虹のコンキスタドール・岡田彩夢 × るぅ1mm『友人の式日』対談 「大好きな友達の力になれるのは嬉しい」

この感情は、恋か友情か。この関係性には何と名前がつくのか。そんな葛藤を抱く4組の少年たちの心の中を、繊細かつ鮮やかに描き出す、漫画家・るぅ1mmの新作『友人の式日 るぅ1mm作品集』(以下『友人の式日』、双葉社)が3月21に刊行された。本作は、前作『怪獣くん』に続く新たな青春の物語で、学園、ホラー、ラブコメ、サスペンスなど、多くのジャンルにまたがった短編集である。

その発売を記念して行われた今回の対談相手は、虹のコンキスタドールのメンバーである岡田彩夢。現役アイドルとして活躍しながら大学院で近代文学を研究し、さらにイラストや文章などの創作活動も行う彼女は、元々るぅ1mmとは親しい友人関係にあるという。今回の対談では、二人の出会いや関係性から、本作品集を通して見えた、作家・るぅ1mmの魅力に迫る。(南 明歩)

■岡田「最初にイラストを見かけてからずっとファン」

――まずは、お二人の出会いのきっかけを教えてください。

岡田彩夢(以下、岡田):2019年に、私がるぅさんに生誕グッズのデザインをお願いしたのが始まりです。元々pixivでるぅさんのイラストを見ていたので、「グッズのデザイン頼みたい人いる?」ってマネージャーさんに聞かれたとき、「るぅ1mmさんで!」って即指名させてもらいました(笑)。そのとき作ったパーカーは今も大事にしてます。

るぅ1mm(以下、るぅ):嬉しい! ありがとうございます。

――元々岡田さんがるぅさんのファンだったんですね。

岡田:最初にイラストを見かけてからずっとファンです。るぅさんの絵は、輪郭の丸みと手の柔らかさ、あとアナログの筆致の感じが好きなんですよね。Instagramに色鉛筆で描いた絵を載せているのを見たんですけど、線に無駄がなくて、でも柔らかい感じがあって素敵なんです。あとはキャラクターデザインとかも特徴的で個性がありますし……全部好きですね。私のファンの方も、私がるぅさんのこと好きなのを知っているので、2021年の誕生日にファンの皆さんからもらった寄せ書きアルバムの表紙がるぅさんのイラストだったんですよ(笑)。

るぅ:あれ、岡田さんのファンの方からご依頼いただたときはすごく嬉しくて、すぐ「やります!」ってお返事しました。PVとかお写真を見ながら、「可愛い~!」って言いながら描いて……幸せな時間でした。

岡田:でもこんなにフレンドリーに接してくださるとは思ってなくて。嬉しいですね。

るぅ:いや、それはこちらこそですよ!

――対面で会うのは今日が初とのことですが、お互いの印象はどうですか?

岡田:よく電話でお話したり、最近だとTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)を一緒にやったりしてるので、「あ、るぅさんの声だ!」って感じですね(笑)。ずっと温かくて可愛らしい声の人当たりの良い方だなと思っていました。

るぅ:私はとにかく可愛い! ですね。もう可愛いを纏ってますよね。これがアイドルなんだなぁと。

岡田:あと私身長が150cmないくらいなんですけど、多分るぅさんも同じくらいですよね。距離が近くて落ち着きます。

るぅ:そうなんですか! 私は周りに同じくらいの身長の人がいないので、近いと逆に緊張してます(笑)。

るぅ1mm「『友人の式日』は好きなものをたくさん詰め込んだイメージ」

――では、早速『友人の式日』のお話を伺いたいと思いますが、本作は るぅさんにとって3冊目の単行本ですね。どんな作品になりましたか?

るぅ:いま振り返ると、 1冊目の『バースデイ』は、商業作品として楽しむには、結構頑張って読んでもらわないといけない本になったと思っているんです。私が本当に描きたいものを自由に描かせていただいたので、未熟と言ってしまったら失礼ですが、原石的な本だったのかなと。

岡田:でも私は単行本としては『バースデイ』が一番好きです。あの本を読んで、るぅさんのこと「天才! 大好き!」って思うようになったし、友達にもめっちゃ薦めました。「あったかくて冷たくて柔らかくてトゲトゲしてて最高なんだよ!」って。

るぅ:『バースデイ』を好きって言っていただけるのは、驚きも大きいのですが嬉しいです。2冊目の『怪獣くん』は、出発点ですね。大学の卒業制作として描いたものなので、卒業を出発点とした始まりの物語というイメージです。すごく楽しく描けたんですけど、すごく大変でもあったので、次はまた好きなものを思いっきり描きたいなと。そんな気持ちで描いた漫画が集まっているのが、今回の『友人の式日』です。『怪獣くん』とは別の気合いの入り方をした本かもしれません。好きなものをたくさん詰め込んだイメージです。

――岡田さんは、『友人の式日』を読んでいかがでしたか?

