サザエさんにも登場の「御用聞き」 兵庫・芦屋では高ホスピタリティのデリバリーサービスとして継承

鮮魚店として営業していたころの「魚利」店頭で注文を聞いて配達することもあった

国内屈指の高級住宅街として知られる兵庫県芦屋市。歴史・文化豊かで、上質なものとの関わりが深い一方、意外な横顔も存在するといいます。そんな芦屋の最新トピックを、芦屋でフリーペーパーや地域情報サイトを手がける『芦屋人(あしやびと)』のスタッフが紹介します。

☆☆☆☆☆

「御用聞き」をご存じですか。『サザエさん』に出てくる三河屋さんと言えばおわかりになる方が多いでしょうか。自宅まで注文を取りに行き、追って商品を届ける販売方法で、酒屋や米屋、魚屋などに多かったようです。地域によっては1970年代まで続いていました。

そんな「御用聞き」が芦屋ではまだ現役なんです。

たとえば、「いかりスーパーマーケット」芦屋店は電話で注文を聞き、顧客の自宅に商品を配達しています。また、JR芦屋駅近くにある某高級ブティックのオーナーは、お得意様の全ワードローブを把握。季節ごとに、全身コーディネートした洋服を顧客の自宅に持参し、「全部いただくわ」と返ってきたら成功と話します。

阪急芦屋川駅前にある「山手サンモール商店街」は、御用聞きの歴史が長い地域です。作家の谷崎潤一郎に菓子を届けていた創業99年の和菓子屋店や、創業109年のうどん・和食店などが軒を連ねます。

その中で、御用聞きを継続のうえ新たな道を歩んでいるのが、昨年まで鮮魚店として営業していた「魚利(うおとし)」です。

店主の大橋進さんは、先代(自身の父)が始めた魚利に23歳で入りました。当時は鮮魚をメインに販売していたそうです。

その後、大橋さんのホテルでの調理経験を生かして、店で焼き魚や煮魚などを扱い始めました。御用聞きは、かつては山手の豪邸の勝手口でお手伝いさんから注文を受けるスタイルだったのが、大橋さんがお店に入ってからほどなくして電話注文になりました。

今は魚の惣菜やお弁当メインに展開していますが、御用聞きの注文は山手のみならず浜の方や市外にも広がり、以前より増えているそう。

大橋さんは、御用聞きを続ける理由をこう語ります。「配達先で体調の悪いお客様を助けたことがあります。お得意の中には一人暮らしの高齢の方も増えて、生存確認の意味もあるんです。必要とされている限りは続けますよ」。

いずれの御用聞き店も、百貨店の外商のようであり強いプロ意識も感じます。今の時代希薄になった“売り手と買い手の信頼関係”があってこそ成り立つ、高いホスピタリティ(おもてなし、思いやり)を伴う芦屋の御用聞きでした。

(取材・文= 株式会社芦屋人 杉本せつこ)

© 株式会社ラジオ関西