「家は持ち家か賃貸か」「貯金か株か」「年金繰り上げか繰り下げか」……『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)著者で公認会計士の田中靖浩氏は、こうした“正解のないお金の悩み”に対して適切な判断を下せるよう、定年後にオススメしたいことが2つあるといいます。それはいったいなんなのか、詳しくみていきましょう。
正解のない「マネー問題」に対する判断が求められる時代
平均寿命・社会保障制度・企業雇用・産業構造などを歴史的かつ総合的に判断すると、21世紀を生きる私たち日本人は「かなり運がいい」と思います。
決して冗談や皮肉ではありません。まず国家としてかなり充実した医療保険制度・年金制度を有しています。それに加えて会社に勤めるサラリーマンや公務員は上乗せの退職金・年金を手にすることができます。
また300年前や200年前と比べれば、かなり高い年金を手にすることができます。雇用は少々冷遇が目立ちますが、我慢できないなら定年後フリーランスの道を歩むこともできます。サービス業であれば数百年前の鉱山掘りや金細工師より簡単に仕事が見つけられそうです。
こうしてみると、老後の選択肢がかなり広い時代であることは間違いありません。ただし、そこには自己責任が伴います。貯金や株式投資をするか否か、保険や年金にどれくらい入るか、定年後にフリーランスとして働くか否か。それらをすべて自分で決めねばなりません。
マネー関係についてはたくさんの選択肢があり、しかもそれらについて正解がないから悩ましいのです。
自分自身のライフスタイルを先々まで考えながら「家は持ち家か賃貸か」「貯金か株か」「年金繰り上げか繰り下げか」といったその時々のマネー問題について自ら答えを出さねばなりません。このように難解な選択はこれまでの歴史に見られなかったものです。この選択のためには最低限の「金融リテラシー」があったほうがいいでしょう。それは貯金や年金、労働すべてを含む人生とお金の判断を助けてくれます。
金融リテラシーを学ぶための「勉強・投資」として私がオススメしたいことが2つあります。
金融リテラシー醸成のため…定年後にはじめたい2つのこと
①株式投資
まずひとつが株式投資を行うこと。ただ、誤解しないでください。それは蓄財のためではありません。金融資本市場を「勉強」するためです。
株価はどう動くのか、業績だけでなく他の要因でも動くのか? 株価と金利や為替との関係は? 身銭を切って株を買えばたとえそれが少額でも勉強する気になります。この「勉強」は若い人から年配者まで幅広くオススメします。
②確定申告
そしてもうひとつオススメしたいのが確定申告を自分で行うことです。
定年後フリーランスになって収入が入った方は、めんどくさがってプロに頼まず、一度は自分で確定申告を行ってください。そうすれば自分の収入と支出がどう計算され、税金支払いにつながるのか、それが勉強できます。
株式投資は経済を学ぶマクロ的な勉強だとするなら、確定申告は自分の収支を通じて会計と財政を学ぶミクロ的な勉強です。
この2つを経験すれば経済や会計の勉強ができ「金融リテラシー」の基礎が身に付きます。勉強になってお金の管理にも役立つので一石二鳥。反対に株式投資に手を出さず、税金を会社に計算してもらっているサラリーマンは知らずしらずのうちに「金融リテラシー」が低くなってしまうのです。
田中 靖浩
作家/公認会計士