぇよ天才 今いいトコなんだよ」といった強烈なセリフの数々がありますが、セリフについてはどんな印象をお持ちですか?

浦:潔のセリフの中でずっと残っているものが「俺は俺のゴールで勝ちたい」です。“ゴール”という単語を他のものに置き換えたとしても、なかなか言う機会も思う機会もないものだと感じます。やっぱり「みんなで頑張ろう」というロジックのものが多いですし、このセリフに出会うまで「自分の力で何かを成し遂げたい」と思っちゃいけないと勝手に思って避けていたところがあったのですが、潔を演じる中で「思って/言っていいんだ」と気付けました。

でも考えてみれば僕自身も「自分のお芝居で作品を良いものにしたい」「自分の芝居でこの役を勝ち取りたい」という思いはありますし、さまざまな言葉を尽くしてマイルドにしてはいますが、原初の欲求にはそうした“エゴ”があります。言わないだけで実は持っていたんだと自覚するきっかけをくれた、好きなセリフです。

島崎:自分たちと重なるところはあるよね。特にこうやって主演やメインのキャラクターを務める役者は、各々エゴを持っているものだと思います。「エゴ」と言うと悪いもののように聞こえるかもしれませんが、自分勝手=エゴではない。チームのためのエゴというものも存在しますから。

浦:すごく分かります。

島崎:僕個人でいえば「こんなセリフは経験がない!」というのはないといえばないし、あるといえばある、といった感じです。僕は「世界を滅ぼす」も「おはよう」も、どっちのセリフもあまり特別と思わずに演じています。例えば「世界を滅ぼす」と聞くと突拍子もない言葉に感じますが、日常生活を送っている中で「全部滅びちゃえばいいのに」と思うことってありますよね。その思考自体は魔王でも高校生でも同じですし、「おはよう」という、あいさつはどちらもするものだと思います。

人間としては重なる部分は絶対にあって、どこかを増幅したり削ったりすることで、その表現にたどり着くものです。かつ、「おはよう」というセリフ一つとっても一人ひとり違うものだと思います。そういった意味では全てのセリフが特別だし、特別でないともいえるんじゃないかと。僕はそういった考えで演じています。

――『ブルーロック』を見ていて、特異な環境に置かれていても各々に生々しさを感じるな、と思っていたのですが、今のお話を聞いて非常に納得できました。

島崎:アニメーションではありますが、「キャラクター」ではなくそこに生きている「人間」としてリアリティーや生々しさを感じてもらえたら、と思いながら演じているので、そういった部分が届いたのならとてもうれしいです。

■「そこに生きている凪」を演じている

――劇場版では凪たちの目線で、別角度からキャラクターを掘り下げていきます。凪や潔もそうですし、御影玲王や剣城斬鉄の新たな一面も見られますが、お二人が新鮮に感じた部分はありましたか?

浦:基本的に本編(テレビシリーズ)は潔視点で進みますが、そこで語られていなかった凪・玲王・斬鉄のパーソナルな部分をたくさん知ることができました。こういった積み上げがあり、仲良くなった上での「あの三人のコンビネーションだったんだ!」と納得できる作りになっていて、すごく楽しめました。

島崎:潔視点だと凪は謎の天才生物だけど、視点が変わると「みんなちゃんと人間なんだ」と思えるから面白いよね。

浦:そうですね。試合以外のシーンは潔のチームZが中心でしたから、本作で「他のチームもベッドの取り合いとかやってたんだ!」と思えました。

島崎:斬鉄の人間性も本当にいいんだよなぁ。

浦:真面目にやってるけど結局ボケているところがあって、愛らしいですよね。

島崎:玲王との関係性でいうと、本編で語られていない「このときお互いにこう思っていました」という心の内がモノローグで語られているのも重要なポイントです。「それを口に出してちゃんと言いな?」とは思いますが(笑)。

浦:本当にそう(笑)!

――凪と玲王は、お互いにその部分のコミュニケーションを取らなかったためにすれ違っていきますもんね。

浦:ちゃんと口に出して伝えることの大切さも、この映画から学べるんじゃないかと思います(笑)。

島崎:確かに(笑)。この二人のこの状況だったから、もしかしたら伝えなかったからこその成長があったかもしれませんが、普段だったら絶対ちゃんと伝えるべきだと思います(笑)。

――テレビシリーズと劇場版で潔と凪の演じ方自体は変わらないかと思いますが、新たに「乗せる」といったようなアプローチの違いはありましたか?

