まるでプライベート渓流! 貸し切りの釣り場で思うがままに大ヤマメを狙う

貸し切りの釣り場だからこそ、釣りたい魚に集中することができます(撮影:杉村航)

山あいの木々が芽吹き出したと思えば、あっという間に新緑美しい季節になりましたね。毎年この時期になると、緑の種類はこんなにもあったのかと感銘を受けます。

環境も含めて日本の渓流(釣り)が抱える問題は数多いですが、各地の漁協の新しい取り組みとして“ゾーニング”があります。毛ばりを用いた釣りのみ、しかも完全予約制で人数制限(貸し切り)されている、プライベート感抜群の釣り場へ出かけてきました。

■神流川と上野村漁協の釣り場

上野村漁協の釣り場の受付は「川の駅 上野」内にあります

上野村漁協の釣り場の受付は「川の駅 上野」内にあります 神流川は利根川水系に属する一級河川で、群馬県南西端の上野村にある三国山に端を発する、全長約87kmの川です。民家の裏を流れるような里川の雰囲気と、深い谷間に刻まれた山岳渓流の顔を併せ持つ清流です。上流部を管轄するのは上野村漁業協同組合(漁協)。濃い魚影はもちろん、釣り人に寄り添った運営が好評で、SNS等を通じての情報発信も頻繁に行われており、人気のフィールドとなっています。

上野村漁協が管轄する神流川のフィールドは、場所や時期によって“ゾーニング”されています。同じ渓流釣り愛好者でも、釣った魚を持って帰って食べたい人がいる一方、魚とのやり取りを楽しみたい人もいます。ここでは、釣法も含めて場所によって制限を設けることで、一般的な渓流釣りを楽しめる場所もあれば、釣った魚を元気なままリリースする義務があるC&R(キャッチ&リリース)区間もあります。さらに種の存続のために禁漁区となっている場所も存在します。

国土の多くを山地とする日本ですが、入退渓も含めてアクセスしやすい場所は限られています。釣り人のニーズに応じた河川の利用方法は、今後の持続可能な釣り場の維持を考えるうえで、一つの解決策となるかもしれません。全国的にもゾーニングを導入する漁協が徐々に増えつつあります。

■キャッチ&リリースと2か所ある「毛ばり釣り専用区(本谷・中ノ沢)」

さらに上野村漁協が設定してるのが、完全予約制、一日の釣り人の利用数を制限した釣り場「毛ばり釣り専用区」です。その名の通り、毛ばりを使用した釣法、フライフィッシングとテンカラに限定されており、C&Rとなっています。

【本谷毛ばり釣り専用区】7エリア(基本1日/7名) 【中ノ沢毛ばり釣り専用区】4エリア(A・BC・DE・FG 基本1日/4名) 【川の駅特設釣り場】区分けなし(基本1日/10名) 毛ばり・ルアー可

魚たちは釣り人に持って帰られることがなく、さらに随時放流されるために魚影も維持されています。そして型のいい大型のヤマメも多数いるのが大きな魅力となっています。ただし、川自体は自然環境そのままですので、様々な要因で淘汰される魚もいれば、残った魚たちは釣られることでどんどん学習して容易に毛ばりに騙されないようになっていきます。魚影は濃いけど難しい。そこが醍醐味でもあります。

渓流釣りの嗜好は人それぞれですが、同じ釣り人でも季節やタイミング、気分によって違うものでしょう。かく言う筆者も本来は自然渓流で生まれ育った天然の魚を狙いたいところ。しかし、その環境は年々明らかに減っているのが実情です。手軽に訪れることができる、入退渓のアプローチがいい場所で、魚影の濃さを期待できるフィールドは貴重ですし、まったくの自然環境では難しい部分があるのが現状です。

人数制限付きの釣り場は、将来の環境作りへの新しい取り組みとして、その動向が気になるところです。

■“まるでプライベート渓流”! 実釣レポート

季節によって渓を彩る花々も変わっていきます

1か月ほど前に訪れた時には季節外れの雪だったのですが、山はすでに芽吹きの季節を迎え、萌黄色の淡いトーンに包まれた景色が迎えてくれました。

漁協の受付がある「川の駅 上野」。営業開始前にはすでに10人以上の釣り人が並んでいましたが、予約してあるので焦ることもなく、受付を済ませて本谷へ移動しました。

朝8時の気温は14℃、本谷の入渓点の水温は11.2℃でした。曇天のせいでしょうか、肌寒く感じました。谷筋に咲くツツジの紫が水の流れに彩りを添え、どこか雅やかな春の風情を漂わせています。予約してある区間を目指して林道を歩きながら、見下ろす流れにはライズこそほとんどないものの、川床に浮かび上がる魚影が確認できます。

ドライフライに簡単に反応してくれそうだと思って釣りを開始しましたが、どうやら甘く見ていたようです。最初の一投こそ感心を示してくれましたが、以後魚たちはまったく反応すらしません。ティペット(ハリス)をより細く長くして、次のポイントに慎重にアプローチします。先ほどより反応は良くなりましたが、されど簡単にはフライを咥えてくれません。それでも細心の注意を払い、集中して釣りをするとポツポツと釣れてくれるようになりました。

ふと、足元のプールの駆け上がりに沈んでいる岩盤に目をやると、エゴ(窪み)から顔を出しているのは、目を疑うほどに大きなヤマメ。40cmくらいはありそうです。目線は水面に向いていないようなので、フライを流れに馴染ませ沈めてみると、チラ見はするけれど口を使ってくれません。その姿にすっかり夢中になって没頭すること2時間以上(もちろん何度もフライを流さないで間をおいています)経っていました。13時までは貸し切りですので、他の釣り人に気を遣う必要もありません。あっという間にお昼になっていました。

午後になり、一度林道に上がって入渓点に戻ってから、同じルートを辿りました(13時からはフリー区間となるので、好きな場所に入って釣り上がれます)。狙いはもちろん件のヤマメ。そっと覗いてみると彼(彼女)は同じ位置にいます。十分に熟考していた成果でしょうか、狙いすまして送り込んだフライを素直に追ってきてくれました。鼻先で焦らすようにステイ、次にスッとフライを浮上させると口を開けて反転! したのですが、水面を割ったのはフライだけでした……。

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