『6秒間の軌跡』高橋一生×橋爪功は言葉にならない思いを表現する “自分で選択”した星太郎

父親に強く反対されながらも花火師になりたい夢を諦められず、望月煙火店の門を叩いた花火師の娘・ふみか(宮本茉由)。自分のやりたいことがはっきりしている彼女を見ていたら、否が応でも自分がどうしたいのかを考え始めるのではないか。星太郎(高橋一生)はそんな風に父・航(橋爪功)から諭され、ふみかを採用してみることに。

『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』(テレビ朝日系)第3話では、星太郎とひかり(本田翼)の二人っきりだった望月煙火店にふみかが仲間入り。航の見立ては正しく、彼女の存在がさっそく星太郎に大きな影響を与えた。

ふみかを雇うと決めてからというものの、終始ソワソワと落ち着かない様子の星太郎。着替え場所はどうするのか、お昼ごはんは用意しなければいけないのか……等々、余計な気を回してひかりを苛立たせる。星太郎も最終的には自分で決めたこととはいえ、なんで俺がこんな心配しなくちゃいけないのか、とでも言いたげだ。だが、いい加減、大人なんだから他人のせいにするのはもうやめようと自分でも思っているのだろう。“親父のせいで”と言いそうになる気持ちをグッと堪えるが、航に「俺だったら花火師の娘なんて色々面倒臭いから雇わない」とからかわれ、まんまと禁句を口にしてしまった。

何気ない父と息子のやりとりではあるが、なかなか興味深い。何を言うか、言わないかもそうだけど、私たちの人生は選択の連続でできている。今日何を食べるか、何を着るかといった小さな選択から、何の仕事に就くか、誰と結婚するかといった大きな選択まで。基本的には自分で選んでいると思っているけど、ふと考えてみると、本当に自分がそうしたくて“選んだ”ことなのか、それとも誰かに“選ばされた”ことなのか、実はよくわからないことが多い。

周りに流されがちな星太郎もそうだった。早とちりで予定していた日よりも1週間早く出勤したふみか。星太郎の幼なじみである田中(小久保寿人)から、近々行われるお祭りでの花火の打ち上げを依頼され、さっそく3人は花火作りに取りかかる。ふみかは父親に玉貼りや玉込め作業だけはやらせてもらっていただけあって手際が良く、ひかりは感心するが、彼女を未だスパイと疑っている星太郎は企業秘密に関わる重要な作業はさせなかった。そのことで疎外感を覚え、当初は寂しそうな表情を浮かべていたふみかだが、初めて“上げる側”から見る星太郎の花火に感動の涙を流す。その表情が物語る彼女の花火に対する思いは純粋そのものだった。

そんなふみかの姿を目の当たりにしたことに加え、ひかりから航が以前、「俺が星太郎のことを花火師以外、選べないようにしたんじゃないか」と悩んでいたことを聞かされた星太郎は改めて考えてみる。自分の花火を極めたい、と思ったことは本当。だけど、本当に花火が好きかどうか、と聞かれたらよくわからなかった。

花火師の息子として生まれ、職人たちとともに育ち、航から花火の作り方を教わった星太郎。その父が亡くなり、どうしようかと思っていたところにひかりがやってきて、流されるままに個人向けの花火の受け付けを始めた。コロナ禍が開けて本格的に事業を再開するも、マスコミのせいで再びやる気を失ったところに、今度はふみかがやってきて、その強い思いに感化された星太郎は花火師として復帰を果たした。

もしかしたら、星太郎は花火師になることを選んだのではなく、選ばされてきたのかもしれない。だけど、そんなのは考えてもわからないことであって、星太郎にとって確かなのはたったひとつ。「この家に生まれて良かった」ということだった。息子がたどたどしく語る率直な思いに、ぶっきらぼうに「おう」とだけ答える父。どちらも不器用で多くを語りはしないけれど、互いを信頼し合っている高橋と橋爪だからこそ醸し出せる、言葉以上に通じ合っている2人の空気感にじんわりと心が温かくなった。

他人のせいにすることなく自分の選択に納得し、また一つ成長したように見える星太郎。遅れてきたモラトリアム期を卒業する中で仕事への向き合い方や、ひかりやふみかとの関わり方にどんな変化が現れてくるのか楽しみだ。次週は、航の別れた元妻であり、星太郎の母である理代子(原田美枝子)も久しぶりの登場となる。またあの、ぎこちなくも嬉しさが隠しきれない星太郎を見れるのかと思ったら1週間が待ち遠しくて仕方がない。

(文=苫とり子)

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