圧巻のビジュアルは一見の価値あり!…温泉学者が絶賛する珠玉の「名湯&源泉」スポット4選

(※写真はイメージです/PIXTA)

温泉をとことん堪能するなら外せないのが「源泉」巡り。雄大な自然をバックに、ダイナミックに湧き出る源泉は圧巻そのもの。その後入るかけ流しの温泉では、さぞ格別な気分を味わえることでしょう。温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、最高の“源泉巡り”が体験できる名湯4ヵ所を紹介します。

温泉へ行ったら、ぜひ足を運びたい「源泉」

ぜひ美しい源泉を間近に見た後、その源泉が引かれた鮮度抜群の風呂に浸かって、全身の細胞で“源泉力”を感じてみてください。きっと新たな温泉の楽しみ方を発見して、病みつきになるかもしれません。

01.登別温泉(北海道登別市)

登別温泉のシンボルは「登別地獄谷」。土産店、飲食店、大型温泉ホテル、温泉銭湯「夢元さぎり湯」などが軒を連ねる登り坂の温泉街を奥に進むにつれて、硫黄の香りが一段と濃くなります。その香りの源、泉源(源泉地)「登別地獄谷」の入り口にビジターセンター「登別パークサービスセンター」があります。登別温泉の自然や成り立ちを学ぶ展示コーナーがあり、地獄谷や大湯沼、大湯沼川天然足湯などの地図、パンフレット類も入手できます。

登別では一日一万トン(ドラム缶約5万本)、日本にある10種類の泉質中9種類もの泉質が自然湧出しており、その最大の源泉量を誇るのが地獄谷なのです。

日和山の噴火活動によりできた爆裂火口跡で、直径約450メートル、面積は甲子園球場の2.8個分に匹敵する約11ヘクタールもあります。地獄谷遊歩道は楽に巡れ、10~15分もあれば大丈夫です。展望台から、地獄谷の底や斜面から火山ガスや源泉が噴出する様子を一望できます。耳を澄ますと、ボコボコと熱い源泉が湧き出す音が聞こえてきます。

地獄谷の中央付近にあたる遊歩道の最深部まで行くと、「鉄泉池」の案内板がありました。熱湯を噴出する「湯煙地獄」で、中央に小さな「間欠泉」があります。数分おきに噴き上げていて、煮えたぎる光景は迫力満点、地球の息吹すら感じられます。

地獄谷の北にも登別温泉街に供給される泉源「大湯沼」があり、大湯沼遊歩道をたどると10分ほど。ここも日和山の爆裂火口跡で、周囲約1キロメートル。沼底から約130度の硫黄泉が噴出しており、表面は灰黒色をしています。

温泉街へ戻る際にぜひ寄りたいのが、大湯沼からあふれ出した湯川の足湯「大湯沼川天然足湯」です。源泉100%、森のなかの「天然の足湯」ですから、これほど癒やされる足湯は全国でも稀でしょう。遊歩道を歩いて来たあなたへの“大自然からのご褒美”です。

温泉街のメインストリート沿いに快適な入浴施設「夢元さぎり湯」があります。じつは私も「さぎり湯」の大ファンです。ここには硫黄泉と明礬泉のともに地獄谷を湯元とする二つの浴槽があり、もちろん“源泉100%かけ流し”の極上湯です。しかもあまり知られていないのですが、地獄谷から地形の落差を利用した「自然流下」で生源泉が浴槽に注ぎ込まれています。

動力を使って湯を送ると撹拌され酸化されやすいため、「さぎり湯」のような自然流下による送湯は適した方法といえます。このような施設は全国でも稀です。美しい乳白色の湯で、源泉巡りの疲れは瞬く間に解消されることでしょう。

[写真1]登別温泉の最大の源泉量を誇る「登別地獄谷」著者撮影
出所:『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』(東京書籍)より抜粋

雄大な自然を五感で感じられる名湯の源泉

02.ニセコ湯本温泉(北海道蘭越町)

[写真2]ニセコ湯本温泉の源泉「大湯沼」写真:PIXTA

スキーで国際的に有名なニセコ山系のチセヌプリ南麓に濃い硫黄臭を漂わせながら高く湯煙を噴き上げる大湯沼は、ニセコ湯本温泉の源泉で、すぐ近くの野趣あふれる露天風呂で人気の「蘭越町交流促進センター雪秩父」や温泉旅館へ送湯されています。

縦約50メートル、横約90メートル、周囲約200メートルの大湯沼には、遊歩道が整備されており、歩いていると、強烈な硫黄の匂いや定期的に沼底から噴き上がる灰白色の熱湯が見え、地球の脈動を感じます。明治時代には硫黄を採掘していた大湯沼の沼底から、二酸化硫黄を含む120度前後の高温ガスが噴気し、湯面は煮えたぎるようで、迫力があります。湯面には湯の花(学術的に貴重な黄色球状硫黄)が浮遊しています。

大湯沼から入浴施設「雪秩父」まで数十メートル。人気の野趣あふれる露天風呂に浸かりながら、源泉100%かけ流しの生源泉を五感で堪能しました。露天風呂から間近に大湯沼の高く立ち上る湯煙が見えます。これほど贅沢な湯浴みはそうないでしょう。

