「48坪の田舎の土地」を老人4人が押し付け合い。うち1人は認知症でそっとフェードアウト…毎年の固定資産税「11万円」、年金生活に痛い痛い出費【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

亡くなった人が不動産を所有していた場合、不動産の名義変更が必要になります。この名義変更の手続きを「相続登記」といい、2024年4月1日から義務化されました。本記事では、Eさんの事例から不動産の相続における注意点をFP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。

「あなたの土地です」と言われても…

日本国内では、所有者不明の土地が増加しています。

適切に管理されていないことで景観や治安が悪化したり、災害時に損害を発生させたり復旧の妨げになるなど、社会的・経済的な問題を引き起こしているのです。国土交通省の報告(令和4年)によると、所有者不明土地の割合は、日本全土の約24%にも上ります。この問題を解決するため、令和6年(2024年)4月から、相続による土地の所有権変更を登記することが義務付けられました。

登記をしていなかったことによって重い負担を被ることになったEさんの事例を紹介し、不動産登記制度と今回の改正についてお伝えします。

<事例>

Eさん:67歳 女性 無職 年金生活 (両親、兄姉は他界)

本事例の問題である「A土地」…… 面積:161m2、地目:ため池(区画整理後は雑種地)

A土地の共有者(持分は1/4ずつ)登記事項証明書に記載された名義

・Eさんの父:20年前に他界

・Nさん:66歳 代々、相続登記をしているが遠方に住んでいる

・Sさんの父:子であるSさん(87歳)は、同じ町内の施設に入居中(認知症)

・Wさん:大正12年当初の登記のまま、以後の移転登記はなし

固定資産税評価額:約800万円、年間固定資産税:約11万円

父が亡くなって20年……共有名義の土地があったなんて知らなかった!

Eさんは、地方の自然豊かなところで生まれ育ち、結婚後も実家の近所に家を建てて暮らしてきました。そんなEさんのもとへ、Nさんから手紙が届きます。

内容は、「亡くなったあなたのお父さん、ほか2名(Sさん、Wさん)とA土地を共有している。ため池だったA土地が、区画整理により地目が雑種地扱いとなり、固定資産税が課せられることに。共有者代表とのことでこちら(Nさん)に納税通知書が届いているので、相談したい」というものでした。

Eさんの住む地域は、最近住宅も少し増えていますが田畑が多く、父の代までは農業で生計を立てていました。A土地は、もともとため池で、大正12年に登記される前から近隣の田畑を所有する4軒が先祖代々農業用水確保のために所有していたようです。

Nさんも、もともとEさんと同じ地域で生まれ育ち現在は遠方に住んでいますが、いまもこちらに親戚が残っているので、共有者の1人の子孫としてEさんのことを聞いて連絡したとのことです。地域の繋がりも強く、昔から住んでいる人はお互いのことをよく知っているので、調べていくうちにいろいろなことがわかってきました。

ため池は、随分前に埋められていましたが、父が亡くなったとき、跡取りとして兄が相続したので、亡くなったEさんの兄はA土地のことを知っていたのかもしれません。また、6年前に亡くなった母も認知症になる前にA土地の話をしてくれたことはありませんでした。

この先、持ち分に応じた固定資産税を負担するより処分したいが…

「ため池」は固定資産税非課税(地方税法第348条)のため、いままでNさんはなにも連絡してこなかったようですが、区画整理後に割り当てられた土地は雑種地で固定資産税もかかるし、不要なので持ち分を買い取って欲しいということも書いていました。しかし、Eさんにとってもこの土地は不要です。

Eさんの持ち分だけ処分したくても、他人と共有する土地なんて誰が欲しがるでしょう……。4人全員の持分をまとめて誰かに売却できるものなら、そうしたい。

いずれにせよ、亡くなった父の相続登記をするために(Eさんの兄姉も亡くなっているので)相続人である義姉、義兄と甥や姪、その子ども15人の協力が必要です。

A土地は身内だけならまだしも、他人と共有しています。ほかの共有者、Sさんの子孫の1人が残っていますが、認知症で介護施設に入居中で、家族は同じ町内に住んでいません。ほかの相続人も探してもらう必要があります。Wさんは100年以上前から名義が変わっていないので、近隣の同じ名字の子孫と思われる家に尋ねあたり、今回の事情を説明しなければなりせん。一体何人の相続人がいるのか、協力してくれるのか……。

手続きしなければ、この先ずっと固定資産税を払い続けることになります。相続人の調査、(相続人がいないとき、相続財産管理人選任)を弁護士に依頼する場合費用もかかります。

認知症のため後見人選任が必要だから、とみんなが協力してくれるかどうかはわかりません。事情を知ったEさんの家族も、自分達の代までこの問題を遺さないで欲しいとのことで、どうすればよいのか、労力と費用を考えると気が遠くなってしまったそうです。

不動産登記とは?

そもそも、不動産登記とは、土地や建物などの不動産の所有権や権利関係を公的な記録として登録し、不動産取引の安全に、円滑に行うための役割を果たしています。

登記簿に記載されている事項

表題部(表示に関する登記)の記録事項

土地……所在、地番、地目(土地の現況)、地積(土地の面積)など

建物……所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積など

マンションなどの区分建物については、その建物の敷地に関する権利(敷地権)

権利部(甲区)の記録事項 所有者に関する事項

所有者は誰で、いつ、どんな原因(売買・相続など)で所有権を取得したか、など

(所有権移転登記、所有権に関する仮登記、差押え、仮処分など)

権利部(乙区)の記録事項 所有権以外の権利に関する事項

住宅ローンを利用した際などの抵当権設定、地上権設定、地役権設定など

誰でも法務局に行って手数料を払い「登記事項証明書」を取得すれば、どこの誰がどんな理由でここを取得したということがわかります。また、オンライン(登記情報提供サービス)でも登記簿に記載されている事項を確認することができます。権利の登記をするかしないかは、任意です。

登記には「公示力」「対抗力」はあるものの「公信力」はありません。公信力とは、登記を信頼して不動産の取引をした者が、それがたとえ名義人が本当の権利者ではなくとも、規定どおりの要件のもと、その権利を取得することが承諾されることです。

住んでいる家を相続し、所有権が移転した場合、登録免許税(登記にかかる手数料)を負担してまで登記をする必要がないと考え、代替わりして住まなくなりそのまま放置してしまい、誰が所有者なのかわからなくなるといった問題が発生しています。

改正により登記が義務化

令和3年の不動産登記法の改正で、相続等により不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければならないとされました。そして正当な理由がないのに相続登記の申請を怠ったとき、10万円以下の過料に処せられるという罰則まで設けられました。

令和8年4月1日から住所等の変更登記も義務化され、不動産の所有者は、住所や氏名に変更があった日から2年以内にその変更の登記を申請しなければなりません。

[図表]「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し【民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 出典:法務省

誰が相続するか決まらないといったとき「相続人申告登記」という簡易な方法も新設され、罰則は免れることはできますが、不動産の処分をするには相続登記が必要です。Eさんのように、固定資産税納税通知書もなくて、不動産を所有していること自体知らなかったというケースもあれば、認知症になってしまって子どもに所有不動産の存在を伝えられないということがあるかもしれません。

財産相続に関することは、一朝一夕に整理できません。日ごろのコミュニケーションで情報収集しておくことも大切です。

<参考>

(ため池固定資産税非課税について)

法務省

国土交通省

伊藤 江里子

FP事務所 夢咲き案内人オカエリ 代表

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