岡田:収録されている4作品、全部違う味がするんですよね。私は書き下ろしの「友人の式日」以外は元々読んでいたので、対談が決まってから初めて「友人の式日」を読んだとき、「幽霊屋敷ラブロマンス」や「ななしの恋人」と一緒に、このお話が入るのか! と驚きました。どういう基準でこれらが一冊にまとまったのかなと思ってたんですけど、帯に“燦めく少年達の青春群像”と書いてあったので、納得しました。

――ラブコメっぽい「幽霊屋敷ラブロマンス」も、ピュアな青春ラブストーリーの「ななしの恋人」も、どちらも可愛らしい雰囲気の作品ですが、「友人の式日」は少し毛色の違うシリアスな作品ですよね。

るぅ:でも「ななしの恋人」のあとに「友人の式日」を読んでもらう流れでギャップを作れたのは、自分でも気に入っています。あれ、いいですよね(笑)。

岡田:いいです! もしかしたらびっくりする読者の方もいるかもしれないですが、私は大好きです。4作品全て違う雰囲気のお話なので、人によってどれが一番好きかは分かれると思いますが、私は「フランケンシュタインの友人」が一番好きなんです。ハカセの髪のふわふわ感がたまらなくて!

あと別部門で「友人の式日」も好きですね。幽霊になってしまった友人と再会する話って他にもあると思うんですけど、幽霊側の感情が動くものが多いじゃないですか。和解するとか生きているうちに伝えられなかったことを伝えるとか。でもこの「友人の式日」の瞬くんは何も動かないんですよね。相手が自分をどう思ってたかわかっても、自分は死んでしまっていて空っぽだから感情は動かない。それが新鮮で、幽霊物のお話の中でも納得感があるなと思いました。

るぅ:そこが、同じ幽霊物である「幽霊屋敷ラブロマンス」の幽霊くんとの違いなんですよね。瞬は、一也が望んだから出てきただけで、亡くなってしまった瞬間に舞台装置のような存在になっているんです。

でも、こうやって感想をもらえるのってすごく嬉しいですね。漫画を描いて本にしてもらって読んでもらうっていうことは、読者の方がいるということで、つまり自分だけでは完結しないわけじゃないですか。その感想が私の思ってたことと違っても面白いなと思うし、私もエンターテイメントとして面白さを受け取ってるところがあるので、そういう循環も嬉しいです。感想を言語化するって、もはや一つの創作物を生み出してるんですよね。そういうコストを使って返してもらえるのは、すごくありがたいです。

――ちなみに4作品の制作時期は、バラバラなのでしょうか?

るぅ:そうですね。「幽霊屋敷ラブロマンス」が一番古くて、全部半年から1年のスパンを空けて描いています。

■岡田「この世の関係性の中で、友達が一番好き」

――収録されている4作品は、自分の恋心に気づいたり、友情から恋愛感情に変わったりする瞬間を描いている点が共通していますよね。長い間同じテーマの作品を制作されてるということは、るぅさんの創作において、恋が大きなテーマなのかなと思いました。

るぅ:意識して描いたわけじゃないんですけど、読み返してみたら「全部同じこと書いてある!気持ち悪い!」って思いました(笑)。私は、「なんでだろう」って疑問に思うことが一つあったとしたら、「私はなんでこれが気になってるんだろう」ってさらに深めていって、「これが気になってたのかな?」って気づけたら、またそれを確認したりするんですよね。『怪獣くん』は最初からテーマを決めていましたが、今回は好き勝手に描かせていただいたので、完成したものを後から見て自分もこのテーマに気づきました。だから短編集として束ねることってすごく意味があるんだなと思います。

――友達もテーマの一つにあると思うんですが、お二人にとって友達とはどんな存在ですか?

岡田:私はこの世の関係性の中で、友達が一番好きです。家族もメンバーももちろん大事ですけど、世の中のみんなが大事にする恋愛とかは、私は友情に比べるとあまり魅力的に思えなくて。友達と話して刺激を受けたり、勉強になることを聞いて収穫を感じたり、それを創作に生かして……みたいな循環がすごく有意義だと思うし、成長している実感も持てます。たまに「彩夢ちゃんに言われたからこれ作ってみた」とか「メンタル持ち直した」とか言ってもらえると、本当に良かったなって。自分も力をもらっているし、大好きな友達の力にもなれてるっていうのは嬉しいですね。多分今が一番友達多いんですけど、今が一番人生楽しいです。

――るぅさんはいかがですか?

