『ゴジラxコング』はアメリカンプロレスの怪獣版だ! 言葉を喋らないのに理解できる驚き

オレの名前はキングコング。デカい猿の怪獣だ。地底世界の戸亜留地区で暮らしてるが、オレには同族の仲間がいねー。人間は嫌いじゃねーけど、種族が違う。ゴジラ? あんな凶暴だけのヤロー、仲間じゃねーよ(ここで「あ?」とキレるゴジラの小さいコマ)。

で、仲間を探す旅をしてたんだけどよ……仲間どころか、スカーキングっていうクソ野郎と出会っちまった。弱いもんイジメばっかして、地上も支配したいだと? なめてんじゃねーぞ!

(格闘シーン/コングがスカーを相手に格上感を出す)

キングコング「キングって名乗るわりにゃ、大したことねーな。オレが知ってる地上のキングは、テメーの100倍は強いぜ」

スカーキング「くっ……くくく、なんでテメーとタイマン張らなきゃなんねーんだよ! おい、シーモを呼んでこい!」

キングコング「なっ、こいつは……!?」

こうした髙橋ヒロシ的なやり取りの末に、コングはスカーキングとシーモの二大怪獣に敗北。しかしコングはムカつくスカーをブン殴り、地上を守るため、あの怪獣と手を組むことになる。それこそが地上最強の怪獣……ゴジラである!

すでに多くの方が言及している通り、本作『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(2024年)は完全にヤンキー漫画である。喧嘩上等のヤンキー怪獣が、仁義も筋もクソもない外道怪獣をブッ飛ばす。痛快熱血バトル巨編。ただそれだけの話と言われたら、「そうですよ」としか言いようがない。さらに恐るべきは、この映画の主要登場人物が全員何十メートルもある怪獣で、「ガァァァ」「ウホウホ」など鳴き声を上げるのみ、つまり人の言葉を喋らない点だ。当然、何を言ってるか分からないが……なんとビックリ、何を言ってるか分かるのである。

本作の怪獣たちは人間以上に人間的だ。物語はコングが凹んでいるところから始まるのだが……。ここでコングが凹んでいるのは、同族がいないことの悲しみと、虫歯が原因である。「虫歯」! 私はかつて、人間どこが痛むと一番テンションが下がるかを考えたことがあるが、一番は「歯」だと思う。腰や肩、頭や腹が痛むのもキツいが、歯が痛いときのテンションの下がり具合はハンパではない。物を食べることができなくなるし、通院の厄介さと恐怖感は、数ある「〇痛」の中でも群を抜いている。そういう意味で冒頭の虫歯に苦しむコングを見た途端に、「虫歯は辛いもんなぁ」と感情移入がMAXになった。おまけにコングには友達がいない。虫歯が痛んで、ケンカばっかで、一人で寂しく家で風呂に入って……この寂しさたるや、怪獣が身に纏う限界を超えている。しかし、バトルが始まると鬼のように強く、なおかつ卑怯な相手にも筋を通して勝つのだから、これはもう堪らない。男の中の男、まさに主人公であり、堂々たる本作のMVPである。

そして悪役のスカーキングだ。予告の時点だと単なる手長ザルにしか見えず、こいつがメインの悪役で大丈夫かと心配になったが……結論から言えば、まったくの杞憂だった。むしろ本作の陰のMVPと言っていいだろう。というのも、怪獣で「悪いやつ」「強いやつ」「怖いやつ」を表現するのは簡単だろうが、「イヤなやつ」を表現するのは難しい。だって怪獣は全長何十メートルもある生物なんだから。性格の良い/悪い以前に、「悪い」「強い」「怖い」が前に来る。しかし、このスカーキングは違う。絵に描いたような恐怖政治を巨大猿族に敷き(弱き人々に岩をA地点からB地点に移動させる、必要性の分からない重労働をさせている)、さらにキングコングを前にしても、コングの虫歯の治療跡を嘲笑する細かい嫌なムーブを披露。もちろん台詞は「ウホウホ」としか言っていないが、私にはハッキリと「おい見ろよ! こいつの牙、差し歯だぜ! ヒャハハハ!」という笑い声が確かに聞こえた。他にも「こざかしい」としか言いようがないチンピラ仕草の連続で、怪獣ってこんなイヤなやつになれるんだと、思わず膝を打った。猿という人間に近い姿をしたビジュアルだからこそできるキャラクター表現だろう。ある意味、発明だと思った。

もちろん、我らが怪獣王ゴジラさんも元気いっぱいである。コングが話の分かるヤンキーなら、ゴジラは話が分からないヤンキーだ。食いたい時に食い(原発を襲って放射能を)、寝たい時に寝る(ローマのコロッセオで)。乱暴かつ身勝手な『ドンケツ』のロケマサや『じゃりン子チエ』のテツに近い。この辺、兄貴肌のコングと上手くキャラの差別化ができている。しかし、いざバトルが始まったら、普段の熱線に加えて、なんとプロレス技までかますから、頼り甲斐があること甚だしい。前作『ゴジラvsコング』(2021年)に続いて、今まで見たことのないゴジラが見れるのは、いちファンとして素直に嬉しかった。そしてモスラとのラブコメ寸劇も優しい気持ちになる。

こういった個性豊かな怪獣たちのドラマが交差し、ブラジルの街をブチ壊しながら戦うクライマックスは、さながらアメリカンプロレスの怪獣版だ。もはや「楽しい」としか言いようがなく、今年公開される全アクション映画の中でもベストマッチの一角となるだろう。

登場怪獣たちが「ウホウホ」と「ゴガァァ!」しか言ってないのに、なぜか彼ら彼女らの会話の内容も感情も分かるという、唯一無二の体験だけでも、本作は観る価値がある。これもまた怪獣映画の理想形の一つだ。魅力的な怪獣たちが織り成すゴージャスなるバトルオペラ、ぜひスクリーンで堪能してほしい。
(文=加藤よしき)

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