70歳を超えた吉田拓郎は心情吐露も…「老いるといいことがない」は本当か?(久坂部羊)

吉田拓郎(C)共同通信社

【楽な老い方】#1

70歳を超えた吉田拓郎がある番組で「老いるといいことがない」というニュアンスの言葉を吐露した。体力が衰えてくるため、ライブもしんどいと率直に語っていた姿が印象的だった。

吉田拓郎に限らず、老いることにマイナスを感じる人が多いのではないか。だが、人間は老いを避けて生きることができない。それなら、できるだけ楽に老後を迎えるのが得策だ。では、どうしたらいいのだろう。

「人はどう老いるのか」(講談社現代新書)の著者でドクターの久坂部羊氏は、40代で高齢者医療に携わりさまざまな老いのパターンを見てきた。

「当時勤務したデイケアサービスを併設した高齢者医療クリニックには、毎日40人ぐらいの老人がやってきて、意外にも老いると当然なことに嘆き、悩んでいる人が多かったのです」

腰が痛い、膝が痛い、さっさと歩けない、細かい字が読めないなど老人なら誰でも生じることなのに「なんでこうなったんだ」と受け入れられない。つまり老いという状況に慣れていないのだ。

「心の準備が足りなかったのでしょう。老いというのはさまざまなものを失っていくことです。体力、見た目、能力、社会的な地位、人によっては家族を失う。老いをイメージすることで、失うことは普通と受け入れられる。それができないと苦しむことになります」

ある男性患者は、腰痛のせいでほとんど動けなかったのにもかかわらず、「年のせいだからどうしようもおませんな」と言って治療法に耳を傾けず、それどころかにやりと笑って「これが治せたら先生はよっぽどの名医ですわ」とちゃかした。

84歳のある女性は脳梗塞で左半身不随となり、懸命な歩行訓練のリハビリでかなり状況が改善したにもかかわらず、そのことを不服としていた。右半身は自由で言語障害もないため、残っている機能を使うともっと楽しく過ごせるのに、真面目な性格のためか、マヒした左半身を回復させることで心がいっぱいになって人生を楽しむことから遠くなったのだ。 =つづく

(久坂部羊/小説家・医師 構成/夏目かをる)

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