るぅ:友達かぁ……。私は友達ってどの関係性よりも曖昧なものだなと思ってるんです。友達ってたくさん種類があるじゃないですか。お仕事仲間とか、趣味の友達とか、一緒に遊びに行きたい人とか、旅行したい人とか、親友とか。本当はすごく細分化されているものだと思うんですけど、それを “友達”ってひとまとめにされている気がするから、どれを指して、何を言えばいいのか、正直わからなくて。

でも、そうだな。人は鏡っていう言葉があるじゃないですか。人からじゃないと見えない自分もいるし、私からしか見えない人の部分もあると思うから、そういうのを共有できたときにすごく面白いって思います。私は人間関係って自分を知るためにあると思っているんです。誰かと話すと自分のことがさらにわかるし、友達のこともわかる。そうすると嬉しくなるじゃないですか。だから知りたいんですよね。自分のことも人のことも、まだ全然知らないから、どんなことを考えてる人なのか知りたい。それで「この人はこういう人なのかも」って像が見えてきたときはすごく感動します。だからそういう友達関係が作れたらいいなって思うかもしれないです。

岡田:今の話、すごくるぅさんらしくて好きです。るぅさんの中の愛と好きって、すごく近くてすごく幅が広いんですよね。大きなカテゴライズの中に愛があって、その中の一つ一つの細々したものを作品に起こしている方だと私は思っているので、「友達ってどれを指して言えばいいかわからない」って言うのも納得だなと。

――芯が通ってる方だなと感じます。

岡田:私は本当にるぅさんの作るもの全てが大好きですし、TRPGとかで実際に関わるようになってからは、より人柄も好きになりました。電話で創作論とかの深い話をしたときもすごく丁寧に答えてくださって。いつ球を投げても、「はい!」って笑顔で返してくれるみたいなところがあるんですよね。

るぅ:それは投げ方が上手なんですよ(笑)。

■るぅ1mm「原作のある作品を漫画化したい」

――るぅさんは岡田さんの好きなところや尊敬するところはありますか?

るぅ:私は仕事がすごく好きだから、アイドルという身体を全部使って表現する仕事をされていることや、仕事への取組み方も尊敬していますし、イラストとか文章とか、色々なことを好きでやってる部分も尊敬しています。私も色々なことに挑戦してるんですけど、作ることの域は超えないので。あとは大学院まで行って勉強したいことがちゃんとあることとか、言葉や人生に関する考え方もすごく好きですね。この間、電話で「分人主義」の話をしたんですよね。

岡田:小説家の平野啓一郎さんの「分人主義」っていう考え方の話ですね。自分の中に色々な比率があって、たとえば、るぅさんに対する自分、別の友達に対する自分、親に対する自分ってたくさんの分人がいる中で、「この人といるときの自分が好き」って感じる分人の割合を増やすと生きやすくなるっていう考え方です。

るぅ:素敵じゃないですか? すごく興味深くて面白いなと思いました。

――そういった思想について語りあえる、お二人の関係性も素敵だと思います。

岡田:貴重ですよね、こういう話に興味ない人も多いと思うので。るぅさんとは別にすごく長い時間お喋りしてるわけじゃなくて、たまに数時間お喋りする程度なんですけど、急にそういう話になったのは、もしかしたらお互いに見えてる世界や考えていることが近いのかなと思います。

るぅ:確かにそうですね。

――今後、何か二人で一緒にやってみたいことはありますか?

るぅ:あ、あります! 私、実は原作のある作品を漫画化したい気持ちがあって。岡田さん、小説とか最近書いてますよね?

岡田:え! あ、最近小説を書く練習をしてるんです。子どものころの最初の夢が小説家だったんですけど、しばらく筆を折っていたんですよ。でも周りに押されて去年あたりからまた書き始めて、エッセイを書いて文芸誌に載せていただいたり、気づいたらTRPGのシナリオまで書いてたりして(笑)。だから今年も小説書く練習いっぱいしようと思ってたんですけど……え、それって私の物語を漫画家してくれるってことですか? いいんですか? やりたいです!

るぅ:共作やりましょうよ! 岡田さんに書いていただいた小説を私が漫画化する形でもいいですし、プロットをいただいく形でも大丈夫ですし。

岡田:あ、でも私としては、るぅさんと一緒にお話を考えたい気持ちもありますね。登場人物はこういう感じで、関係性はこうで……とか、二人で話し合って作るの、めっちゃ楽しそうじゃないですか?

るぅ:すごい楽しそう! 人が話を作るところに携わったことがあまりないので、すごく気になるし、興味あります。

岡田:あ、これはもう絶対にやりましょう。今から話を進めちゃいます(笑)。どんなジャンルがいいかな。学園ものとかはたくさん見てるから、SF系みたいな感じで宇宙が舞台のお話とか良いかもしれないです。ちょっと不思議な世界観の中で、人間の心の温かみみたいなものを描くるぅさんの作品が見てみたいですね。

るぅ:そういうテイストは自分だとあまり思いつかないので、ぜひこの機会に描いてみたいです。ぜひやりましょう!

(文=南 明歩)

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