『虎に翼』高橋努演じる“ゴシップ記者”が超重要人物に? 『ブギウギ』鮫島との違いとは

「昨日の敵は今日の友」とはこのことを言うのかもしれない。NHK連続テレビ小説『虎に翼』第23話で、寅子(伊藤沙莉)は帝都新聞の記者・竹中(高橋努)に父・直言(岡部たかし)の見方が変わるような記事を書いてほしいと依頼した。まさかゴシップ記事のネタを探しているような竹中がハッとするようなことを教えてくれる重要人物になるとは思ってもみなかった。

竹中と寅子が直接話をするのは、寅子が明律大学女子部に入学した時以来だろうか。一方、竹中は寅子たちが企画した法廷劇を見に行ったり、共亜事件が起こった後に猪爪家の前にいたりと何かと寅子と縁がある。明律大学女子部の入学式で竹中は、穂高(小林薫)とそばにいた寅子に話を聞くが、寅子の話には明らかに興味なさげで態度が悪い。出来上がった記事を見てみると寅子たちのことは皮肉めいて書かれていて、どうやら竹中は女子が学をつけることに関して蔑んでいるとまではいかなくとも、冷ややかであるらしかった。これからに希望を持っている穂高と比べると、竹中は“嫌なやつ”という印象だ。

そんな竹中を演じているのは高橋努。俳優としてのキャリアは長く、NHK大河ドラマには3度の出演経験があるが、意外にも朝ドラは『虎に翼』が初出演となる。強面のビジュアルを活かし、映画『クローズZERO』、『クローズZERO II』のシリーズでは、“ゴリメン"こと牧瀬隆史を演じている。また、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(2016年/カンテレ・フジテレビ系)で演じた片岡のように刑事役を演じることもあれば、『シグナル 長期未解決事件捜査班 』(2018年/カンテレ・フジテレビ系)で登場した岡本のように元暴力団員のような悪人を演じることも多い。竹中の第一印象が、“嫌なやつ”だったことは演じる高橋にとっては、思惑通りなのかもしれない。

“嫌なやつ”で職業がゴシップ記者、となると朝ドラ『ブギウギ』(2023年度後期)の鮫島(みのすけ)を思い出した人も多かったのではないだろうか。鮫島は、新聞記者の竹中とは違って、三流ゴシップ雑誌の芸能記者。スズ子(趣里)にわざと嫌な質問をぶつけて、自分の望んだ通りの答えを引き出したり、喫茶店にいたスズ子とアユミ(吉柳咲良)を隠し撮りして、「福来スズ子対水城アユミ」の見出しで記事を掲載したりと雑誌が売れるためなら真実などお構いなしで手段を選ばなかった。

こうしてみると、竹中は記事で取り上げられる人の印象を操作するような意図的な書き方はするが、あることないことをでたらめに書いたりはしなかった。鮫島と竹中、ふたりとも憎たらしい記者であることは間違いないが、まだ、記者としての矜持は竹中の方があったのかもしれない。奇しくもスズ子と寅子は同世代。ということは鮫島と竹中も同世代ということである。この時代にはこのような記者がたくさんいたのだろうか。

それにしても、竹中が寅子に対して「ガキが首突っ込むな」と忠告したり、寅子を襲おうとした暴漢を華麗な背負い投げで撃退したりするのには驚いた。しかも、危ない目にあった寅子には「だから言わんこっちゃない」とでも言いたそうな態度を取った。竹中が寅子の訴えを記事にしなかったのは、おそらく今回の騒動に黒幕がいることをなんとなく察知していたからだ。寅子たちの動きがわかるとそれを阻止しようとする者たちも動き出してしまう。各界に精通している竹中は、寅子が見えていないところまでもが見えていたのだろう。意図せず寅子の節目、節目を目撃してきた竹中。きっとその心の内には、知らず知らずのうちに寅子に対して情が湧いており、それが今回、行動として目に見えた形だ。

一貫して正義のために行動しようとする寅子は立派だ。だが、地位がなく、立場の弱い人間にできることは限られており、寅子ができるのはここまでだ。幸い寅子には、穂高と強力な弁護士たちという心強い味方がいる。あとは彼らに、そして公正な判断をする裁判官に希望を託そう。
(文=久保田ひかる)

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