駆け抜けて軽トラ・餅田コシヒカリ「カトパンものまねは顔だけ」『細かすぎて』優勝に導いた「新ネタ」

駆け抜けて軽トラ(左から小野島徹、餅田コシヒカリ) 撮影/三浦龍司

フリーアナウンサー加藤綾子さんそっくりの顔に、タンクトップの裾からハミ出た鏡餅のようなお腹の肉を揺らすーーいちど見たら忘れられないギャップを持つ芸人、餅田コシヒカリさん。相方は、ネタ作成者にもかかわらず、究極の“じゃないほう”な存在感を発揮する小野島徹さん。男女コンビ、駆け抜けて軽トラのふたりに聞く、THE CHANGEとは。【第1回/全5回】

「駆け抜けて軽トラ」という単語を聞いて、すぐにそれがなにを意味するのかわかる人は、お笑い好きだろう。では、「餅田コシヒカリ」といえば? 多くの人がすぐに「カトパン」を連想するのではないだろうか。

元フジテレビ、現フリーアナウンサー加藤綾子さんに顔がそっくりのかわいらしいふくよかな女性ーー餅田コシヒカリさんがいま、目の前に座っている。その隣に座るメガネの細身男性は、餅田さんの相方である、お笑いコンビ「駆け抜けて軽トラ」の小野島徹さん。小野島さんこそ、「自称カトパン似芸人・餅田コシヒカリ」を生み出した張本人であり、餅田さんの人生をCHANGEさせたのだ。

小野島徹さん(以下、小野島)「前からちょこちょこ“似ている”と言われていたんですが、それを“どうにかしてくれ”と会社から言われて。それでコンビを組まされたんです」

それまで、ほかの相方とコンビを組んでいたという餅田さん。ピン芸人だった小野島さんは、お互いの所属事務所である松竹芸能から司令を受けたのだった。

餅田コシヒカリさん(以下、餅田)「それまでは、真正面から“カトパンです!”みたいな感じでやっていたんですよ」

小野島「それで、“まずは角度を決めよう”というところから始まりました」

餅田さんだけがオーディションに合格

「いちばんいい顔の角度探し」からはじまったカトパンものまね。小野島さんはプロデューサーのような立ち位置だったという。そして試行錯誤の結果、角度が決まった。できあがったネタを手に、2017年、『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権 ファイナル』(フジテレビ系)のオーディションに挑んだ。

小野島「で、僕だけオーディションに落ちるんですよ。“じゃあちょっと、小野島くんはごめんね”と切り離されて、餅田だけ受かる、みたいな」

ーーあ、コンビでオーディションに行っていたんですか。

小野島「そうだったんです。最初はそうだったんですよ」

ーーその数年後も餅田さんは『駆け抜けて軽トラ』として『細かすぎて~』にご出演していたので「餅田さん、新しいコンビを組んだんだ」と思って観ていましたが、カトパン時代からコンビで出演しようとしていたのですね、まったく知らず、すみません!

小野島「水面下で切り離されていたんですよ」

オーディションで披露したネタは、寝ている小野島さんの夢に、カトパンが出てくるというもの。

小野島「餅田さんがさつまいもみたいな感じで出てきて、引っこ抜いたらカトパンだった、というやつで。まあそれは切り離されてしょうがないかな、という感じですよ」

切り離されたことより「オーディションに受かったこと」が嬉しかった

ーー切り離されたとき、どう思いましたか?

小野島「しょうがないかなと思いつつ、オーディションに受かったことのうれしさのほうが強かったかもしれません。”やっぱりこれであっていたんだ!”と」

「自分が楽しければいい」というネタをやり続けてきたという小野島さんだが、コンビを組んだことで初めて、まんべんなく人に伝わるネタを意識し始めたという。

小野島「そうしたら僕だけ切り離されちゃったんですけど。でも、餅田さんが首をクッと傾けるだけでいいみたいな、そういうところから一歩ずつやっていくんだなと。テレビの世界から人に伝えるということは、こういうことなんだろうなと。だんだんわかってきたんです。みんなが求めていることに応えることの大切さは、このコンビを組まなかったらたぶん知ることができませんでしたね」

