【感染症ニュース】乳幼児の肺炎の約50%・細気管支炎の約50〜90%はRSウイルス感染症が原因 流行は全国に拡大中!

飛沫感染、接触感染対策を!

国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2024年第16週(4/15〜21)によると、全国のRSウイルス感染症の定点あたり報告数は1.76。前週(第15週)から約1.23倍増加しました。都道府県別の定点あたり報告数は、奈良6.09、大阪4.41、福井4.36、山口3.40、三重3.29、和歌山2.33、石川2.24、群馬2.24、京都2.10、東京2.05、兵庫2.05、埼玉2.01で多くなっています。

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RSウイルス感染症とは?

RSウイルス感染症は、RS(respiratory syncytial)ウイルスを病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症です。主な感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスが付着した手指や物品等を介した接触感染です。生後1歳までに50%以上の人が、2歳までにほぼ100%の人が1度は感染し、何度も感染するとされています。初感染の場合は発熱、鼻汁などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされています。乳幼児のおける肺炎の約50%、細気管支炎の約50〜90%の原因がRSウイルス感染症と考えられています。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「最近、RSウイルス感染症で入院されるお子さんは増えています。先日当院にも、RSウイルスに感染した1歳11か月のお子さんが入院しました。症状としては咳があって眠れないということで、点滴や酸素吸入も行いました。お子さんがRSウイルス感染症にり患した場合、呼吸状態が、短時間で急激に悪化することもあります。呼吸がうまくできなかったり、咳が続いたりということがあると、入院して経過をみるということになります。一方で、しっかり症状の経過観察を行い、適切に対処できれば、短期間で回復する傾向があります」と語っています。

早産の新生児、基礎疾患を持つ高齢者などは重症化しやすい

RSウイルス感染症は早産の新生児や、早産で出生後6か月以内の乳児、月齢24か月以下で免疫不全を伴う、あるいはダウン症候群の子どもは重症化しやすいとされています。また、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者では、肺炎の合併が認められることが明らかになっています。RSウイルスには特効薬がなく、重症化した場合の治療は、酸素投与、輸液や呼吸管理などの対症療法が主体となります。流行の拡大によって、重症化する人が増えることが懸念されています。安井医師は「こうしたお子さんではなくとも、乳幼児では急激に症状が悪化することもあり、突然死に至るおそれもあります。RSウイルス感染症は、何度も感染している大人や子どもにとっては風邪程度の症状しか出ませんが、乳幼児にとっては新型コロナよりもリスクの高い感染症です。乳幼児の周りの人たちは、咳や鼻水、発熱など風邪のような症状があるときは近づかないなど、十分な感染対策をする必要があります」としています。

限定した対象に対し、抗体製剤やワクチンが承認を受ける

RSウイルス感染症の重症化予防のため、早産児、気管支肺異形成症や先天性心疾患等を持つハイリスク児を対象に、ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体であるパリビズマブの公的医療保険の適用が認められています。また、乳幼児を対象としたヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体製剤で、より長期間の効果が期待できるニルセミマブが2024年3月に承認を受けました。一方、60歳以上のハイリスク者を対象とした組み換えRSウイルスワクチンが2023年9月に承認を受け、さらに、移行抗体による乳幼児の感染予防を目的とした、妊婦を対象とする組み換えRSウイルスワクチンが2024年1月に承認を受けました。同製剤は2024年3月に60歳以上を対象とする適応追加の承認を受けました。とはいえ、これらの薬やワクチンは対象が限定されています。流行が拡大する中、咳エチケットや周りの人のマスク着用などの飛沫感染対策、手洗いや手指衛生などの接触感染対策を引き続きお願いします。

引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2024年第16週(4/15〜21)、IDWR2024年第15号〈注目すべき感染症〉RSウイルス感染症
厚生労働省HP:RSウイルス感染症Q&A(令和6年1月15日改訂)

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏

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