緑茶を結納や婚礼に出してはいけない理由とは 新茶シーズンに知りたい お茶にまつわる言い伝え

おいしい緑茶(写真はイメージ)【写真:写真AC】

立春から数えて88日目にあたる八十八夜。2024年は5月1日です。昔は茶摘みを行う目安とされ、「八十八夜に摘んだお茶を飲むと長生きする」といわれてきました。その一方で「お祝いの席に緑茶はタブー」とする風習もあります。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、古くから日本人になじみがある緑茶にまつわる言い伝えに迫ります。

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結納や婚礼の席で緑茶はタブー? 地域によっては「芽出たい」

現代では気にしない人が多いかもしれませんが、結納や婚礼といったお祝いの席に「緑茶を出してはいけない」といわれることがあります。理由は「お茶を濁す」や「茶々を入れる」といった言葉に通じることにあるようです。めでたいことがその場しのぎでごまかされたり、邪魔が入ったりすることがないようにとの思いから、そのような言い伝えが生まれたといわれています。

そのため、今でも多くの地域では、お祝いの席に緑茶ではなく桜湯(桜茶)や昆布茶が出されることが一般的。桜湯は、塩漬けの桜の花びらを茶碗に入れてお湯を注いだもので、縁起が良く華やかな見た目です。また、昆布茶は「喜ぶ」に通じることから、めでたい席に好まれています。

余談ですが、桜は江戸時代の初頭まで、逆に縁起が悪いものとされていたとの説もあります。桜の花は咲いたらすぐ散って、色褪せてしまうことから「散り急ぐ」や「心変わり」を連想させることが理由だったとか。そのため、桜の季節には結納や婚礼自体を避ける風習があったようです。

さて、緑茶に話を戻しましょう。お祝いの席に避けるところがある一方で、地域によっては、結納茶としてお祝いの席に欠かせない縁起物とするところもあります。お茶の木は、摘んでも何度でも芽が出るので「芽出たい」と縁起の良いもの。また、痩せた土地でも成長できることから、困難な中でもたくましく生きていくといった願いを込めて出されることもあります。

「朝茶はその日の難逃れ」など古くから栄養メリットに着目

そもそも、お茶が日本に伝わったのは平安時代とみられ、当時は薬として用いられていたようです。室町時代になると「茶の湯」としてお茶が文化として発展。武士や商人たちに広まり、庶民にも親しまれるようになりました。

お茶にまつわる慣用句には、朝に飲む習慣をすすめるものが多くあることがわかります。

○朝茶はその日の難逃れ
朝にお茶を飲むと、その日一日災いから逃れて元気に過ごせるという意味。

○朝茶は福が増す
朝のお茶は難を逃れるだけでなく、幸せなことが増えるという意味。

○朝茶は七里帰っても飲め
朝茶を飲むのを忘れて出かけたら、たとえ七里(約28キロ)の距離まで来ていても、戻ってお茶を飲むべきという意味。朝のお茶が体に良いことのたとえ。

○朝茶に別れるな
お茶は体に良いので毎朝飲もうという意味。飲み忘れると縁起が悪いとも。

今でこそ、さまざまな分析や研究が進み、カテキンやテアニンなど緑茶に含まれる健康成分が注目されていますが、昔の人は経験上、体に良いと知っていたのですね。

古くから日本人に親しまれてきたお茶にまつわる言い伝えは、ほかもたくさんあります。知れば知るほど、普段なにげなく飲んでいるお茶に新たな発見があるかもしれません。今年も新茶の季節を楽しみましょう。

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。

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