目の前のチセヌプリは全山、錦の秋色に彩られていました。嗅覚で硫黄の香りを感じ、視覚で白濁した湯の色、紅葉の山を愛でる。湯口から浴槽に湯が注ぎ込み、ときおり静かに吹き渡る風が草木を揺する音に聴覚を呼び覚まし、触覚で湯の花の浮かぶ濃厚な硫黄泉の感触を全身で堪能する。こうして源泉地で本物の自然に包まれながら、五感を蘇生させる――。

03.須川高原温泉(岩手県一関市)

[写真3]須川高原温泉(岩手県一関市)写真:PIXTA

岩手、宮城、秋田の三県にまたがる栗駒山の中腹、標高1,126メートルの高所に湧く須川高原温泉。平安時代の発見と伝わる湯温50度近く、pH1.9の強酸性の明礬・緑礬泉(含鉄(Ⅱ)・硫黄―ナトリウム―硫酸塩・塩化物泉)は、江戸時代から療養の湯で知られ、現在では300年以上にわたる陸奥の秘湯として、また栗駒山の登山基地としても根強い人気です。

旅館部と湯治部から成る「須川高原温泉」の大きな木造の施設の裏手にまわると、毎分6,000リットル(ドラム缶約30本)もの大量の明礬・緑礬泉が噴出し、美しい源泉が湯川となって流れ落ちる様子を間近に見ることができます。一か所の泉源から湧出する量としては全国2位です。川床は硫黄で黄色味を帯びており、また猛烈な勢いで流下する源泉は美しい青味を帯びています。

事実、すぐ近くの大露天風呂も同じような鮮やかな色をしていました。登山路を10分ほど歩くと木造の小屋があります。入り口に「蒸し風呂」と書かれています。その昔、里に住む花魁が好んで入ったことから通称「おいらん風呂」と呼ばれています。床に穴が空いており、そこから激しく蒸気が出てきます。穴をふさがないようにゴザを敷いて寝そべりタオルとビニールにくるまると、間もなく全身が蒸気に包まれ気持ちのよいこと!

体が軽くなりました。もちろんパワーみなぎる生源泉によるデトックス(解毒)効果も!

「天然岩盤浴」ができる湯治の名所も

04.玉川温泉(秋田県仙北市)

十和田八幡平国立公園に濃厚な湯煙とともに湧く玉川温泉には2つの日本一があります。

ひとつは一か所の泉源から湧出する源泉量が日本一で、毎分9,000リットルにも及びます。この源泉の湧出口(泉源)を「大噴」といい、源泉名は「大噴源泉」です。二つ目はpH1.05~1.2といわれる日本一の強酸性であること。その強さは鉄、アルミニウムなどの金属をはじめコンクリートのセメントを溶かすほどで、玉川温泉の浴槽はもちろん浴舎も木造です。

玉川温泉は奈良時代末期に焼山西側の中腹から噴火した際の爆裂火口跡に湧く温泉です。その渓谷に探勝遊歩道が整備されており、噴火口跡からすさまじい勢いで噴出する「大噴源泉」を間近に観察できます。「大噴」から噴出した98度の熱湯が幅3メートルもの湯川となって流れる様子はダイナミックそのものです。遊歩道を歩いていると風向きによっては濃い湯煙に包まれ、立ちすくんでしまいます。この蒸気に含まれる温泉成分を吸入すると、気管支系の疾患に良いといわれます。

その日の天候によって微妙に色は変化するようですが、美しいコバルトブルーの源泉が流下する先には、湯の花を採取する木の樋が並んでいます。

「大噴」の先へ進むと、噴気地帯が現れ、療養客が地面に横になり「岩盤浴」をする光景を目の当たりにします。地温が40~50度ぐらいあり、“天然岩盤浴”ができるのです。岩盤浴という言葉は玉川温泉が発祥の地です。近くにテント小屋(無料)が設営されており、そのなかで岩盤浴をすることも可能です。

療養目的で玉川温泉に滞在する人たちは、岩盤浴を毎日2回、1回40分を基本メニューとします。

玉川温泉には微量のラジウムが含まれており、10年間で1ミリメートルずつ石化してわが国唯一の「北投石」(特別天然記念物)となります。世界では他に台湾の台北市郊外の北投温泉だけという貴重な鉱物です。

大噴源泉を引いた大浴場でpH1.2という日本一の強酸性泉の一軒宿「玉川温泉」に浸かってみましょう。手始めに濃度を半分に薄めた浴槽に入り体を慣らします。次に100%の生源泉に浸かります。周りの人は“黙浴”をしています。笑みはありません。療養目的の湯治客が多いこともあるのでしょう。文字通りただ浸かるだけ。体をこすって傷でもつくようなら染みて大変です。手を目にふれてもいけない。

源泉が湧出口から噴き出す様子、それが美しい湯川となって流れる光景を見学し、仕上げにその源泉に浸かる――。これこそ温泉大国・日本ならではの“温泉の流儀”というもの。

[写真4]玉川温泉の有名な天然岩盤浴 著者撮影
出所:『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』(東京書籍)より抜粋

松田 忠徳
温泉学者、医学博士

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