’17年12月に放送された『細かすぎて~』のカトパンは大反響を呼び、餅田さん自身もブログで、「自分が小さい頃からずっと憧れていた番組に、2年目で出れたことが何よりも幸せです。いろんな方に感謝です。まだまだ頑張ります!ここから頑張ります!」と熱烈な思いの丈を綴った。その後、さまざまな番組にカトパンで出演。顔はカトパンそのもの、体は似ても似つかぬパンパンというギャップで人気を博した。

ーー加藤綾子さんご本人にもお会いしましたよね。

餅田「会うまではすごくビビっていたんですが、収録の合間に“一緒に写真撮りましょう”と加藤さんのほうから言ってくださって、すごく大人な対応をしてくださっていい人でした。優しかったですね」

小野島「ネタも笑ってくださって、“ああー、モテる人だなあ”と思いました。華やかに反応してくださるとこっちも盛り上がるしうれしくなるし、番組も盛り上がるし、それをぜんぶわかってやっているようで、さすが一流だな! と思いましたね」

餅田「でも、実際に会ったらぜんぜん似てなかったです」

カトパン激似ネタは「顔だけ」。別のネタで勝負に

ご本人のお墨付きももらったが、壁にぶち当たる時期がくる。

餅田「なかなか芸の幅を自分で広げられなくて。私、顔だけなんですよ。声は低くて似ていないし、MCの方からなにか振られたときにワードも出せないし。体重の増減で似る・似ないが変化するし、ごりごりにカトパンのメイクをしているわけではなく、もう素材だけで、顔の角度だけだったから。そうなると限界がくるんですよ。それで、“この辺までだよね”というのが、自分の中でわかってしまって。それまで小野島さんはいっぱい考えてくれました。やるだけのことをやってくれて」

小野島「モノマネ芸人さんて、自発的にモノマネをやって自分で落とすところまでが一連の流れだと思いますが、餅田さんはほかからのツッコミありきだから」

餅田「オーディションにも受からなくなってきていましたしね」

小野島「もうひとつ勝つためには、これ以外のネタをもっとやっていかないといけないな、という時期がきたんです。それで、餅田さんがちょっと昭和ポルノの世界のお姉さんに見えるので、それもいいかもね、となって『細かすぎて~』のオーディションに持っていったんです」

’19年、『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系)のオーディションで、餅田さん演じる奥さまと、小野島さん演じる使用人による禁断愛を描く「昭和ポルノの世界」を披露すると、スタッフが沸いた。

小野島「"これで作ってほしい”とおっしゃっていただいて、これならぜんぜんいくらでも作れる! イケる! と思いました」

その日から、餅田さんへの演技指導が始まった。所作や目線、ひとつひとつを餅田さんに落とし込んだ。

小野島「僕、寺山修司さんの作品が好きで。そういった世界観からインスピレーションを得たのと、小学生になるかならにかのタイミングで、なんだかわからないんですけど、うちの親父が松竹版の『八つ墓村』を定期的にすごい見せてくる時期があって。金田一役は渥美清さんで、「祟りじゃー!」とか言いながら、吐瀉物を吐き散らしてみんな死んでいくようなやつを見せられて」

ーーすごい英才教育ですね。

小野島「だから僕、松竹版じゃないと満足できないんですよ」

寺山修司や『八つ墓村』を下地とした「昭和ポルノの世界」シリーズをゴールデンタイムで披露すると、その年の12月14日放送『細かすぎて~』を制することとなったのだ。コンビで、である。カトパンから昭和ポルノへ。見事な振り幅を見せた駆け抜けて軽トラはいまも、新境地を開拓中だ。

駆け抜けて軽トラ(左から小野島徹、餅田コシヒカリ) 撮影/三浦龍司

駆け抜けて軽トラ(かけぬけてけいとら)
小野島徹(おのじま・とおる)。1987年9月16日生まれ、埼玉県出身。
餅田コシヒカリ(もちだ・こしひかり)。1994年4月18日、宮城県出身。
2017年にコンビを結成。餅田さんによる、フリーアナウンサー加藤綾子さんにそっくりな顔と、似ても似つかないボディのギャップで一躍人気に。2019年12月14日放送『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)内の『博士と助手~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権~』で優勝。以降、同番組の常連。

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