『ブルーモーメント』“SDMの物語”としての本当のはじまり 原作とは異なる劇的な顛末に

遭難者の救助に向かった救助隊が、要救助者と共に遭難してしまう“二重遭難”。映画やドラマなど山岳救助を描く物語においては比較的よく見受けられる、あるいはそれを避けるための葛藤が描かれるなど、常套的なシチュエーションと言えるかもしれない。それは5月1日に放送された『ブルーモーメント』(フジテレビ系)の第2話でも同様であり、SDMの消防班チーフの佐竹(音尾琢真)が娘の夫でもある要救助者を助けようとして一緒に崖から滑落。佐竹の直属の部下である優吾(水上恒司)はそこで、“撤退”という苦渋の決断に迫られることとなるのだ。

「レスキューの使命は、自分自身が生きて帰ること」という佐竹の言葉を思い出し、やむなく諦めるという選択を取らざるを得なくなった優吾。指揮車両では晴原(山下智久)が、吹雪の弱まる時間ーーすなわち救助できる一瞬の隙ーーを見つけだそうと気象予測を進めていた。そんななか新たな救助要請が入り、そちらへと向かうことになる優吾。そこでもまた彼は佐竹からの教えを反芻し、なんとか要救助者を見つけ出すことに成功。しかし佐竹たちを救えるタイムリミットは刻一刻と迫っていた。

この“二重遭難”という要素は、原作コミックにおいて第7話と第8話の「雪上の約束」と題して描かれたエピソードが下敷きとなっているのだろう。晴原自らヘリコプターに乗り込み、現場で吹雪が止む一瞬の隙を見極める。しかし原作では要救助者を救いだしたものの、吹雪の再悪化によって救助隊員を助けだすことは叶わずに最悪の結末を迎えることになった。吹雪という災害の恐ろしさと、救助がいかに命懸けで行われているか、そして救助に当たる者たちの強い信念を描くという点において、非常に大きなエピソードでもあった。

対して今回のドラマにおいては、吹雪が強まりヘリコプターで撤退することができる1分程度の時間をフルに活かし、2人とも見事に救助するという劇的な顛末を得ることになる。まだドラマが始まったばかりであることを考えれば、このような脚色がされるのも然るべき流れかもしれない。創設したばかりのSDMの存続に関わる出来事でもあり、すでに登場人物たちの多くが自然災害によって身内を失った経験を持つことが示されているなかで、いきなり仲間を失うことになればドラマが続かない。それでもしっかりと、先述した原作の描くべきテーマはカバーできているといえよう。

「誰だっていつ災害に巻き込まれてもおかしくない」という晴原の言葉をもって長い一日を終え、夜が明ける直前のブルーモーメントを晴原と共に見る雲田(出口夏希)。そこで彼女のつぶやく「奇跡」という言葉で、晴原はそこに灯(本田翼)の姿を重ねることになる。第1話で雲田がSDMのジャンパーを羽織ることがこの物語の“はじまり”であると読み解いたが、それはあくまでも“雲田の物語のはじまり”であったようだ。

“晴原の物語”においてはこのブルーモーメントを、灯の遺志を継いで創設されたSDMで共に多くの人の命を救っていく仲間である雲田と見たこの瞬間こそがはじまりとなる。また同時に、佐竹が退いた消防班の新たなチーフに優吾を指名し「最高のチームを作る」と宣言した瞬間こそが、“SDMの物語”としての本当のはじまりでもある。

(文=久保田和馬)

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