浦:おっしゃる通り、大まかな展開自体はテレビシリーズで一度やっているためその都度の気持ち自体は変わりませんが、今回の収録に際して石川俊介監督からいただいたオーダーが「凪視点から見た潔」でした。凪から見ると潔は得体のしれない生き物なので、それが際立つお芝居をくださいと。いままでの潔は焦燥感や切迫した感情に重きを置いて演じていましたが、今回は凪が見て「コイツちょっと強いぞ、底が知れないぞ」と思えるような“強さ”が前面に出るように演じさせていただきました。

島崎:先ほどのリアリティーのお話ではないですが、僕たちはその部分を大事にした上でオーダーに合わせて演じていく必要があります。『ブルーロック』は演出が入った「作品」で、実際に生きている姿をそのまま見せる、というものとは違いますから。今、浦くんが言ってくれた内容と全く同じで、僕はテレビシリーズのときに「潔から見た凪」を演じていました。具体的に言うと、本当なら凪ももうちょっと息が切れていたり疲れていたり、焦りや熱が出ているはずの局面でも、それを見せすぎないようにしていたんです。

「凪がそこに生きていたら」をそのまま表現すると、作品全体として凪が弱く見えたり、早い段階で人間味が見えすぎてしまったりして、作品として目指す方向とズレてしまいますから。今回は逆で、そうしたフィルターを取っ払って「そこに生きている凪」を演じています。テレビシリーズよりも息が切れているし、疲れたり焦ったりする凪が見られるかと思います。視点が変わるだけでこんなに表現されるものが変わるんだ、という部分をぜひ楽しんでいただきたいです。

――テレビシリーズと映画で、潔と凪がミラーリングの関係になっているのですね。その他、アフレコ時の印象に残ったエピソードはありますか?

浦:僕個人としては「凪の天才ぶりを見せつけられた…」とお芝居を通して感じました。今回、潔と凪が戦うシーンは(島崎)信長さんと一緒に録ることができたんです。テレビシリーズ時はいっぱいいっぱいになりながら、なんとか食らいついていく感じでしたが、劇場版では「成長した姿を信長さんに見せてやるぞ!」という気持ちで臨みました。

ただその中で、信長さんの血の通った“実在する”お芝居で凪の魅力がさらに引き出されていて「やばいやばいやばい、このままだとエピソード凪どころか『ブルーロック』」の主人公が凪になっちゃうんじゃないか」と圧倒されてしまって。でもその中でも、潔は凪視点の“強さ”を見せないといけないので、精いっぱい頑張りました。本当に強かったです。

島崎:いやいや! テレビシリーズからずっと浦くんはできる子だから大丈夫。

浦:とんでもないです! 本当に必死でした。

島崎:収録時のエピソードでいうと、浦くんと一緒に録ったときに玲王役の内田雄馬くんとはご一緒できなかったんですよね。でもそれで終わりではなく、浦くんとご一緒した日に凪のセリフ自体は全部録りましたが、玲王との掛け合い部分を後日に行われた雄馬くんの収録日に改めて録りたいというオファーをいただいて。そこにわざわざ時間をかけ、スケジュールを押さえて場を設けてくださったのがまずうれしいですし、それは「芝居が変わる」と期待してくださっているからこそと受け止めました。「別々で録っても変わらないでしょ」と思っていたらそうはしないでしょうから、「この子たちは一緒にやってもらったら変わる。少しでも良いものがほしい」というスタッフさんの熱意にすごく燃えました。

実際に雄馬くんと掛け合うと、一人で玲王を想像しながら演じるのとはやっぱり違うものが出てきました。凪が話していなくても、玲王の言葉や思っていることを聞いた上ではまた芝居も変わりましたし、それがラストの方の「ここどうしようかな」と悩んでいたセリフに生きてきたんです。雄馬くんと「やっぱり芝居ってこうだよね! 掛け合うと自然にこうなるよね」と二人でテンションが上がっていました。

浦:化学反応が生まれますよね。

島崎:そうそう。役者さんによってスタイルは違うかと思いますが、「芝居は掛け合い」とよく言うように、お互いが受け取って投げかけ合ってその場で変化していくのが僕はすごく好きなので、場を設けてくださって本当にありがたかったです。

アニメ映画『劇場版ブルーロック ‐EPISODE 凪‐』は、全国公開中。

島崎信長の「崎」は「たつさき」が正式表記

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