損をしたら税金が安くなる? 特定口座とNISA口座の違い

2024年からの制度改正で話題の新NISA。投資の利益にかかる税金を一生涯ゼロにできるメリットはとても大きいですよね。

一方で、特定口座にもメリットがあり、「損をした場合に税金が安くなる」損益通算や繰越控除といった仕組みが利用できます。

今回は、損益通算や繰越控除の仕組みを確認したうえで、特定口座を利用したほうがいい場合・特定口座を利用する必要がある場合を一緒に考えてみましょう。


損益通算とは

損益通算とは、複数の口座の利益と損失を合算した金額で税金の計算を行うことです。

NISA口座のある金融機関には、NISA口座とは別に証券口座(証券会社)、投資信託口座(銀行)といった課税口座を開設しています。課税口座には「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」がありますが、「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでいる人が多いでしょう。

特定口座(源泉徴収あり)で利益が出ると、利益にかかる税金を金融機関が計算し、自動的に徴収してくれるため、確定申告をする手間が省けます。また、利益が出たあとに、同一年内に損失が生じたと場合は、口座内で損益通算が行われ、徴収されていた税金が戻ってきます。特定口座(源泉徴収あり)は、投資家の手間がなくなるありがたいしくみといえます。

しかし、複数の金融機関にある特定口座(源泉徴収あり)の口座で同じ年に売買をして、それぞれ利益と損失が出た場合、金融機関同士が連携して損益通算を自動的に行うことはないため、本来支払う必要のない税金の払い損になります。しかしここで、確定申告をすれば損益通算ができ、すでに払っている税金を取り戻すことができます。

例えば、課税口座Aで50万円の損失、課税口座Bで30万円の利益があった場合を考えてみましょう。課税口座Aには税金がかかりませんが、課税口座Bでは利益の30万円に対して20.315%の税金がかかるため、「30万円×20.315%=6万945円」の税金が引かれています。

確定申告をして損益通算をした場合、課税口座Aの損失50万円と課税口座Bの利益30万円が相殺できるため、この年の利益は0円、税金も0円です。そのため、すでに支払った6万945円の税金が取り戻せますので、手取りは30万円になります。

しかし、自分で確定申告をして損益通算をしないと、自動的には損益通算が行われません。当然、税金も取り戻せませんので、手取りは23万9055円のままです。損益通算をするとしないとで6万円の差。これは大きいですよね。

NISA口座の利益や損失は、こうした損益通算には利用できません。NISA口座の利益に税金がかからないのは、NISA口座では利益も損失も「なかったもの」と見なされるからです。利益や損失がないのですから、損益通算もできない、というわけです。

繰越控除とは

繰越控除は、損益通算で利益と相殺できなかった損失がある場合に翌年以降3年にわたって損失を繰り越し、期間内に生じた利益と相殺できるしくみです。

例えば、課税口座に損失が100万円ある場合を考えます。この損失は、最大3年間繰り越して、翌年以降に発生する課税口座の利益と相殺することができます。

上図の通りに利益が出た場合でも、繰越控除による損失との損益通算で税金をゼロにできるというわけです。繰越控除で3年間にわたって損失を繰り越したい場合は、毎年確定申告が必要です。

損益通算同様、繰越控除のしくみもNISAにはありません。NISA口座ではそもそも利益も損失もないのですから、繰り越せる損失もないというわけです。

NISAで向いている投資、特定口座で向いている投資

NISAで投資した元本500万円が1000万円になった場合、500万円の利益に対して税金はかかりません。この部分はNISA最大のメリットです。

しかし、リスクをとって投資をした結果、元本500万円が250万円になったときには、250万円の損失を損益通算することができない仕組みでもあります。

したがって、新NISAでは利益が出やすい投資・運用を心がけた方がよいでしょう。たとえば、つみたて投資枠では、低コストの投資信託を活用して、長期・積立・分散投資を実践する、成長投資枠では業績の安定した銘柄、息の長い需要が見込める事業を手がける銘柄に中長期で投資するといった具合です。

新NISAでは売却した枠が復活するとはいえ、復活するのは翌年なので、デイトレード的な使い方はできません。また、そもそも短期間で利益を狙うようなリスクの高い使い方は適さない制度といえます。とはいえ、短期間で利益を狙うことに自信がある方はそのような使い方もありです。

また、NISAでは配当金や分配金といったインカムゲインにかかる税金も一生涯ゼロにできるので、高配当株・増配株などに投資して中長期で不労所得を得続ける戦略ならば、新NISAを活用するメリットは非常に高いでしょう。

一方、特定口座のほうが向いている投資には、短中期で値上がりを狙った投資が挙げられます。短いスパンでの投資は、どうしてもリスクが高くなり、ときには損を抱えてしまう可能性もあります。特定口座で投資をしていれば、損益通算や繰越控除を利用できるので、狙い通り値上がりしなかった時に損切りしやすいでしょう。デイトレードなどのリスクの高い取引も、特定口座のほうが向いているでしょう。

新NISAはそもそも万能ではない

新NISAの投資対象は、
●つみたて投資枠…金融庁の基準を満たす投資信託・ETF
●成長投資枠…株・投資信託・ETF・REIT
となっています。

これら以外の商品を利用する場合は、当然課税口座一択になります。

お金は、「日々出入りするお金」「5年以内に使い道が決まっているお金」「10年以上使わない将来のためのお金」の3つに分け、それぞれ目的にあった商品や制度で貯めることが重要です。

このうちNISAは「10年以上使わない将来のためのお金」を貯めるのに適した制度。長期・積立・分散投資による元本割れの可能性が限りなく低くなるのは、「15年」以上が一つの目安です。子どもの大学進学資金や老後の生活資金などは、NISAで貯めるのが向いています。

一方、日々出入りするお金はすぐ使えることが大切ですので、いつでもお金を出し入れできる預貯金が便利です。また、5年以内に使い道が決まっているお金は、いざ使いたいというときに減っていては困るので、定期預金や変動10年国債といった「元本割れしないけれど金利が預貯金よりは高い」投資先が向いています。為替リスクこそあるものの、世界一安全な資産であり、かつ高い金利を得られる「米国債」へ直接投資する場合も、課税口座で行うことになります。

NISA口座、特定口座などの課税口座を上手く使い分けて資産形成に臨みましょう。お金は、「日々出入りするお金」「5年以内に使い道が決まっているお金」「10年以上使わない将来のためのお金」の3つに分け、それぞれ目的にあった商品や制度で貯めるのがベストな選択です。

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